傀儡
yuki
傀儡
『誰かに愛されたい。』
20××年4月6日。
女の子が高々と産声を上げる。
「おめでとうございます!双子ちゃんですよ。」
目が覚めた女に助産師さんはお決まりの
何か足りない様な気がするけど。
「あり、、、がとう、、、ございます。」
女は疲れきった声で感謝を伝える。
双子で未熟児。
体重800kgと900kg。
女と男の二卵性双生児。
女は双子を抱く。
雪の様に白い肌の女の子と女の子とは対照的な黒い肌の男の子を同時に見る。
「パンダみたいで可愛い、、、。」
母の顔。
「おぎゃぁぁぁぁぁ!!!」
大きな声を上げ泣く女の子。
生命力のある証。
「、、、。」
泣かない男の子。
生命力の少ない証。
「え?、、、泣かないの?」
母に不安が襲いかかる。
そして数ヶ月の時が流れ退院時だ。
「おめでとうございます!
助産師さん、、、
黒い肌の男の子を莉久、白い肌の女の子を雫と女は名付けた。
双子の名前はお寺に持って行った名前の中から決めて貰ったそうだ。
◇
「莉久!外でトンボ捕まえようよ!!」
大きな声で莉久こと弟を呼ぶ。
産声を上げたあの日から5年の月日が流れた。
あの日の女は自身の子が危篤状態と言われたのだ。
手術をし、体に管を入れ頭にバルブを入れ、一命を取り留めた双子。
でも、弟莉久は心臓も弱く心臓の手術もし退院。
あの日NICUに居た子とは思えない程の活発さ。
「、、、。」
本に夢中の莉久。
地面から90cm程の所の畳に手を付け、窓ガラスから顔を出す
「莉久!」
痺れを切らし畳に手を添えジャンプし部屋の中へと入る雫。
「聞こえてるの!?」
「、、、。煩い。」
幼い雫。
そして、外に出ようとしない莉久。
「莉久の為を思って言ってるのに!!もう知らない!!!」
ぷりぷりと可愛い怒りを顕にする。
トンボを見つけ田んぼを駆け巡る。
そんな時、大きな麦わら帽子を被り首からタオルを巻いた小柄の男を見つける。
「おじいちゃん!!」
祖父だ。
「何してたの?」
虫かごと虫取り網を持ち問う。
「稲が育っているか確認してたんだよ。雫は虫さんと遊んでいるのか?」
「うん!!」
自慢気に取った虫を見せる。
紋白蝶。
ミンミンゼミ。
アブラゼミ。
クマゼミ。
「あとね!ショウユバッタも見つけたよ!!」
ショウユバッタとはショウリョウバッタの事を聞き間違えて覚えた名前だ。
「本当に虫好きだな〜雫は。」
雫は満面の笑みを浮かべた。
まさかこの日既に自身を騙していたと気づけずに時が経つ。
◇
「雫!」
そう言いブレザー姿の男は同じ衣装を身に纏う雫の背中を叩き話しかける。
そして雫は高学年になった。
世の金持ちが通う小学校、
受験がある癖して金さえあれば入れる学校として有名で、神代という名を聞くだけで金持ちと分かる程だった。
その中で最大権力を持つ役職が有った。
神代生徒会、通称神会。
この生徒会は歳を重ねるごとに“地位”、“名声”が手に入る。
低学年で生徒会役員だった人は高学年でも生徒会に入りやすい。
そして、毎年有る生徒会選挙にも関わらず低学年ではメンツは変わらなかった。
頭が良く、金持ちで真面目。
それが3年前の神代小学校、低学年生徒会。
そんなクソ校に入れられたのが雫。
「
「また樹様に失礼な態度取ってる、、、。」
とある令嬢がそんな言葉を漏らす。
樹こと、
彼は地主の孫だ。
つまり金持ち。
そしてスポーツ万能、成績優秀。
、、、後物凄く顔が良い。
「そんな冷たい事言うなよ〜!幼馴染だろ!?」
「そうですね。」
学校一のモテ男を冷たくあしらう雫。
「そんなんだから冷徹女王なんてあだ名付けられるんだぞ〜!」
ドスンッ!!!
