研究発表③(前編)
「さて、昨日のデータをまとめよう。とは言っても、データなど昨日の動画が全てだ。今更、なにか変わったということもない。なので今回は、重要な情報だけでも伝えるとしよう。恋に重要なのは、事前準備や徹底的な計画ではなく、自分の気持ちをしっかり伝えることだということ。結果として、僕と優奈は付き合うこととなった。また何か進展があり次第、動画を撮ることにするよ」
こうして、僕は動画を撮りながら昨日のことを考えた。未だに、彼女と付き合ったなど信じられていない。『事実は小説よりも奇なり』とは言うがここまで奇妙であると、信じることもできない。それから、大学院では、彼女と会うことはあったが、少し頻度が減っている気がする。会うといつも通り話すので、心配はいらないと思うが、少し怖い。
そんな不安を抱えながら生活をして数日、彼女からLIMEが届いた。
「今度、カラオケに行かない?」
「でも行ったことないよ」
「じゃあ、一緒じゃん」
僕は、安心した。恋人同士なのだから、二人で出かけることは当たり前なのに、もう彼女とは、今後どこにも行けないと心のどこかで思っていた。ただ、彼女がカラオケに行ったことがないというのはにわかに信じがたいが、嘘をつくとも思えないので、今回は何も考えずに行くことにする。
当日
不思議と前回のような、緊張感はなく、リラックスして迎えることができた。カラオケにも予定の20分前に着き、それから少し後に彼女もやってきた。
「あっ、優奈、こっち」
「おまたせ〜、待った?」
「いや、僕も今来たところ」
「そういえば、あの日だけじゃなくて、今日も夕奈って読んでくれるんだね、夕斗」
「そっちもじゃん」
そして僕たちは、笑い合いながらカラオケへと入った。
そのまま、受付を済ませて、カラオケボックスに直行した。
「今日もちゃんと動画を撮ってよね」
「撮るよ、けど、優奈から言い出すなんて珍しいね。何かあったの?」
「えっ、いや〜、今日初めてのカラオケだし、記念にと思って、夕斗もそうでしょ。」
「まぁ、そうだね」
「じゃあ、どっちが一曲目歌う」
「ここは、レディファーストだからね。記念すべき、一回目を譲ります」
「絶対、歌いたくなかったからでしょ。まぁいいよ、こっちは高校で音楽を選択してたんだから、授業の成果、見せてあげるよ」
そう言い、彼女はマイクを手に取った。確かに、彼女の歌声は洗練されていて、音程も完璧で、点数も95点と高得点だった。ただ、休憩地点では、咳をしており、少し苦しそうだった。彼女は普段大きな声を出さないタイプだからだろうか。
そんなことを考えているうちに、僕の番がやってきた。僕は、歌をあまり聞かないので、適当に有名そうな曲を選んだ。
「えっ、夕斗、その歌、歌えるの」
「あれっ、これもしかしてめっちゃ難しいやつだったりする」
「だったりする」
夕奈に言われた通り、この曲は本当に難しかった。得点もあまり伸びず、75点止まり。
夕奈からも
「うん、個性的な歌声だね」
という、一言だけだった。こんなことなら少し、計画を立ててから来ればよかった。
その後、また彼女の番がやってきた。ただ、音程は完璧だったが、歌いながらも咳をするようになり、本格的にまずい状況になってきた。彼女が歌い終わった頃に、
「夕奈、今日はなんか体調が悪そうだから、今日のところは帰ってまた今度にしよう」
「いや、私は大丈夫だから。はい、次は夕斗の番だよ」
「いや、さすがに今日は無理だよ。フロントに連絡するね」
そういうと、僕は受話器を手に取った。その瞬間、彼女が叫んだ。
「いやっ、今日をまだ終わらせたくない」
こんな彼女は今まで見たことがなかった。
「そして、もっと夕斗との思い出を…」
そう言いかけた時、彼女は倒れた。僕は、一瞬の出来事に理解が追いつかないまま、後悔はしたくない一心で『119』 にかけた。それから少し経った頃、救急車が到着した。そして、僕も同伴人として、病院に向かうこととなった。
もともと持病持ち 最近はひどくなっていて、最後の楽しみとして 自分の病気を治すために研究を 生物の研究をしているのにも関わらず、気づかなかった後悔が募る、最後のトドメを刺したのは紛れもなく、僕だった
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