研究発表②(前編)

「どうして、こうなったんだ。もちろん、嬉しくないと言ったら嘘になるが、いくらなんでも展開が早すぎる。私なんて友達とは愚か家族ともディスティニーランドに行ったことがないのに。まぁ、過ぎたことを考えていても仕方がない、決戦の日が少し早まっただけだと思えばどうということはない。一旦、ディスティニーランドについての情報をまとめるとしよう」


ディスティニーランドとは、世界的に有名なディスティニーの世界をモチーフとした、テーマパークである。しかし、ただディスティニーの世界を再現しました、というわけではない。そこには、不意に現実に戻さないようにするための徹底した設備と環境管理、舞台裏でもキャラを演じ続けている演者、いつどこでも笑顔を絶やさず、世界観を崩させないキャスト、そして、誰も気づかないようなところまで原作を再現しているアトラクションの数々。これこそ、世界のディスティニーと呼ばれる所以である。ただ、いいことばかりではない。ディスティニーは恋人たちの間では、『運命のテーマパーク』とも呼ばれている。行ったことがない人には、わからないだろうが、ディスティニーの待ち時間は長い。平均して1時間、人気アトラクションともなると、優に3時間を超えることも当たり前だ。相性が良ければ、この時間をとても楽しく過ごせるはずだ。ただ、相性が良くなければ、地獄の時間を過ごすことになるだろう。ここは、恋人たちのこれからの運命が左右される場所なのである。


「それでは、これからの対策を立てていこう。これを見ている者の中にはただ楽しめばいいとか、対策なんて大袈裟だとか、そう思う者もいるだろう。しかし、考えてみてほしい。例えば、共通テストなど、人生を左右する大きなイベントで何も対策をしないという方がおかしな話ではないか」

それから僕は、女性との距離の詰め方を考えることにした。こういう時は心理描写も細かく書かれている恋愛小説が参考になるだろう。僕は、この数週間で純愛ものからハーレムもの、NTRものまで幅広いジャンルを読み漁った。

「私は、この数週間で女性が「ドキッ」とする瞬間には、いくつかの共通点があることを見つけた。


①男らしい姿を見せた時

②吊り橋効果による錯覚

③自分たちの本当の気持ちを共有した時


この3箇条を徹底していけば、相手が惚れること間違いなし。私はこれまでの恋愛小説の知識からこのことを確信していた。もし今回、この作戦が成功したら、恋のパターンA,B,Cと名づけ、研究の成果として発表しよう」

「次に、アトラクションの回る順番について考えよう。ここで、重要となるのがアトラクションの待ち時間だ。たとえ、どれほど人気なアトラクションといえども、必ず空いている時間があるはず。そこで、僕が目をつけたのは6時以降に行われるパレードの時間帯だ。ディスティニーのパレードは季節ごとにやる内容が異なり、1番のビッグイベントだ。この時間帯は、どのアトラクションも空いているため、チャンスはここしかない。このときに、ディスティニーの目玉である、ヒューズファイアーマウンテンに乗ることにしよう。ただ、彼女の意見もしっかり取り入れるべきなので、その他の回り方については、当日に話し合いながら決めることにしよう」

一通り言い終えると、僕は動画を止めた。徐々に近づいてくる決戦の日に準備を進めているが、心の中の不安は残ったままだ。だが、もう後には引けない。


当日

決戦の日がやってきた。昨日は、あまり寝ることができなかったが、なぜか目は冴えている。夕奈とは、ディスティニーの最寄駅で待ち合わせをすることとなっている。彼女は、いつも通り、待ち合わせ時間のギリギリに到着するだろうから、僕も10分前に駅に到着することにして彼女のことを待つとしよう。

電車の中では、今までまとめてきた情報の総確認をする。書いてあることは全て覚えているが、心を安心させるため、何度も何度も読み返す。こんな経験を受験後にも味わうなんて思ってもいなかった。

予定通りの時間に最寄駅に着いた。早朝だというのに、構内は人でごった返していて、ディスティニーの恐ろしさの片鱗を味わった。今から少し離れたところで彼女を待ち、来たと同時に僕もちょうど来た風にして、負い目を感じさせないようにしよう。

そうして僕は、駅を出て、ディスティニーとは逆方向の出口で待とうとしたとき、優奈の姿を発見した。ただ、彼女は一組の男女から話しかけられていた。おそらくナンパだろう。僕の甘い考えのせいで彼女を困らせてしまった。最悪なスタートになってしまうかもしれないが、彼女を助けることが最優先だ。そうして僕は彼女のもとにかけていった。

「すみませんっ!その子、僕の連れなんで離れてください!」

僕は、彼女の手を取りながら、彼らに言い放った。そして彼女とその場から離れようとしたとき、彼女は焦った様子を見せていた。彼らも笑いを必死に堪えている素振りを見せている。


「加賀美くん、ごめんね。この子達ナンパじゃなくて、幼稚園から高校までの幼馴染なの。付き合ってたことは知らなかったけど、、明那もまだ私たちそんな関係じゃないから」

「優奈の彼氏さん、頼もしいね。これなら優奈を任せても問題なさそうだ。けど、少しくるのが遅いんじゃないか?彼女は、20分前にはこの場所に居たぞ。今日は彼女のことをしっかり考え、見てあげてくれ、」

僕は、初対面の人になぜこんなにも馴れ馴れしいのかと思ったが、彼の言葉には間違いはなかった。ただ、他にも言いたげな様子だったが、優奈に気を遣ったのか、言葉を止めた。

「明那ってば、まだ私たちそんな関係じゃないから」

「まだってことは〜?」

「華菜も!変なところつかなくていいから」

その後、彼らは、私たちはお邪魔なようで、と言ったまま、逃げるようにディスティニーに向かった。僕はこの状況にあっけを取られていたが、彼女の怒った姿を見せてくれた彼らには感謝しなければならない。

「じゃあ、私たちも向かおうか」

「あっ、そうだね。向かおう」

彼女に声をかけられ、我に帰った。それと同時に、今までの行動がフラッシュバックした。先程までの行動は少し、いやかなり恥ずかしい。パターンAとか考えている場合ではない。きっと、彼女も引いている。

「ごめん、さっきの行動は忘れてほしい。なんかすごく恥ずかしいから。ほんとにナンパにかかったんじゃないかって焦って、あんな行動を」

「いや、忘れないよ。だって、あんな加賀美くん、初めて見たもん。すごくかっこ良かった。けど、男女でナンパは、ありえないでしょー」

彼女は、笑っていた。彼女が笑ってくれたなら、さっきの行動も無駄ではなかったと思った。


ゲートに向かう間、彼女との会話は続いた。幸先は好調である。

「そういえば、動画撮ってるんだね。なんで?」

純粋な疑問を投げかけられた。けれど、本当のことは答えられない。もちろん、言い訳は考えてある。

「せっかくの初めてのディスティニー。動画に残しておきたくて」

「ちゃんと、私も写してよ。動画を見たら、思い出せるよう」

「うーん、考えとく」

そんな他愛もない話をしていたらディスティニーのゲート近くに着いた。このゲートを潜り抜けた瞬間、僕の戦いが始まる。




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