「あ゛あ゛ぁ゛っ゛!!」
お腹を抑え地にひれ伏す樹。
雫の拳が溝に入ったのだ。
「私が、、、何か?」
物々しい圧を醸し出す雫。
まるで般若の様だ。
「いえ、、、滅相も御座いません、、、。はい。」
お腹を庇いながら歩く。
人気の多い中庭迄来て、ある男に話しかけられる。
「いっちゃん、またボコられてんの?」
男は、くすくすと笑いながら、いっちゃんこと樹に話しかけた。
「
「いっちゃんが変な事するから
「そうですよ。ところで、神崎くんも例の場所に行くのですか?」
「ああ、先生に行けって言われると拒否権なんて無いし。」
遠くを眺めながら言う。
神崎こと
3人揃って中庭から校舎内に入る。
先の見えない廊下に、シンナーの匂いが鼻につく教室。
神代学園にはエレベーターが有る。
「高学年の生徒会室って何階だっけ?」
「周防さん、、、しっかりしてください。」
そう言いながら5というボタンを押す。
長ったらしい沈黙が続き、沈黙を破るかのように知らせが鳴る。
「着いたね。」
先頭を切るのは爽良だ。
大きな木材のドアが佇む。
「失礼します。」
神代生徒会には一風変わった制度がある。
生徒会が各学年であるのだ。
「4年の生徒会メンバーか、、、相変わらず見慣れたものだ。」
優しく低い声が聞こえる。
社長室に有りそうな大きな机と革製の椅子に腰掛ける男が居た。
「
七瀬
七瀬会長は樹の従兄弟にあたる人で雫のお兄ちゃんの様な人。
「糸森も元気そうだな。」
「はい。お陰様で。」
「ふふっ、、、。用事は済んだなら自分たちの新たな生徒会室に行くと良い。」
お辞儀をし、第6生徒会室を後にする。
突き当たりまで歩き第4生徒会室と書かれた部屋に入る。
「雫〜!!!お前こんな良い所に座ってたんだな!!」
そう言いながら椅子に座りはしゃぐ第4生徒会の生徒会長周防樹。
そして幼等部生徒会では私、、、いや僕が会長だった。
「あ!もう始まってた!?、、、ごめん遅れた!」
慌ただしく入ってきた男は、
「勇太、まだ始まってないから、落ち着いて。」
「雫は優しいなぁ〜!」
飛びつこうとする勇太を抑える。
「会長〜!!始めて!!」
ふふっと笑い咳払いをする。
「では、、、。神代学園高学年第4生徒会を開催する!!!、、、まず、自己紹介からだ。」
樹は深呼吸をした。
「神代第4生徒会、会長周防樹。低学年生徒会では副生徒会長をやっていた。みんな、今年も宜しくな。」
「神代第4生徒会、副会長神宮寺勇太。低学年生徒会では書記をやっていた。みんな、今年もよろしく。」
「次は僕だね。神代第4生徒会、庶務兼会計の糸森雫。低学年生徒会では生徒会長をやっていた。みんな、今年も宜しく。」
高学年生徒会では、会長、副会長、庶務、書記、会計の順だ。
「最後、俺だな。神代第4生徒会、書記神崎爽良。低学年生徒会でも同じく書記をやっていた。みんな、今年もよろしく!」
テンプレ台詞の様な自己紹介。
「みんな顔馴染みばかりだね。」
「勇太お前も例外じゃないぞ?」
ニコッと笑う樹。
「イケメン、パね〜、、、。」
「雫、キャラ崩壊。」
「爽良、、、モテないぞ☆」
他愛もない何時も通りの会話。
「今日はこれだけだよな?」
生徒会長とも思えない程の頼りなさ。
「そうだね。じゃあお母さんが待ってるから先帰る。」
雫が戸を閉めたのを確認し話し出す。
「まだ、あの家から逃げないのか?」
「爽良そんな事言っちゃるな。逃げれないんだよ。」
「そーそ。でなきゃ猫被る必要ないしな。」
「勇太、、、。」
沈黙。
「まぁ、、、奴が潰れないように俺らで見守ろうや!」
各自第4生徒会室を後にする。
◇
「ただいま〜。」
僕の名前は雫。
何処にでも居る女の子。
、、、少し違うかな?
