十一話・突然の校外学習と青春。

「ピーンポーン」


不思議なギャル、橘さんと出会った翌日のこと。朝早く、部屋のインターホンが鳴らされる。


俺はダラダラと起き上がりながら玄関に向かい、扉を開く。


すると、その先には笑顔でこっちを眺めるアリス会長の姿があった。


「おはようございます、要くん


「あぁ、おはようございますアリス会長」


どうしてこんな朝にアリス会長が、と思いながらも俺はぼーっと挨拶を返す。


アリス会長はそんな俺を見て笑いながらこう言った。


「もう、何寝ぼけてるんですか要くん。今日から校外学習ですよ?」


「んー校外学習...?」


俺は復唱しながらその言葉を頭の中で噛み砕く。


新入生の校外学習と言えば、クラスの皆んなで近場のキャンプ場や観光地に訪れて親睦を深めるみたいな例の...中学の時もあったけど、ずっと単語帳で暗記してたせいかあんまり記憶にないな...


「って、今日?!


「はい。新入生の皆さんには親睦を深めてもらうために一泊二日で楽しんでもらいます」


「と、泊まり...」


「あら? 私、この間お昼をご一緒した時言いませんでしたっけ?」


「あぁ、うん。聞いてないかも...」


けれど、問題はそこじゃない。

今日から俺はお嬢様達と一泊二日同じ屋根の下ってことだ。いや、正確に言えば同じ寮だから普段から屋根の下なのだけれど。


じゃなくて!! こういうイベントってまさに青春だろ! 今の今まで知らなかったし、正直戸惑ってるけどそんな場合じゃない。


何としてでも、このチャンスを逃す訳にはいかないぞ...


「...アリス会長、少し待ってて」


「えっと、はい?」


アリス会長の返事を聞く間もなく、俺はシャワーを爆速で浴びて出来るだけ自分の身体を良い匂いにした。


そして髪を乾かしながらセットして制服に着替える。


「では行きましょうアリス会長っ!」


「恐ろしく速い身支度...私でなきゃ見逃しちゃうとこでした


「あっはは、俺はどこかの団長じゃないですよ、早くいきましょう!」


俺はとんでもなく良い気分になりながらアリス会長の手を取り玄関を出る。


待ってろ俺の青春よ! 勉強漬けだった分はここで精算させてもらうからなっ!!


心の中でそう思いつつ、俺はアリス会長と寮のマンションを後にした。



******



それから俺はアリス会長の案内で学園の駐車場へ足を運んでいた。

校外学習にはクラスごとで分けられた貸切バスで出向くらしい。


そしてその駐車場にて...


「あ、あの、皆んな。別に広いんだしここに集まらなくても良いんじゃないかな...?」


バスに乗り込んだ俺は肩を狭めながら呟く。

もちろんバスは普通の観光バスではなく通常より席も広くなっているのだが、気を遣って最後部の座席に座った俺の周りに柊澤さん、桜坂さん、そして昨日出会った隣のクラスの橘さんと何故かアリス会長が両隣にそれぞれ座っている。


引き気味に言っているが内心は最高の状況だ。


「えー別に良いじゃん? 私は部屋も一つ下だし、いつもとそんな変わらないでしょ?」


「いや、それは良くわからないけど...せっかくなんだから窓際の席もあるんだしと思って...」


「それを言うなら、私は隣の席なんですけど?

これなら教室と変わらないし、辻堂くんも安心でしょ?」


「え、えーっと。別に教室と同じじゃなくても不安にはならないかも柊澤さんも好きな席に...」


と、両隣の桜坂さんと柊澤さんがよく分からない理論を話しているのでそれぞれに言葉を返すが、二人とも白々しい顔で俺の言葉には反応してくれない。


そして、今度は柊澤さんの隣に座る橘さんが声を上げる。


「部屋が一つ下とか、席が隣とかさっきからなんなの? そんなのは普段の話でしょ? それに辻堂は昨日私のおもちゃにしたんだし、アンタ達退きなよ」


「おもちゃ...? どう言う事ですか、辻堂くん。」


「ひ、柊澤...いや! それはなんというか、別に俺は認めてないし...」


橘さん?! なんて事を言っているんですかぁ?! というか隣のクラスなのになんで二組のバスに乗ってるんだ...


