第二部

第30話 聖女様がやってきた! 


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 ご無沙汰しております! またちょこちょこ投稿していきますのでよろしくお願いいたします! 出だしから変態くさいですが、これが通常運転です。




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「すー、はー、すー、はー」


 どうもこんにちは、リンちゃんです。

 そしてこの呼吸音は、バックハグしながらレオが私を吸っている音です。

 私を吸ってるってなんだ? 

 なんだそれって思うよね。私もわけが分からない。

 なんかね、疲れていたレオを不憫に思った兄さまたちが「リンちゃんを吸うと回復するぞ」とアドバイスしてくれたらしいんだよね。

 知らなかったけど、兄さまたちの間では、「リンちゃん吸い」は常識だったんだって。常識ってなんだろうね。私の知ってる常識にはなかったよ、うん。

『秒で癒される魔法のひと吸い』とか『ちょっとリンちゃんキメてくる』とかって謎の造語があったと知って白目になったよ。

 そういや赤ちゃんの頃から確かに兄さまたちはリンちゃんの頭とかをハスハスしていたけど、そんな謎の常識が確立していたなんて知らなかったよ……。

 まあ兄さまたちが変なのは昔からだし今更なんだけど、その変な常識を最近レオが踏襲し始めたから困っているのだ。


「レオさあ……それ変態っぽいからやめたほうがいいよ。仮にも勇者なんだからさあ」

「勇者はもう引退したんだ。それに勇者であっても疲れないわけじゃない。特に精神的な疲れはただ休んでも回復しないんだ。リンは俺を助けてはくれないのか?」

「うぐ……いや助けないわけじゃないよ。レオには世話になってるし……」

「じゃあいいよな。お前に癒されたいんだ」

「うぐぅ……」


 さらにぎゅっと密着して抱きしめられる。レオは身をかがめて首筋に顔をうずめてくるからくすぐったくてしょうがないが、心を無にして受け入れる。


(はたから見たら、ただの変態行為だよなあ……)


 幼女の匂いを嗅ぐ勇者。嫌すぎる。

 レオは勇者を辞めたと宣言しているが国はそれを認めていない。

 この『国』というのは、魔王討伐後に作られた、人間と獣人、そしてエルフの国が統合された共和国のことである。

 種族の垣根なく皆平等に暮らせる平和な国が創られたのだが、その首領には本来レオが立つはずだった。

 だがレオはそれを蹴って、自分のせいで死んだタロの生まれ変わりを探す旅に出てしまった。


 国政は現在、各種族の王族が代理として執り行っているようだが、あくまでも「代理」であって首領の席はレオが座ると決まっていて、皆レオの帰りを待っているらしい。

 レオはここに来る前に一度、共和国と中央教会を訪れ王にはならないと正式に宣言したのだが、絶対にそれを認めないと拒否したのがあの三人である。

 あの三人とは、例のアレ。

 レオのハーレム要員だった巨乳聖女様と、ロリエルフと、ケモミミ女子のテンプレ三人組である。

 そしてここ最近、レオが疲れている理由はその三人に関係している。

 勇者パーティーとして魔王討伐を果たした彼女たちは、かつて授かった天啓に従い、レオの妻となるべくその帰りを待ちわびているのだ。


 この村に居つくようになって、それまで放浪してほとんど居場所がつかめなかった勇者の噂が国の中央にも届くようになった。

 まああれだけ派手に勇者の力を使って治水工事したり道路整備したりと大活躍していたら、人の噂にも上るはずだ。

 所在がバレたレオは、ここ最近彼女たちから届く大量の手紙と使者の対応に追われている。

 村でのんびり暮らしていたレオのもとに、ある時共和国の旗を掲げた使者が現れたのは、レオがここで暮らし始めて一年も経たない頃だった。


 放浪生活をしていた時は誰もレオの居場所を特定できないから干渉してこなかっただけで、レオが長期間村に留まっていると知った中央の人々が入れ代わり立ち代わり訪れるようになった。

 だが使者に対してレオは冷淡に対応してさっさと追い返して、もう来るなと脅して帰らせたため、訪れる者の数はすぐ激減したけれど、あの三人がよこす使者だけはそれはもうしつこく村に訪れては、レオに王都へ戻るよう説得を続けていた。

 一度ブチ切れたレオが魔力で威嚇して、死にたくないならもう来るなと強めに脅したのだが、あの三人からの使者だけは決して諦めず、手紙の返事をもらうまで帰れないと粘り続けている。

 一番しつこくて迷惑なのは、聖女様……アトフェの手紙を運んでくる使者だ。

 聖女様はレオに、とにかく帰ってきてレオには自分と結婚して王様になってほしいと願う気持ちを綿々とつづった手紙を大量によこしている。そしてその使者も返事がもらえるまで帰らないとねばったりとしつこいことこの上ない。

 エルフのエルダンからも似たような手紙が届いているが、こちらはまだ穏やかで、政治に関する話が多く、これはこれで無視しづらいらしい。

 獣人のカナカナも早く自分と番えというあけすけな内容の手紙が来て、それを読んだレオが足の多い虫を見つけたみたいな顔になっていた。

 とはいえアトフェもエルダンもカナカナも、まあ要は「はやく結婚して!」ってことが最重要で、そして誰が第一夫人になるかを決めろとしつこいのだ。

 