地主兼自治会長の孫なんだ。
「おかえり。カバン置いてきなよ〜。」
母が出迎えてくれる。
「分かった〜。」
他愛もない会話。
階段を上がりすぐ見える部屋。
そこが僕の部屋だ。
机に置かれた真っ白なパソコンと無造作に散らばる教科書類。
「――――しなさい。」
怒鳴り声が聞こえた。
嫌な予感。
ドタドタと階段を下り母の元に駆けつける。
「お母さん!!」
スープの入ったお玉を持つ祖母。
「おばあちゃん!!勝手に家に入らないで!!」
冷たい目。
「お祖母様でしょ?」
重圧。
「はい、、、。お祖母様。」
家が大きく狂いだしたのは数ヶ月前。
父の妹一家に第一子が生まれ近所に越してきたから。
そこから僕は従妹のお世話係。
食事、風呂、遊び。
全て僕、、、いや私のする事。
僕なんて言ったら殺されそうだ。
「お祖母様は、母の料理の腕を上げる為に来て下さったのですか?」
機嫌を取りながら話す。
嗚呼生きた心地がしない。
「そうよ!私は優しいからね!」
偽善だろ?
“良い姑”だと世間様に見られたい単なる傲慢野郎だろ?
「そうですか。母を宜しくお願いします。」
こんな事日常茶飯事。
「ごめんね、、、。」
苦しそうな顔。
影で母が泣きながら父に訴えかけているのを知っている。
父が祖父母に掛け合って居るのも知っている。
祖父は、全て、無駄だと“仕来り”は絶対だと、“世間様”を第1優先だと言う。
挙句“老後”と、“血を絶やすな”と、“花嫁姿”と、言い続け“お家”を見る。
老後は“男”以外役に立たないと言ったから“女”である私は家を出るよ。
結婚だってしてあげる。
子だって孕むよ。
だから、私を見てよ。
祖母は“逆玉の輿”と、“玉の輿”と、“金と世間体”ばかり見る。
煩いな。
僕を見ないならせめて私を見て。
「良いよ。大丈夫。」
逃げ場がない。
音楽、小説、機械、虫に逃げるしかない。
苦しい。
死にたい。
天井のフックにかけられた縄と置かれたイス。
これで楽になる?
生きてたって誰の為にもならないだから、、、。
死のう。
◇
そう考えたのにそこから数年の月日が流れ中学。
「生きてしまった、、、。」
河川敷に寝転び言の葉を散らす。
小学校の生徒会では結局最後までやり切った。
生徒会の入れ替えが激しい低学年生徒会でメンツを一切変えず、そして役職も一切変えず、そんな異例の生徒会。
またの名を四天王。
そして、生徒会長こと私はルカと呼ばれていた。
聖人ルカと同じ名だ。
Lucaとはドイツ圏内では光をもたらすものを意味する。
「そんな良い奴じゃないんだけどな〜。」
熱帯夜のせいで汗が吹き出す。
「涙腺だってまだ戻ってないの日に汗だけ出るんだね、、、。」
苦しさ全て過去に置いてきた雫。
これは、そんな彼女が涙腺と感情を取り戻す物語。
後書き
これは短編小説です。
傀儡 yuki @after_the_snow
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