十四話・いつものお嬢様達と?

 それから山を降りた後、エドを医務室に連れていき、一人でキャンプ場の敷地内を散策していた。


そして、歩きながら一つの疑問に辿り着く。

一つは俺が聖クリスティ学園に半ば強制的に入学させられた理由。

もう一つはこの校外実習そのものについてだ。


俺が連れてこられたのは今後聖クリスティ学園を共学にするため、お嬢様達に色々な免疫をつけるためって聞いたけど、ならこの校外実習がある意味が分からない。


別に俺を強制的に入学させなくたって男子との交流があるじゃないか。


それも、俺みたいな一般人でなくて教養も家柄も一流の御曹司達と。


「ねぇ、そこで何してるの?」


と、俺が考え事をしながら敷地内をほっつき歩いていると、聞き慣れない声に呼ばれた。


振り返るとそこには、純白の肌に真っ黒で息を呑むほど綺麗な黒髪を流す女の子が居た。


「えっと、暇つぶし?」


咄嗟に答えるとその女の子は可笑しそうにクスッと笑う。


「あの、君は?」


「フフ。そっか、覚えてないか〜」


「え?」


問い返すと彼女は首を横に振る。


「私は工藤花音(かのん)って言うの。君は要くんだよね?」


「あ、あぁ、うん。よろしく、工藤さん」


いや、よろしくじゃないだろ。彼女、工藤さんは「覚えてないか」って確かに言ったよな?


何のことだ。この場にいるってことは同級生なのだろうけど、俺この子とどこかで会ったことあったっけ。


「それじゃ、私はもう行くね?」


思い出そうとする間に工藤さんは少し微笑みながら言うと、俺から離れるように歩き出してしまった。


「あ、あの!!」


「あ、そう言えば...」


と、気になって俺が声を掛けたのと工藤さんが振り返って何か言おうとするのが重なる。


すると工藤さんはまた可笑しそうに笑いながら続ける。


「私と会ったこと、誰にも言ったらダメよ? それと、私のこと忘れないでね」


「えっと、それってどういう...」


「それじゃ今度こそさよなら、要。」


俺が問うのにわざと被せるように言うと工藤さんはまた背を向けて歩き出す。


俺は自分が言おうとしたことも忘れてただ彼女の凛とした後ろ姿を眺める。


私のこと忘れないでね、それと会ったことを誰にも言うなってどういう...同じ学校なんだからきっとまた会うこともあるだろうに。


******



それからのこと、ハイキングに戻った永徳学園の生徒達と合流した俺は両学園の教師達から改めて思いっきり説教された。


「要っ!! ごめんね、多分僕の分まで怒られたよね?」


「あぁ、こってりな。久しぶりに先生からあれだけ叱られたよ」


俺は言いながらため息混じりに息を吐く。


「それで、今度は何があるんだ?」


「うん、多分ご飯じゃないかな? もうお昼だし良い時間だよね」


「そうか、もうそんな時間か。」


けれどそれなら何故ここに集められたのだろうか。キャンプ場なんだし、BBQとか、そうじゃないにしても皆んなでカレー作ったりするもんだろ。


俺がそんなことを思っていると、永徳学園の山吹教諭が全体に声を掛け始める。


「えーそれでは皆、ハイキングよく頑張ったな疲れただろう。まぁ、秩序を乱して参加しなかったものも一名居るが」


俺のこと言ってるよな絶対に、エドもいたのにわざわざ一名って言ってるし。


ムカつく俺をよそに山吹教諭は話を続ける。


「今から昼食の時間だ、しかし普段とは違うので君達には注告しておくぞ」


と、山吹教諭が言葉を区切ると何故か周りの男子生徒達がざわつき始める。


「えー、それでは今日の昼食だが、君らには聖クリスティ学園の生徒達と一緒にしてもらう。したがって、永徳学園の生徒として、そして紳士として振る舞うように務めてくれ」


言い終えた瞬間、ざわつきが「オォォー!」と歓喜するような声になる。

まぁ、共学じゃ当たり前だけど男子校ならこの反応になるよな。


「食事を摂る時は各々男女合わせて五人のグループに分かれてもらう。各自外に出て自分のグループを確認するように。では、私からは以上だ」


山吹教諭が言い終えると他の男子諸君は一段と盛り上がり、声を上げる。


何と言うか、生まれも育ちも完璧なはずなのにやっぱこう言うとこは男って感じなんだな。

急に妙な親近感が湧いてきたぞ。


まぁ、かく言う俺もめちゃくちゃテンション上がってるけどね?


******


外のキャンプ場へ戻ると、少し前まではどこに行ったのやらと思ってしまうほど姿を見せなかった女子達が勢揃いでそこに居た。


俺を含めた男子諸君達はごくっと生唾を飲みながら女子の元へ歩みを進める。


このキャンプ場には元から机やBBQをするための道具などが揃っていて、女子達はすでにグループ分けを確認しているのか、用意された席に等間隔で座っている。


「要、僕達も確認しに行こっかっ」


「あぁ、そうだな腹減ったし」


と、俺はさも女子に興味がないような反応をしながら足を運ぶ。


女子達が居る席の机には名簿表が置いてあり、それを端から確認していく。


他の男子諸君も俺とエドに続いてゆっくりと皆んな緊張した表情で同じようにしていた。


「あっ、要!! 僕達同じ席だよ!」


「あ、あぁ。そうみたいだな。」


と、暫くして俺とエドは自分のグループを見つけたのだが...


「あの、このメンツ...何か裏で何者かの力が働いているように見えるんですけど?」


「そんな事ある分けないじゃないですか、このグループ分けは完全にランダムなんですから」


そう俺の言葉にいつものように微笑みながらアリス会長が返事をする。


そこに居たのはアリス会長だけでなく、桜坂さん、そして橘さんが居た。


「辻堂くん聞いたよー! ハイキング遭難したんだってね!」


「さ、桜坂さん...ま、まぁね」


遭難ではないけどまぁ、良いだろう。それよりこのメンツやっぱおかしいだろ、どう考えても偶然じゃない。


「ねぇ、早く座れば? そっちの女の子みたいなのも」


「お、女の子?! ぼ、僕は男だ!」


「はいはい冗談だって」


と、橘さんも初対面のエドをからかうように声を掛ける。

この反応、やっぱおかしい。普通こんな偶然あったら驚くはずなのに皆んな一ミリも不思議そうな顔すらしてない。


「そうですよ辻堂くん、お腹も減りましたし早く席に着いてください」


「は、はい、アリス会長」


俺は返事をしながらエドと一緒に席に付く。


偶然にしても、そうじゃないにしてもコレはまずいぞ。

可愛い女の子なのは良いけどこのメンツ...普段みたいな事があればきっとまた俺だけ叱られるパターンだ...。

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