研究発表①(始まり)

「おーい、これ撮れてるのかな?私の名前は加賀美夕斗、大学院で生物と科学の研究をしている。私も今年で24になるのだが、最近、変な感覚に襲われる。その原因なんだが、同じ研究室で生物と医学を学んでいる女性だと思われる。名前を小鳥遊優奈というのだが、彼女はいつも笑顔である。なので、私も話すと自然と笑顔になったりというか、なんというか。まぁ、こんな感じに今の感情は言葉で表現できないんだ。彼女いない歴=年齢で研究にしか目がない私にはこの感情は不可解なものである。この感情を調べると同時に私は彼女にアプローチを仕掛けていきたい。もちろん研究者らしく、未知への挑戦としてね。動画は、参考資料として、実際に彼女と会う機会に回していこうと思う。今やっている、研究もまだ時間がかかりそうなので、並行してやっても特に問題はないだろう」

やはり一人称が私なのは違和感がある。研究者らしく使ってみたのはいいものの、普段使いはできなさそうだ。動画以外でも使いこなせるようになった頃には、僕も立派な研究者になっている頃だろう。


数日後

「彼女と数名の男女で、次の休みにそれぞれの研究の進捗発表会としてファミレスに行くことに決まった。これはまたとないチャンスだ。今回の目標としては、普段の自分と彼女がいるときの行動や心境の違いについて調べていきたいと思う。だが、ファミレス内で動画を回していたら、不審に思われてしまうだろうから、今回は事後報告だけさせてもらう」

その後、僕は馬のような足取りでファミレスへと向かった。浮かれていた僕は、30分も早く現地に着いてしまい、人が行き交う大通りで、ただ一人待つこととなった。その後、続々とメンバーが集まり、自分の研究をどれだけ発表したいんだよ、などといじられつつも、あとは小鳥遊さんを待つだけとなった。僕は、彼女に何かあったのではないかと心配になったが、予定の時刻に彼女も到着した。彼女の焦っている姿は、普段の落ち着いた雰囲気からは想像もつかなかったので、僕は思わず、可愛いと口に出しそうになってしまった。その後、ファミレスへと入ったが、隣の席には、座れなかった。だが、同じ机で食べれただけ良かったと思う。彼女の食事の様子は上品で、料理を取る姿には迷いがなかった。一種の暗示にかかっているような、宝石に目を奪われている気分だった。僕は暫くの間、放心状態にあったのだろう、途中でメンバーに声をかけられ我に返った。急いで自分の料理に手を付けたが、食べ方は汚くないか、しっかり会話に参加できているのか、など普段なら気にも止めなかったことにも気を使ってしまい、そこからの記憶はあまり思い出せなかった。


「さて、これから事後報告と調査結果について話したいと思う。単刀直入にやはり彼女が関わってくると、私の行動に変化が見れた。特に変化が見られたのは、食事の時だ。彼女が近くにいるというだけで、ずっと目で追いたいと感じてしまい、誰かが声をかけてくれなければ、今頃、変態のレッテルが貼られていただろう。それに加え、自分自身の行動にもいつもの数倍は気を使ってしまっていた。これも恋の力だというのだろうか。今回で私が彼女に恋をしたということは確定した。次の機会があれば、私は彼女にこの気持ちを伝えたいと思う」


事後報告を終えた後の僕は、ベッドに吸い込まれるように倒れ込み、眠りについた。次の日、僕はいつも通り起き、スマホの画面を確認したのだが、信じられない光景を目にした。なんと、彼女とLIME交換をしていたのだ。しかも「今日は楽しかった、またどこかに行きたいね」という、メッセージ付きである。これは昨日の実験は大成功だったと言っても過言ではない。しかし、ここで油断をして、メッセージを返してはならない。急に、「ディスティニーランド(世界的なテーマパーク)に行こう」などと返信してしまったら、こいつはすぐ女を誘うやつだと思われるだろう。そのメッセージ一つで、僕の評価は地の底に落ちる可能性だってある。ここは慎重に言葉を選ぼう。


「そうですね、私もとても有意義な時間を過ごさせていただきました。またの機会がありましたら、そのときはよろしくお願いいたします」

これでは、少し表現が硬すぎて、関わりづらいと思われてしまう。《却下》


「せやね、僕も楽しかったよ。ほんま小鳥遊さんと話していると心が弾んでしまうんやけどww 次の機会では、もっとお話しましょ。」

表現はかなりフランクになったが、こんな誰がどう見てもおかしいエセ関西弁だと、彼女が本当の関西人だったときにどう思うだろうか。きっと、怒られて嫌われてしまうに決まっている(偏見) 《却下》


「そうだね、僕も楽しかったよ。小鳥遊さんと話していると、自然と僕も楽しくなってくるよ。もしよかったらなんだけど、君ともっと話したいから月末にでもディスティニーにでもいかない」

おー、これはいい感じ。明るく、話しやすそうな印象に加え、こちらの気持ちも簡潔にを伝えられている。初LIMEはこんな感じでいいって、誰かが言ってたような気もしてきた。よし、《送信》っと。 あれ、なんで最後の一文にディスティニーなんて、、考えが混乱して、本当の気持ちまで書いてしまったのか。そんなことより、今すぐ送信取り消しって、もう既読がついている。なんで、こんなにも既読が早いのだ。あー、次の機会などもうやってくることがなくなった。もう終わりだ、僕の研究『完』


ピコンッ「いいね、行こう。私も加賀美くんともっとお話したいって思っていたの」

こうして、彼女とディスティニーに行くことが決まった。

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