第2話 温かいご飯

「う、うぅん?ここ…は…」


知らない天井…ではなかった。昨日眠る前に見た天井だった。


「確か昨日は…」


ベットからムクっと起き上がって、寝起きの頭を働かせる。確か昨日は…そうだ。家に帰ったら虐待されるからって、泊めてもらったんだ。そして千鶴がベットを使って良いって言うからそのまま…


「えっ、もしかしてめっちゃ恥ずかしいことしてない?私。」


あまり常識をしらないのもあるが、それを差し引いても私の行動は恥ずかしい…ほぼ初対面の人の家で…しかも家主のベットで寝るなんて…


「……いやまぁ、私なんかに欲情するわけないか。」


危ない危ない…と、思考を切り替える。醜い痣を持つ私なんかが、あんなイケメンとそういう仲になるなんてあり得ない。


「やぁ、雫。起きたかい?」


「ぴゃぁ!?」


突然話しかけられて、今度こそ心臓が止まるかと思った…慌てて視線を上げると、そこには柔らかい笑みを浮かべた千鶴が居た。


「ち、千鶴……さん?」


「あはは!千鶴で良いよ。ていうかやっと名前呼んでくれたね〜。昨日は結局"あなた"で固定だったし。」


「あ、その…すいません。」


「なんで謝るのさ。それだけ雫が心を開いてくれたってことでしょ?嬉しいなぁ」


どうして千鶴は何をしても笑ってくれるのだろう。ベットを使わせてもらっても、名前を呼んでも……


あははと笑う千鶴をぼんやりと眺めていると、私がぼーっとしていることに気付いたのか千鶴が声をかけてきた。


「おーい。大丈夫?」


「──っは!す、すいません!」


「あはは、寝起きだからね。顔洗ってきな〜」


「はい。行ってきます」


そう言われた私は、ベットから降りて部屋を出た。部屋を出て、真っ直ぐ洗面所に向う。


「─ぷはぁ…ふぅ、さっぱり。」


顔の水をタオルで拭き取る。ふわりと、柑橘系の良い匂いがした。


顔を上げた時。鏡に映った自分の顔が目に入った。私は、顔の右側を占める痣を見つめた。一刻も早く目を逸らしたかったが、何故か目を離すことが出来ない。


「千鶴は…なんで気持ち悪いって思わないんだろ…」


ふと出た疑問に、頭の中が埋め尽くされていく。千鶴は私のことを見ているのだろうか。本当はただの駒としてしか見ていないのではないか。


「……助けてもらったのに…最低だ。私。」


鏡の自分に吐き捨てながら、私は洗面所を出た。もう自分の顔なんて見たくなかった。



「や、おかえり。朝食出来てるから、しっかり食べなね。」


「ありがとうございます…」


「ん、良い子」


なんだか子供扱いされてる様にも思うが、わざわざ言う程のことじゃないため黙っておく。コーヒーを飲む千鶴をちらちらと見ながら、私は朝食を食べ始めた。


「いただきます………ん…美味しい。」


「そう?良かった。」


「久しぶりに食べた…温かいご飯…」


初めは黙々と食べていたけど、どんどん食べ進めるに連れて、ポロポロと、私の目から涙が溢れ始めた。


「どうしたの?雫」


「あっ…すいません。美味しくて…こんなに美味しい料理は…久しぶりなので…」


「ねぇ、最後にちゃんと食べたの、いつ?」


眉を寄せた千鶴に言われ、最後にしっかり食べた日を思いだしてみる。


昨日は自殺未遂をして、食べる元気も無かった。その前は食べるお金が無くて、その前はバイトの賄いでもらったお弁当を親に捨てられた。


どんどん記憶を遡り、遂に思い出した。


「確か…2週間前?バイトの先輩に奢って貰って、いっぱい食べました!」


「……そうかい」


千鶴はそれだけ言って、黙って考え込んでしまった。とりあえず私は涙をしっかり拭って、残りの朝食を食べた。


「ふぁ…美味しかったです…ごちそうさまでした。」


「ふふ…雫の食べ方は綺麗で、見ていて気持ちが良いね。お粗末様。」


「へっ……やっ…」


「うん?どうしたの?」


食べてる時は何も思わなかったけど、ガツガツ食べてたところを千鶴に見られてたってことだよね…


そう考えた瞬間。なんだか身体が熱くなっていくような感じがした。


「そっ、それで!共犯者って話でしたけど、今日から何をすれば良いんですかっ?」


咄嗟に声を出したからか、声が裏返ってしまった。が、なんとか止まることなく最後まで言い切った。


