恋愛に生きるこの世界で
ゆーれい
第1話 愛を知らない女の子
私は今日死ぬ。
いつからだろう。何も感じなくなったのは。
私は昔から虐待を受けて育った。産まれつき顔に痣があったから。そのせいで殴られて身体中にも痣が出来た。学校では、容姿でバカにされ、イジメられた。醜い顔をしていたから。学校1のイケメン…この世界の【
学校なんてもう1年は行っていない。どうせ醜いと罵られ、バカにされ…イジメられるのだから。かといって引き込もっている訳でもない。家に居れば、親に殴られ蹴られ…食費なんて出してくれないから、自分でバイトをするしかない。
そんな生活をしていたせいだろうか…いや、絶対にそのせいだろう。私はいつの間にか、怒りや悲しみ、ドキドキやトキメキという感情が分からなくなっていた。ただ一つ感じることが出来るのは、恋出来ることが羨ましいと感じる嫉妬心だけ。
この世界では役割なるものがある。
王子様とお姫様はさぞ幸せなことだろう。愛する人に守られ、愛する人を守ることが出来る。セイレーンはきっと悔しいんだろう。愛する人と結ばれず、奪おうとする。でも一方で幸せだ。恋をすることが出来るんだから。
何度も周囲を呪った。環境を呪った。運命すら呪った。私に危害を加える奴らは全員死ねば良いと思った。親も、クラスメイトも、まともに取り合ってくれない先生も、あの王子様も取り巻きも全部全部っ……
きっと私は不良品だ。皆が恋に生き、互いに結ばれ、時に失恋する。私はそれを、ただ羨んで見ているだけの傍観者。
少し前、学校で発生したセイレーンが数人を殺害し逃亡しているというニュースを見た。現在も捕まっておらず、指名手配となっているらしい。なんでわざわざ人を殺すのか、私には理解出来ない。再び恋が出来る余地を持っていながら、殺人でその可能性を消してしまう。もしかしたら、こんなことを考えてしまう私はおかしいのかもしれない。
いや、きっとそうだろう。私はこの世界に相応しくない。だから今日、死ぬ。
別に最期に注目を浴びたい訳ではないから、人の居ない静かな森で。
バイト帰り、思いたった私はロープを買い、近くの森に入った。ずんずんと迷い無く森を進み、数刻時間が経った頃、私は街を一望出来る崖の上に居た。
「うん…ここで良いや。せっかくなら綺麗な自然の一部になりたいしね。」
近くにあった木にロープを巻き、輪っかを作る。完成に近づくに連れ、私の心臓はバクバクと音を立て始めていた。
「なんでだろうね…死ぬのは怖くない…はずなのに。」
もしかしたら、私は今でも誰かに止めて欲しいと思っているのかもしれない。抱きとめて、必要とされたいのかもしれない。
でも、現実は無情で、そんな人間は存在しない。生を受けてから17年。これまで私の心の叫びを聞いてくれた人は1人も居ない。
「あぁ…なんで…涙がっ…!」
取り留めもなく、涙が溢れてくる。何も感じない…なんて口だけで、本当は怒っていた。悲しかった。恋もしてみたかった。一度で良いから…好き─って…言われたかった。
でも、もうこれで終わり。ここで私の人生は終了する。この輪っかに首を掛ければ、それで──
「………」
ひたひたと、靴を脱いでロープに近づく。
ロープを首に掛け──地を蹴る。
その瞬間。首にグッと力が加わり、私の全体重がかかる。
(!?!?く、苦しい…息が…出来ないっ……………………あぁ…本当に…終わるんだ………なんだったんだろう…私の人生…)
徐々に意識が薄れていく。この意識を手放したとき、私はもう2度と目を開けることは無いのだろう。
(さようなら…クソったれな世界──)
「ふ〜む…これは…どうしたもんか…」
(!?)
