十五話・事件前の君とお昼ご飯?

「み、見てくれあそこのグループ、聖クリスティ生徒会長の枢木様がいらっしゃるぞ...! 確か彼女は2年生なのに何故...」


「それもそうだが、女子バスケ部で一躍有名な桜坂様、それにあの橘様までいるぞ! あ、あれが世にも珍しいギャルというものか...!!」


と、俺達の周りのテーブルに座る他グループの男子諸君がざわつき始めている。


女の子達は皆んなさま付けで呼ばれているのか、それよりも世にも珍しいギャルって。

まぁ、彼ら彼女らの世界ではそうなのかもしれないけど。


「クッソォ、エド様が羨ましいな、あんな美少女達に囲まれて。」


「あぁ、しかしあの辻堂とかいう奴もだ。アイツはエド様と何故か仲良く出来ているし、枢木様達とも普段から交流があるように見える。」


「敵だな」


「あぁ、アイツは敵だ。貧乏な家に生まれたくせに運だけで良い思いを...」


おいおい、黙って聞いてればめちゃくちゃ言うじゃん? 俺達男同士の仲間だろ?

けれど、今俺に愚痴ってた男子二人も何処となく育ちの良さを感じるせいか、悪口を言われてる気がしないな。


そんなふうに俺が周囲の反応に聞き耳を立てていると、軽い笑みを浮かべて枢木さんが話を切り出す。


「何だか目立ってしまってるようですね、それはそうと、早速始めましょうか」


アリス会長が言い終えると、桜坂さん、橘さんがコクリと頷き、その三人は用意していたのか、可愛らしいエプロンを着る。


「あの、それって?」


「フフ、見たら分かるでしょう? 昼食は私達三人で作るんですよ、誰が一番美味しいお料理を作れるかを賭けて」


「まぁ、私が勝つんだけどね」


「私だって負けない!!」


と、俺が問い返したのにアリス会長に続いて桜坂さんと橘さんが威嚇するように声を上げる。


どうしてそうなったかは分からないがそういうことらしい。

俺としては美少女にご飯を作ってもらえるのなら勝ち負けなんて何でも良いのだけれだ。


...いや、待て。嬉しいけど直近で薬盛られてたよな俺...もう同じ轍は踏まないように注意しよう。


「ねぇ要、これってどういう状況?」


「よく分からんが料理対決をしているらしいぞ、皆んなは俺達に昼飯を作ってくれるんだってさ」


「へぇ!凄いね! 女の子に作ってもらえるなんて!」


隣から声を掛けてきたエドとそんな呑気な話をしていると、周りの男子諸君達が何故かまたざわつき始める。


「あ、あの! それはどういう...」


「ぼ、僕達がやりますから、皆様は座っていて下さい!!」


と、そんな声がキャンプ場のあちこちから上がる。

見ればアリス会長達と同じように他のグループの女の子達もエプロンを身に付けて食事の準備を始めていた。


「良いんです、皆さんはハイキングで疲れているでしょうから。それにこれは私達の課題でもあるんです。」


他グループの女子の一人がそう言っているのを聞いた俺は、アリス会長に声を掛ける。


「あの、これ女子の課題って言ってましたけどそれはどういう...」


「あら、聞こえてしまいましたか。その通りの意味ですよ要くん。今時女性だけ食事の用意や家事をするような意見は否定されがちですが、乙女として最低限、お料理や家事が出来た方が良いということです」


「な、なるほど、本当に課題って感じなんですね」


「えぇ、明確に達成未達成はありませんが、この課題では殿方達に「おいしい」と言ってもらえることを目標としています。まぁ、私達はそのついでに料理対決をしているというわけです」


そういうことだったのか。

ここに来る前、永徳の山吹先生がハイキングを頑張ったから、とか、女子と一緒に昼食、とかそういう言葉を強調していたのは頑張ったから女の子達にご飯を作ってもらえるぞって意味合い。


