第6話 ラブレターと小さな嫉妬

「久城くん、私と付き合ってください!」


 目の前で黒髪のショートヘアの女の子が頭を下げている。顔はよく見えない。

 ついに来ちゃったよ…!

 初めて登校した日の放課後。同じクラスの女の子に呼び出されたため、周りの人に場所を教えてもらいながら体育館裏に来たが、これが用事だったのか。

 確かに俺に告白してくれた彼女の口調からは必死さが感じられるが、どうして今日会ったばかりの男にそこまでできるのだろうか。


「ごめん、よく知らないきみとは付き合えないかな」

「——そう、だよね…。なんだかごめんね、会ったばかりなのに。気にしなくていいよ」

「いや、いいよ。俺のほうこそごめん。きみの気持ちに応えられなくて」


 さてと、これで話は終わりだし、帰るか…。振り返り、数歩進むが、俺は足を止めた。先の女の子が、必死に声を抑えて泣いているのが見なくても分かった。


「——きみ、家は近い?」

「え、う、うん……」

「じゃあ送っていくよ泣いている女の子を一人で家に帰すなんてできないでしょ…?」

「ありがと…。やっぱり私、久城くんのこと好きだな」


 涙を拭いて赤く腫れあがった目で笑みを浮かべてそう言ってきた。


「行こうか」


 彼女は俺の手をとり立ち上がり、再び笑みを浮かべた。


・ ・ ・


「ただいまー」

「いつからここがアンタの家になったのよ」

「えっと、2日くらい前…かな?」

「はぁ…。ご飯できてるから早く手を洗ってきなさい」


 ため息をつくが、色々言いながらもご飯を用意してくれている幽香ちゃん。その優しさにシビれるぅ!

 靴を脱ぎ、手を洗い終えた俺は食卓に運び終えられていた食事に手をつけた。


「幽香ちゃんって意外と料理上手なんだね」

「意外とってなによ」

「可愛くてスタイルよくて家庭的…流石俺の嫁候補!」

「それは嫌」

「真顔で即答⁉︎」

「それに、アンタ…告白されてたでしょ」


 それを聞いた瞬間、口の中のものを吹き出しそうになった。


「なんで知ってるの…っ」

「クラスの人に訊いたのよ。体育館裏に行こうとしてたってね」

「あぁー、見られちゃってたのか」

「まぁね。でも、告白って気づいたからすぐに帰ったわよ。話は聞いてない」

「そっか」


 もしかしてあれじゃないの?俺と幽香ちゃんってもしかして脈アリ!?今は平然を装ってるけど、俺とあの女の子がどうなったのか気になってるんじゃないの?俺が他の人にとられるのが嫌だって心配してる⁉︎


「もしかして、幽香ちゃん、心配してるの?」

「そりゃ…まぁ…心配よ」


 ほら!最近の若い子は素直じゃないねぇ。

幽香ちゃんが俺のこと好きなんて、出会う前から知ってたんだって。俺の考えをよそに、彼女は続けた。


「——アンタの本性を知らずに、付き合おうとしてる女の子の今後が心配よ」

「…え?心配って、俺が他の人にとられるとかじゃなくて?」

「何言ってるの?当たり前じゃない」

「またまたー、ご冗談をー」

「いや、冗談なんかじゃないから」

「そっか…」


 これ以上は何も言葉が出ず、ただ黙々と食事を続けた。

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