意識が堕ちる手前、誰かの声が聞こえた。しかし意識が朦朧とする私はその声の主を確認することも出来ず、静かに意識を手放した。
─目が、覚めた。
あり得ない。私は首を吊ったはずなのに。
「かはっ!はぁ…はぁ……ここは?」
「やぁ、起きたかい?ここは僕の家だよ」
「!?誰!」
突然背後から聞こえる声。咄嗟に振り向くと、絶世の──あのイケメン王子様なんかより、よっぽど顔の整ったイケメンが、マグカップで飲み物を飲みながらこちらを見ていた。そして私は、その顔にどことなく既視感を感じていた。
「え、あの…誰…なんで私を…」
「混乱してる様だし、まずは自己紹介をしようか。僕の名前は
どくんっと、心臓が跳ねた。どこかで聞いた名前。だがどこで聞いたのか分からない。
ぐるぐると頭をフル回転し、脳内ネットワークに検索を掛ける……そして、思い出してしまった。千鶴と名乗った男の、正体に。
「あ、あなた!学校で人間を殺して指名手配されてたっ!」
「しー…静かに。周りに聞こえてしまうだろう?」
千鶴は口元にピンと手を立て、声を抑えるように言ってきた。だが、私の脳には一つの疑問が出ていた。
「な、なんで男の人が
「…セイレーンっていうのは、嫉妬と怒りの感情が増幅することで生まれるんだ。それは時に、男性も例外ではない。」
あまり知られていないけどね、と千鶴は付け加え、続けた。
「僕はちょっと特別でね…数人殺したところで、冷静さを取り戻して逃げたんだ。」
「あ…へぇ、うん、えっ」
「…まだ混乱してるみたいだから、先に何で君を助けたのかって話をしておこうか。」
「え、は、はい。」
「単刀直入に言って……君、僕の共犯者になってくれない?」
そんな千鶴の頼みに…
「ふぇ!?」
と。恋愛経験も人間経験も無い私は、そう反応することしか出来なかった。
「ちょ、ちょっと待って下さい?…えっと…共犯者?指名手配犯の?私が?」
「そうさ。正直僕1人じゃ逃げ切るのは難しくてね……君さ、死のうとしてたでしょ。ていうか僕があそこに居なかったら既に君は死んでた。」
「……はい。なんであそこに居たのかとか、疑問はありますけど、一応…ありがとうございます。」
私はベットから降り、地面に膝を付いてから土下座をして感謝した。
「ちょちょちょ!?何やってんの君!」
「?いえ、感謝の気持ちを伝えているだけですけど…」
「いつの時代の人だい…君は。」
「???」
本当に訳の分からなかった私は、きっと間抜けな顔をしていたことだろう。ぽけーっと、口も空いていたかもしれない。
「はぁ…あのね、人に感謝を伝える時に土下座する人なんて今どき居ないよ?」
「え、そうなんですか?…でも、そうしないと殴られました。」
「っ…ごめんね。悪いことを言っちゃったかも。」
「?いえ、気にしてません。」
千鶴はどこかバツの悪そうな顔をしながら、話を元に戻した。
「まあ、話を戻すけど。死のうとしてたってことは、何かあったんでしょ?さっきの様子を見るに…虐待…とか?」
「っ………!」
「うん…図星みたいだね。…それじゃ、君が僕の共犯者になったら、僕が君に愛を教えてあげる。」
「あ…あい?」
「そう。愛。家族愛、友達愛、男女愛…人間なら誰しもが当たり前に受けるべきもので、きっと今の君に必要な物だ。」
「協力したら…教えてくれるんですか?」
「うん。教える。君の周りにはクズしか居なかったかもしれないけど、世界って言うのはそこで完結するものじゃないんだ。きっと、新しい世界が見えてくるはずだよ。」
他の人からすれば、あり得ない取り引きなのだろう。でも、それでも。私にはその報酬が、とても輝いて見えた。だって──
「……私、まだ分からないこともあるけど…協力させて下さいっ!私に、愛を教えて下さい!!」
「うん。君の未来は、僕が保証する。これからよろしくね。えっと…名前、まだ聞いて無かったね。」
産まれて初めて、こんなにも心臓がドキドキしているのだから───
「ふふ…私の名前は
────────────────────
どもども!ゆーれいです!
今回は永久保セツナ様主催の個人企画
『【シェアワールド企画】セイレーンバース【執筆者募集】』に参加させて頂きました!
どうですか?結構自信作なんですけど…
たまに更新すると思うので、ぜひ見て下さい!
それではまた
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