まぁ、女の子達にとってこれら単なる課題なわけで、けどそれでも嬉しい気持ちになるのは本当、男って...って感じだな。


勿論、俺もめちゃくちゃ嬉しい気持ちだ。



「ねぇ、要。せっかく作ってもらうんだし僕達も何か手伝おうか?」


「そうだな、料理以外にもできることはあるんだし、良いですよね? アリス会長。」


「えぇ、良いですよ。それは私達も助かりますますからっ」



というわけで、俺とエドは料理をするアリス会長、桜坂さん、橘さんのそばで少しながら手伝

いをすることとなった。



******



それから約三十分ほど経った頃のこと。


アリス会長達は料理を作り終えたらしく、各々が盛り付けを始めている。


「う、うわぁ、凄いね要! どれもとっても美味しいそうだよ!!」


「あ、あぁ、そうだな。」


確かにどれも美味そうだった。けれどアリス会長達が作ったのは、キャンプ場でよく食されるカレーでも、BBQと言ったものでもなく、高級レストランで出されるような、そんな料理ばかりだった。


めちゃくちゃ美味そうだよ、でも...何となくコレじゃない感が凄いと言うか、まぁ、絶対に口に出してそんなこと言えないけど。


「要くん? どうかしましたか?」


「あ、あぁ、いえ。何でもありませんよアリス会長...どれも美味しそうで...」


「そうですか、それは良かったですっ」


俺が声を掛けてきたアリス会長に苦笑いで言葉を返すと、橘さんが心底不快そうな顔でこっちを見てくる。


「何? もしかして私達が作ったものに対して不満でもあるわけ?」


「い、いや、全然そんなことは!!」


「ふーん、どうだか。どうせマズイとか、何か混ざってないかとか思ってるんでしょ」


マズイは思って無いけど、何か混ぜられてるかもってのは正直思ってる...絶対言えないけど。


「い、いや、そんな訳ないじゃ無いか橘さん〜今から食べるのが楽しみだよー」


俺は言いつつ視線を桜坂さんの方に向けた。

すると桜坂さんはいつもの落ち着いた表情では無く、あからさまに目を泳がせている。


え?もしかしてまだ何か盛ったのか? いや、そんなことないよね?! 次そんなことあったら多分俺死ぬよ?!


「やだなー何か混ざってるなんてそんなこと思うわけないじゃないかー」


反応を見るためにもう一度言うと、桜坂さんの表情はさらに動揺を帯びたものとなる。


「そう、ならもっと嬉しそうな顔でもしておけば?」


「あっ、あぁ、うん。」


何も知らない橘さんに言い返されながらも俺は桜坂さんと彼女が作った料理から目を離さないようにした。


あ、アレを食べてしまったら、今度こそお終いdeath!!


「それじゃ、盛り付けも終わったし食べましょうかっ」


「そうね、流石に私もお腹減ったし。芙美、立ってないで早く座りな」


「えっ、う、うん。分かった」


えーそんな分かりやすく動揺してることある?もうバレバレすぎるよ、桜坂さん俺と目合わせてくれないもん。


けれど、料理勝負って話だったよな。だとすると、俺はアリス会長、橘さん、桜坂さんそれぞれの料理に手をつけなきゃならない。


料理勝負がなければそんなこともなかったが、コレはつまりピンチってやつだ。


「それじゃ、まず最初に男子二人に私達が作ったものを食べてもらうって感じで良いわよね?」


「えぇそうですね、採点して頂いて勝者を決めましょう」


全員席に付くと、アリス会長と橘さんが話を進めていく。俺はその間も桜坂さんをじっと見つめ、頭をフル回転させる。


やっぱ桜坂さんの反応的に、あの料理には何らかのモノが混ぜられている、桜坂さんの料理だけ口を付けないとなると、この場の空気は悲惨なものになるだろう。しかし、俺が助かるにはそれしか方法は...


「それじゃ、有り難く食べさせてもらうよ! いっただっきまーすっ!!」


俺が考えを巡らせる横でエドは高らかに声を上げるとその勢いのまま、桜坂さんが作った料理へと手を付ける。


「まっ、待てエド!!!! それは......!!!」


俺はエドが食べてしまうのを阻止しようと声を上げながら手を伸ばす。

そうして俺は勢いのままエドが持っていたスプーンを思いっきり口の中へ突っ込んだ。

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