十二話・二人だけのハイキング。
突如として始まった永徳学園との校外学習、俺は勿論最初から女の子とムフフできるんじゃないかと興奮していた。
しかし、青春には友情も必要なのだ。
男同士でくだらない話をして笑って、好きな子の話で大袈裟なくらい盛り上がる。
そんなこともかけがえのない青春に違いない。
俺がそんな事を考えていると、永徳学園の生徒らしき男子達がバスから降りてくる。
そして、俺達聖クリスティ学園の生徒達の前まで来ると、軍隊のように整列した。
そして。
「ごきげんようっ 永徳学園の皆さまっ」
と、いつの間にか永徳学園の生徒同様に整列したお嬢様達が声を揃えて挨拶する。
永徳学園の生徒達はそれを見てまた軍隊のように一斉にこちらへ頭を下げて礼をした。
「よーし二校揃ったなー それじゃあキャンプ場に移動するぞ〜」
と、俺達の担任である鬼頭先生が間の抜けた声を全体に掛ける。
す、すげぇ。これが超お嬢様学校と超エリート御曹司学校の挨拶か、と言うかイケメン多すぎだろ。
俺が嫉妬混じりに考えていると、背後からアリス会長が声を掛けてくる。
「それじゃあ辻堂くん、また後で」
「えっ? あ、後で?」
振り返りながら問い返すとアリス会長は微笑みながら頷く。
「やぁ、初めまして辻堂要くん」
と、今度は永徳学園の生徒達が居る方から名前を呼ばれる。
視線を向けると、長い白銀色の髪を後ろで束ね、一見女の子に見えそうな美男子が笑顔で立っていた。
「話は聞いているよ、学園の意向で特別入学したんだってね?」
「えっ、えと。あの...」
その美男子に声を掛けられるも状況が飲めず、あたふたしているとアリス会長が補足する。
「この校外学習では要くんに永徳学園の方達と過ごしてもらう事になってるんです」
「えぇっ?!」
「まぁ、うちの学園に来てから周りは女の子ばかりでしょう? だから少し気を遣ったんです」
「あっ、あぁ。それは有り難いけど...」
有り難いけど予想してたのと違うぞ!! 俺は勿論お嬢様達側で寝る部屋とかも隣りで、とかじゃないのか?
し、しかも、こんなエリート美男子さん達と過ごせって? 劣等感で明日には死ぬよ?!
「それじゃあ改めて、僕は九重・ウェストミンス・エドワード。気軽にエドって呼んでくれ」
「あっ、あぁ。よろしくエド...」
「あぁ、よろしく要!」
と、永徳学園の美男子、エドは言いながら弾けるような笑顔で返事する。
う、生まれが違いすぎる、見るからに育ちが良いのが分かるし、名前もどっかの貴族みたいだ。
同じ年頃の男でもこんなに違うのか...
「オイ見ろ、九重様があんなに親し気に話してるぞ」
「本当だ、普段は誰とも話したがらないのに笑っているぞ」
と、噂するような永徳学園の生徒達の、声が耳に入る。
意外だな、こんなに気さくなのに普段は割とクールなのか。いや、その方が見た目に合ってる気がするけど。
と、凛と佇むエドを見て俺が思っところで、手を引かれる。
「さぁ、行こう要! こんな機会はあまり無いんだ、楽しまなきゃ!!」
「あっ、ちょ!! オ、オウ!!」
と、俺は少し強引に手を引かれながらエドに返事をし、キャンプ場へ向かった。
******
それから駐車場を後にし、キャンプ場に足を運んだ俺はエドや永徳学園の他の生徒と共に隣接している小さなホールに居た。
「えー、それでは今日の予定を大まかに説明する」
と、体育座りをする俺達の前に立つ永徳学園の教師らしき人が声を上げた。
いやぁ、そんな事より、もう女の子達と離れ離れだなんて...もしかしてこの校外学習のピークは行きのバスだけだったのか?
「まず、君達には近くでハイキングをしてもらう。結構道は険しいぞ、舐めていると目的地まで辿り着けない可能性もあるからな」
と、お嬢様達と離れ離れになって悲しむ俺を尻目に永徳学園の先生は説明を続ける。
「ねぇ、要はハイキングってしたことあるのかい?」
「ん、まぁ。小学校の頃に林間学校でそれっぽいことはしたよ」
エドが隣から小声で話し掛けてきたので俺は思い出しながら返す。
するとエドは目をきらきらと輝かせながら顔をグッと近づけてくる。
「す、凄いよ要ハイキングのプロだ!! 先生が道は険しいって言ってたけど要が居れば安心だね!」
「いや...プロって。一回行ったことがあるだけで別に...」
「いやいや、ハイキングどころか山にさえ来たことない僕に比べたら要はエキスパートさ!」
や、山にも来たことないのかよ。いや、まぁ。そうだろうな、お嬢様達と同じできっと大事に大事に育てられてきたんだろうから。
「動きやすい格好に着替えたら外に集合だ。以上、説明は終了だ。」
と、エドと話している間に先生の話が終わり、永徳学園の生徒達は今いるホールで着替え始める。
「あっ、ちょっと僕トイレに行ってくるよ、要は先に着替えててくれるかい?」
「あぁ、分かった」
「うん、それじゃ!」
エドはそう言って荷物を持ったままトイレに行ってしまった。
トイレ行くのに荷物まで持ってく必要あるか?