 その手紙を完全に無視できないのは、レオが対応を拒否すると村長である父様にそのしわ寄せがいくからである。

 特に王女である聖女様の使者は、立場上父様は絶対に逆らえない雲の上の人なので、レオは父様を慮って最低限でも対応しなくてはならなくなっている。

 

 使者同士が牽制しあって村の入り口で揉め事になることもあるし、村人たちに迷惑をかけているため、レオはここ最近精神的に疲弊しているのだ。


「疲れた……もう俺のことは放っておいてくれと言っているのに、まるで話が通じない。アイツらは俺の言葉が理解できないのか?」

「了解以外の言葉は受け付けないってことでしょ。勇者は大変だねえ」

「リンはずいぶん他人事じゃないか。俺が他の女に求婚されても平気なのか?」

「へっ? 平気って、いや、その、えっと、リンちゃんはまだ子どもなんでぇ……」

「あと七年もすれば結婚できるだろ。いつまでそうやって誤魔化すつもりだ」

「レオちょっと眼力が強すぎるよ。怖いって」


 疲れのせいか、ここ最近レオの闇落ち感が増している気がする。

 再会した時のガンギマリっぷりを思い出す。あの三人娘たちから連絡が来るようになってから、ピリピリしていて兄さまたちも怯えながらも心配している。


「勇者なんだから、責務を全うすべきだとか、責任から逃げるなとか……俺は別に望んで勇者になったわけじゃない。むしろこんな役目がなければタロが死ぬことはなかったのにと思うと恨めしくもある。ようやく落ち着ける場所を見つけられたんだから、もう放っておいてほしいんだよな」


 タロのことを持ち出されると何も言えなくなる。俺がレオの気持ちも考えず勝手にかばって死んだから、コイツは死ぬよりもつらい日々を一人きりで過ごしてきたんだ。

 レオは村に住むようになってようやく、夜しっかり眠れてご飯が美味いと感じられるようになった。

 だからもうそっとしてほしいと思う気持ちは痛いほど理解できる。


「……そうだね。レオはもう十分に責任を果たしたと思うよ。もともとさ、ただの孤児だった俺たちが背負えるようなものじゃなかったよ。それでもレオは立派に魔王を斃して世界を平和に導いたんだから、これ以上は求めすぎだ」

「リン……」


 レオの言葉を肯定すると、きつくとがっていたレオの目じりが緩む。

 過去を思い出しながら喋っていると、私の中に残っている『タロ』の意識が戻ってきてしまう。レオの気持ちを受け止めきれずにいるのは、レオといるとどうしてもそっちの意識が強くなるせいだ。

 手を伸ばしてレオの頭をよしよしと撫でてやると、ぐいっと頬を持ち上げられ、レオが顔を寄せてくる。

 あ、これキスする流れだと気づいて必死に腕を突っ張って抵抗する。


「んえっ! ちょっと待て! 俺の、私の気持ち的にっていうか、なによりやっぱさ絵面が! 絵面がやばいんだよ! リンちゃんはまだ六歳だからー!」

「成人男性だった記憶もあるんだから年齢は問題ないだろ」

「それはそれで問題あるだろー! 中身が元親友の幼女にキスするお前のメンタルがやばいんだってえー! むぐぐぐ」


 あわや唇に食いつかれそうになった瞬間、部屋のドアがバーン! と音を立てて開いた。


「お、お前―! リンちゃんに何をするー!」

「リンちゃん吸いは許したけどそれ以上は許してなーい!」

「この変態がー! リンちゃんはまだ子どもだぞー!」

「俺たちだって唇にキスは遠慮してるのに! お前だけずるいだろ!」

「疲れて大変そうだったからって同情した俺たちが馬鹿だった!」

「同情につけ込んでリンちゃんを手籠めにするつもりだなこの野郎!」

「勇者だかなんだか知らんがここではお前の好きにはさせん!」


 ドドドっとなだれ込んできたのは七つ子の兄さんたち。恐らく扉の前で聞き耳を立てていたと思われる。

 いつも(物理的に)舐めるようにして可愛がってくれる兄さまたちは少々愛が重すぎると思わないでもないが、今は兄さまたちグッジョブと言わざるを得ない。

 

「兄さまたちナイスタイミング」

「チッ」


 レオの舌打ちが聞こえた気がするけど気づかなかった振りをする。というか、タロが知っているレオは舌打ちなんかしない真面目ないい子だったのに……! 時の流れは残酷だ……。



 しぶしぶ私を兄さまたちに返却するレオ。素直だ。

 時々からかって転ばせたりするけど、基本的にレオは兄さまたちの言うことは尊重している。私の家族だから、大事にしてくれているんだと思う。特に母様のことは崇拝レベルで大事にしている。

 母様もレオのことを当たり前のように新しい家族として受け入れて可愛がっているから、レオにとっては予想外でそして嬉しいのだろう。

 父様やグラム兄さまとも仲が悪いわけではないが、二人はレオのことを「勇者」として見ている部分が大きいから、レオもどこか一線引いているように見える。

 それに引き換え七つ子兄さまたちは、勇者だからなんだってんだ! というスタンスで全く遠慮がないため、レオは割と七つ子兄さまたちを好いている。

 絶対的強者であるのにレオは偉ぶらないし、ちゃんと家族になろうと努力してくれていると思うんだ。

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