第7話 二枚目騎士と初めてのお仕事

「あっちに逃げたわよ!」


 幽香ちゃんが指差す方向の路地裏にいるのは、楕円形だえんけいで黒い謎の物体。彼女曰いわく、その悪霊らは暗闇に紛れるようにして生息しており、夜な夜な人間を襲っているとのことだ。


「くそっ、あいつ意外と素速いな!」


 深夜二時。幽香ちゃんに引っ張られて外に出たのはいいものの、悪霊退治だったとは。もっとこう、夜中に起こされて外にまで連れてこられたんだから、えっちぃこと期待してましたよ。あー!もう!こんなことを考えてたら、あの悪霊に腹が立ってきた!


「俺と幽香ちゃんの時間を返せ、クソ悪霊がよぉっ!」

「……イマナンテイッタ」

「え?いや、だからクソ悪霊って……え、喋ったぁぁあ⁉︎」

「当たり前よ、あれでも元は人間だったんだから。これについては例外は無いわ」


 気づけば、悪霊は逃げることをやめてこちらへと向かってきていた。それを見てひるむ俺に対して、幽香ちゃんは一切動じていなかった。相変わらず、銀の長い槍を構えている。そんな彼女の姿を見た俺は、逃げることをやめて悪霊から目を逸らさぬようにした。

 カサカサと高速で移動してくる悪霊——。


「よく見たらゴキ●リみたいだね……」

「うっ…そんなこと言わないでよ。だんだん、それに見えてきちゃったから…」


 少しずつ幽香ちゃんが後退りしているのに気付いた。もしかしてゴ●ブリって禁句だった? 槍を握る手も震えて、力が込められていないのが分かった。——これじゃマズイ!そう思った時にはもう遅く、目の前まで来た悪霊が幽香ちゃんを突き飛ばした。

 そのまま悪霊は、俺を無視して彼女のほうへ向かう。建物の塀に叩きつけられた彼女は、痛みのせいで立ち上がれそうになかった。もちろん、俺も恐怖で体が動かないってわけであって、とてつもなくピンチです!


「ミコハゼツメツサセル……」


 幽香ちゃんに向けられた刃のように鋭い爪。それは勢いよく振り下ろされ、いとも容易たやく腹を貫いた。そして、口から大量の鮮血が飛び出る。


「楓!?なんで!」

「…初めて俺のこと名前で呼んでくれたね…」


 ——不思議だ。恐怖で動くはずのなかった体が、無意識のうちに動きだすなんて。ジワジワと腹部から血が溢れ出てくるのが分かる。

 だんだん息が荒くなり、立っているのも限界になってきた。


「この体、結構痛み感じるんだよね…」

「なんで私を庇うの…⁉︎」

「分からない。——けど、女の子には怪我してほしくないから…。ほら、早くコイツを倒してよ……」


 そろそろヤバいかも…二回死ぬと人ってどうなるのかな…。


「この人形は高価なものなのよ。覚悟しなさい悪霊!」


 幽香ちゃんは最後の力を振り絞って立ち上がり、足元をふらつかせながらも槍を悪霊に刺した。


「彷徨える悪の魂よ…散りなさい」


 槍の先が光を放ち、悪霊は霧散していった。

それとともに俺の意識も薄れ、その場に倒れた。人の為に何かをして、こんな仕打ちを受けるなんて…。まぁ、俺が今まで犯してきた罪と比べれば全然軽いか…。でもまだ幽香ちゃんの胸を生で拝めてないんだなぁ…。

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