まぁ良いか。俺も着替えよう。
ったく、本当なら今頃女の子達とキャピキャピ楽しんでたのになぁ。
いやほら、男同士の友情ももちろん青春だとは思ったけど。まぁ、こっちの男子諸君もいい奴多そうだし楽しめば良いのか...
******
着替え終わり、俺がホールの外で待っていると少し遅れてエドが合流した。
そして先程俺達の前で説明していた先生や他の教師、それとハイキングを案内してくれるガイドの人を先頭に山の中へ足を踏み入れて行く。
女の子達と離れ離れになってショックであまり気にしてられなかったが緑が生い茂り、空気は透き通るようでまだキャンプ場の近くであるのに山の中はとても心地が良かった。
「ねぇ、要。凄いよ、こんな所初めてだよっ」
「あんまりはしゃぐと転んだりするから気をつけて」
声を掛けるが、エドは笑顔でスキップするように山道を歩く。
他の生徒達はそんなエドと話す俺を不思議そうに眺めていて、普段からするとこのエドの振る舞いはそこまで珍しいものなのかと思った。
なんか、遠くから見てるとエドって本当に女の子って感じだな。
とても同じ生物だとは思えん。
俺がそんな事を思ったところで山道が少し険しくなってくる。
「ここから先はどんどん険しくなってきますから走ったりせず、ゆっくり進んで下さい。途中辛くなったらいつでも止まりますので」
ガイドの方が優しく言葉を掛けると生徒達は誰からでもなく返事をする。
俺はそんな他の生徒達の後に続こうと思った矢先、とある事に気がつく。
あれ、エドどこいった?
俺は焦って辺りを見回した。辺りは木々が生い茂り、思ったよりももう元居たキャプ場からは離れているのが分かる。
木々の中、目を凝らしていると木漏れ日に照らされて靡くエドの髪が見えた。
当然、俺達がガイドさんや教師達と向かっている方向ではなく、もっと険しくて山らしい道にエドは進んでしまっている。
「ちょっ! アイツなんであっちに!」
俺はすかさず声を上げながらエドが向かっ方へ駆け出した。
「オイっ! ちょっと待て! そっちは道が違うぞ!!」
「あはは〜もう追いかけてきたんだ! 足早いんだね、要!!」
と、呑気な事を言うエドはどんどん深い山の中へ入って行く。
ったく、山は舐めたらダメだってしらないのか。まぁ、知らないだろうな。
と、俺は心の中で愚痴りつつ、エドから目を離さないようにして走った。
それから少しして、エドは体力が尽きたのか膝に手を付いて止まった。
「...オイ、急に走り出してどうしたんだ。というか、皆んなとは完全にはぐれたぞ」
追いついた俺が息を整えながら言うと、エドは顔を上げながら悪戯気な表情で笑った。
「それが僕の狙いだったんだっ」
「狙い?」
「うん。僕さ、こう見えて皆んなと一緒に居るの少し苦手なんだ」
そう言えば他の男子がエドのこと不思議そうに話してたな。
「だから抜け出したと?」
「うん! これなら気楽に楽しめそうだなって思ってさ! まぁ、きっと後で先生からお叱りを受けるだろうけど」
「...それ、多分俺もだよな。心配して追いかけてきたのに...」
俺が目を細めて言うとエドは舌を出しながら「ゴメン」と苦笑いをした。
「まぁ、俺もいきなり知らない他の学校の男子とハイキングって言われてぱっとしてなかったとこだし、良いか。」
「やったぁ! それじゃ、僕達だけのハイキングをしよう! 要!」
俺はエドの言葉に頷いて返す。
同じ男子でもエドってやっぱどこか特殊な気がするんだよな、何と言えば良いか分からないが。
「なんかさ、要は他の子と違って話しやすいんだよね。ってさっき出会ったばっかりなんだけど」
「あっ、あぁ。そうか。」
ん? いや、なんで今俺ドキッとしたんだ? 相手は男だぞ。
いや、今のは偶然思ってた事が一致して感動しただけだ。
動揺している俺をよそに、エドは微笑みながら続ける。
「本当、何か不思議な気持ち...よく分からないけど心地いいんだ」
エドはそう言うと、また小走りで走り出す。
なんと言うか男なのにお姫様みたいな奴だな。良い意味で。
俺はそう思いつつ、エドの後ろ姿を少し遅れて追いかける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます