十話・辻堂くんの秘密と不思議な出会い。

「...ご馳走様でした。」


「はいっ お粗末さまでしたっ 殆どのお料理を要くんが食べてしまいましたね」


「ご、ごめん。あまりにも美味しくて」


いやぁ、我ながら本当に食べ過ぎた。こんなに豪華でこんなに美味しいもの食べたことなかったからなぁ。もちろん家で母さんが作ってくれる料理も最高だったけど。


「謝らないでください、最初に言ったとおりこれはお詫びですから。」


そう声を掛けてきたアリス会長は丁寧に布巾で口元を拭くと、髪を耳に掛けながら続けた。


「さて、次は少し大事な話をしましょうか」


「ん? 大事な話?」


「それは勿論、要くんと私の婚姻時期についてですよっ」


「ブッハァァッ...!!」


俺は思わず吹き出した。まだ言ってるのか、きっと冗談なんだろうけどあんまりそういう事を男の子に言うと本気にしちゃうんだぞ?


「嘘です。婚姻時期について、ではありません。それは後々でも構わないですし」


「後々って...それで? 本当に話したい大事なことって?


「...要くんがこの学園に連れられて来た本当の理由です。」


「えっ?」


思わず直ぐに問い返してしまった。俺がこの学園に連れて来られたのは確か今後共学にするための実験的な理由だって...


普段ニコニコとしているアリス会長がこの時ばかりはとても真剣な顔をしていた。


俺は恐る恐るそんなアリス会長に問う。


「本当の理由って最初に教えてくれたこと意外でってこと?」


「はい。けれど、最初に説明した理由も嘘と言うわけではありませんよ?」


「それじゃ、共学になるうえでの実験的な理由ともう一つ違う何かがあるってこと?」


問うとアリス会長は静かに頷いた。


ま、待ってくれ、もしかして本当は今も拉致されてるとかじゃ無いよな。

卒業と同時に臓器を売り飛ばされるとか。そのお金を学園の偉い人たちが...


と、そんな不安を募らせていると少し笑いながらアリス会長が声を掛けてくる。


「要くんっ そんな不安そうな顔しないでください。別に怖い話とかそう言うんじゃありませんから」


「あ、あぁ。そうなんだ。それは本当によかった」


けれど、なら俺がここへ連れて来られた別の理由って何だ?


考えても特に何も浮かばない。


「あの、良ければ教えて欲しいんだけど...ほら、気になるし?」


「嫌ですっ」


満面の笑みでアリス会長は断ってきた。

まぁ、そうだよな。言い方的に教えてくれる雰囲気はしてなかったし。


さてどうするか、怖い話じゃ無いって言われた以上、猛烈に気になるぞ。


「でも、ヒントなら教えてあげます」


俺がどう聞きだそうかと考えを巡らせていると、アリス会長は徐に呟いた。


「えっ、良いの?」


「はい、教えたところできっと分からないと思いますからっ」


「な、なんか、そう言われると少し傷つくな。で、でも! 是非聞かせてくれないかな!」


俺が食い気味で言うと、アリス会長は直ぐに言わず、少し間を空けてこう切り出した。


「要くんがこの学園に連れられた理由には理事長や上層部以外の人間も関わっている、ということです」


「そ、それってまさか闇の組織とか...!!」


「もう、違いますよ。更に具体的に言うなら、この学園の教師、かもしれないですし、生徒かもしれない、はたまた卒業生...とか、そういうことですよ」


「あっ、あぁ、そういうことか...って、え?!教師?! 生徒?! 卒業生?!」


俺が声を上げるとアリス会長は苦笑いを浮かべた。

そしてそれと同時に、「キーンコーン」とチャイムが鳴る。


「さて、ここまでのようですね」


「ちょっ、ちょっと待って!! もう少し詳しく教えて欲しいんだけど!!」


「ダメですよ、ヒントだけって言ったでしょう? それに昼休みももう終わりですしね」


そう言いながらアリス会長は悪戯気に笑う。

いやいや、可愛いけどこれはちょっと意地悪過ぎない?


だって、そんな事言われたら心当たりがありすぎるんですけどぉ?!!


ここに来て直ぐにあんな事して来た柊澤さんとか、睡眠薬の桜坂さんとか、今目の前に居るアリス会長とか?!!


でも、卒業やら教師とかまで言われたらもう何が何だか...


あぁぁあぁああ!!!


気になるりすぎるぞ!!!!


******



それからのこと。俺は昼休みにアリス会長と話したことをずっと考えていて、午後の授業どころではなかった。


そして放課後、この日は何の出来事もなく、そのまま寮に帰ってダラダラしようとしたのだけど、自主勉強用のノートを忘れたので俺は教室に蜻蛉返りしていた。


「あー。何なんだろうな。というか、誰が何のために俺をこの学園に...」


と、俺はそんな事を呟きながら自分のクラスである一年二組の教室の扉をガラッと引く。


その時だった。


外からは分からなかったが、もう帰りのホームルームも終わって誰も居ないと思っていた教室には、一人の女の子が居た。


しかしその子は、他の「お嬢様達」とは違い、スカートを短くしてブレザーも少し気崩している。髪は明るく、けれどアリス会長のような透き通った感じではなく、金髪という言葉が一番合っているだろう。


ギャ、ギャルだ。


「アンタバカァっ?!」


俺がぼーっと考えていると、その子は大層不快そう顔で声を上げた。


ナ、ナニィ?! 聞き間違えじゃ無いよな、今俺は気の強そうな女の子に例のセリフをあの伝説的なセリフを言われてしまったのか?!


「ねぇ、聞いてんの?」


「あっ、は、はい?」


俺が感動していると、もう一度声を掛けられたので咄嗟に返事をする。


「チッ。キモ。私、橘紗江。隣の三組だから」


「えっ? あぁ、橘さん?」


いや、ちょっと待ってくれ。急な出会いでよく分からないが今、罵倒されながら自己紹介されたのか?


俺が困惑していると、橘さんは眉を顰めながらまた声を掛けてくる。


「アンタが噂の男子でしょ、名前は...辻堂要だっけ?」


「あぁ、うん。そうです」


「へぇ。んじゃ、要って呼ぶわ〜」


と、そう言いながら橘さんは俺の方へゆっくり歩み寄ってくる。


そして直ぐそばまでよると、俺の制服のネクタイをグイッと引っ張って顔を寄せてくる。


「ちょっ! あ、あの!!」


「...何、もしかしてウブなの? それじゃ良いおもちゃになりそうだね」


「お、おもちゃ?! というかあの、ち、近...」


俺は必死に言い返すが、近くで見た橘さんの顔の端正さと、何か分からんがとてつもない良い匂いのせいで上手く喋れない。


「それじゃっ 今日は挨拶がしたくて話しかけただけだから。それと、勘違いすんなよ、別に私はアンタに気があるわけじゃないから」


そう捨て台詞を吐いた橘さんはそのまま教室の出入り口の扉へと歩いて行く。


ギャ、ギャルだ。それもとてつもない...頭からつま先までギャル。


あんな子がこのお嬢様しかいない学園に居るだなんてな。にしても、めちゃくちゃ暴言吐かれたし、怖い事言われてたような気がするのに、何故か悪い気はしない。


むしろ、漫画やアニメの世界の中のような...そんな出会いだった。

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