俺が橘さんの言葉と柊澤さんの鋭い視線に困っていると、窓際のアリス会長が穏やかな表情で諭すように話し始める。


「まぁまぁ落ち着いてください皆さん。校外学習はまだ始まったばかりですし、新入生である皆さんの交流を深めるためのものですから、そんなに慌てなくても平気ですよ〜」


「いや、それは分かってるけどなんで会長までここに? 聞いてないんだけど」


「確かに、桜坂さんの言う通りですね。会長は学年も違いますし」


「それな! 会長だけ完全な部外者じゃんっ!怖っ! 意味わかんないんですけどっ」


と、桜坂さんから柊澤さんに橘さんと、三人それぞれがアリス会長に文句を垂れる。


しかしアリス会長は嫌な顔などせず、そのままの顔で...


「...だれのお陰でこうなってると思ってるんですか...もしかして、舐めてます?」


アリス会長がそう話した瞬間、文句を言っていた三人の顔が一気に引き攣る。


ヒィィッ!!! 怖っ!! 前に一度「逃げるな」って同じトーンで言われた事あるから俺関係ないのに恐ろしすぎるよ?!


アリス会長はウフフと笑いながら俺達の表情順々に眺めてからまた話す。


「分かってくれたようで安心しました、さぁ皆さん楽しみましょうねっ」


桜坂さん、柊澤さん、橘さんはその言葉に反応せず、ただアリス会長と目が合わないように視線を逸らしている。


皆んな、めちゃくちゃビビってるな。いや、気持ちは分かりますよ。


というか、アリス会長が怖いのは置いておいて、さっきの言葉「誰のお陰でこうなってると思ってるんですか」って、どういう意味だ?


きっとこの校外学習は学園行事として一年生に用意されたものだろうし、アリス会長が直接関係してる可能性は低いと思うんだけど...


そう考えを起こしていると、出発する準備が整ったらしく、バスが発進する。


とりあえず、まだ別に何か起きたわけでもないし、こんな可愛いお嬢様達に囲まれて校外学習とか最高すぎるんだから野暮な事を考えるな俺!


こうして、この学園に来て三日目、女の子だらけのバスの中、一泊二日の校外学習が始まった。


******



それから約二時間半後のこと。

俺達一年生を乗せたバスは山の中にある開けた駐車場へ停車した。


向かう途中、何か起きないかと少し不安だったが、アリス会長の一言が効いたのか、柊澤さんや桜坂さん、そして橘さんは借りて来た猫のように大人しかった。


バスを降りると他のクラスの生徒達を乗せたバスも続々と駐車場に停車し始めているのだが、

隅の方には俺達を乗せて来たものではないバスも数台停まっていた。


「他校かな?」


「えぇ、そうですよっ」


と、俺の独り言にいつの間にか隣に居たアリス会長が反応した。


「都立永徳学園、偏差値は我がクリスティ学園と同程度。男子校であり、秀才揃いで卒業生には大手企業の取締役や、政治家などが多く輩出されているんだとか」


「えっと、アリス会長。あの、もしかして...


「はいっ! この一年生校外学習では何年も前から永徳学園の皆さんと合同で行うのが伝統なんですっ!」


「マ、マジか?!」


俺は思わず声を上げた。だって、男子校なんだよ? そりゃあ最初は女の子ばっかでムフフって感じだったけど、正直男一人ってのは孤独だ。


だけど、ここには久しぶりにそれも同い年の男子諸君が居るんだ!!


まぁ、中学の頃なんて勉強ばっかだったから女子はおろか男友達も居なかったんですけどね...?

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