「う〜ん…何をしようか。あんまり考えてないんだよね〜」


「へ?」


「あ、どこか遠くに目撃情報出す?それで時間は稼げるよね。」


「あ、あの…ノープランなんですか?」


つい話を遮って聞いてしまった。あれだけ大々的に指名手配されて逃げ回ってきたのに、これからのことを何も考えていないのだろうか。


「うん。ノープラン。正直共犯者って言うのも、君を助ける冗談だから。」


「ふぇ?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


なんと言う恥ずかしいことを平然と言うのだこの男は!私だけ照れているようでなんだか不服だ…


「…それで、今言ってたのやってみますか?」


「そうだね、後でやろう。他に何か意見あるかい?」


「そうですね…」


千鶴が捕まらないようにするなら、そもそも家からは出ない方が良いだろう。確か千鶴が通っていた学校は隣街だったはず。あまり警戒はされて無いとは思うが、油断は良くない。


見つかった時に対処出来るかも重要だ。もし強い王子様に見つかったら、逃げるのか戦うのか。それを考えて置かなければならない。

そこまで考えて、私は千鶴の戦い方を知らないことに気付いた。


「あの、千鶴の戦い方ってどんな感じなんですか?」


「う〜ん、そうだね…まぁ雫は共犯者だから教えても良いか…うん。…僕の力は単純。翼から落ちた羽の位置に物を移動出来る。」


「え…強くないですか?人も移動出来たりするんですか?」


「お、わかっちゃう?そうそう強いんだよねぇ。でも変わりに力使った後凄く眠くなるデメリットもあるんだよね。ちなみに人も移動出来るよ。」


物の瞬間移動。使用後の睡魔を含めたとしてもかなり強い力だと思う。例えば、羽さえばら撒ければ世界のどこでも移動出来るし、戦闘においても、羽を落としておくだけで背後を取って翻弄できたりする…うん。使い方さえ考えれば最強では?


「…ちなみに学校ではどうやって人を殺したんですか?この力だとそこまでは出来ないような…」


「あぁ…簡単だよ。ダーツみたいに羽を投げて、体に当たった羽と物を交換して中から…」


「待って、ストップ!グロいです…」


「あ、ごめんね。」


中から…何が起こるんだろう…考えたくもないな。


「分かりました。教えて下さってありがとうございます。でもこれ私要らないですよね…ごめんなさい…」


「いや、必要だよ。僕ってこう見えて、あんまり頭良く無いんだよね。だから、考えるのは雫に任せたいな〜って…」


「……ふふ、なるほど、分かりました。では戦闘は千鶴。作戦は私ということで……だとしたら、失恋姫セイレーンについて詳しく知りたいです…正直。私も頭は良く無いので…」


「そうなのかい?」


「はい。学校行ってませんし。ほとんど独学です。なので偏りがあるんですよね…」


「……それは…悪いことを聞いたね。」


義務教育まではしっかりと学校に行っていた。だから基礎くらいはある。でも、その時もイジメられていたし、行きたい訳では無かった。だが、小・中学生では身体的にも、経済的にも家出は厳しい。だから、せめて高校生になってバイトをするまでは学校に行こうと思ったのだ。


意外だったのは、親が高校に入学するお金を払ってくれたこと。というより、せめて高校には入れないと自分たちのメンツが保てなかったのだろう。人を道具としか思ってないのかもしれない。


「……よし、ちょっと空気を変えようか。さっきの偽目撃情報を流してみよう。」


「…分かりました。設定は…」


「そのまま僕が隣街辺りに居たってことで良いよ。変に作ってもボロが出るだろうしね。」


「分かりました。」


計画を練った私はスマホを取り出して、少しワクワクしながら失恋姫対策局に電話をかけ始めた。あれ、今更だけど逆探知とかないよね?



────────────────────

ども〜ゆーれいです。

第二話書かせて頂きました〜

若干眠い中書いたので、どこか誤字があったり、繋がりが変なところがあるかもしれません…(-.-;)


また不定期で更新していくので、ぜひ作品フォローとレビューもお願いします。


それではまた

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