第15話 生まれ変わったけど、思ってたんと違う
『はい、お疲れ様~きっちり仕事をしてくれたから、神様も脚本どおりに世界が救われるって喜んでいるよ! ありがとうね、タロ君!』
「……は? ……ああ、声の人っすか……あー俺死んだんすね」
目が覚めると、いつかの白い光に包まれた空間に俺はいた。
相変わらず軽いノリの声が聞こえて、俺は自分が死んだのだと理解した。
『そんでねえ、大変な役目を頑張ってくれたタロ君に、神様からスペシャルご褒美をあげてほしいって言われているんだ。次に生まれ変わるときに、なんでも欲しいオプションあげちゃうよ~。なにがいい? モテモテハーレム人生? 魔法のチート能力もらってなんでも思い通り楽々人生? あ、もちろん生まれ変わらないっていう選択肢もあるよ。神様の庭でのんびり隠居生活とかもありかもね~』
声の人のテンションにうんざりするが、怒る気力も出てこない。
「はあ……つーかレオは本当に大丈夫なんですよね? めっちゃくちゃ泣いてましたけど、アイツちゃんと立ち直ってあの子たちと幸せになるんですよね?」
『あーそっちの心配? 大丈夫だよ~これで脚本通りになったから! さっき勇者の力も限定解除されたし、すぐに魔王を斃して、勇者君は、それぞれの女の子とたっくさん子どもこさえて幸せな余生を送る予定だから!』
「ああ……そっすか……ハハ……」
『だから君はこれから自分の身の振り方だけを考えてくれればいいよ~。さ、どうする?』
声の人に言いたいことは山ほどあるが、レオが幸せになるっていうならもういいや。
俺また生まれ変わるとかアリなんだなあ。
どうすっかなあ。でもでもハーレムとかチートとか言われてもなあ……気苦労多そうだしなあ……。
「……じゃあ俺、家族が欲しいです。大家族の家に生まれて、親や兄弟に囲まれて、お互いを慈しんで、愛して、大切にするような、そんな温かい家庭で育ってみたい。そんで、普通に恋愛して結婚して、たくさんの子どもの親になりたいです。願わくば、最後たくさんの子どもや孫に囲まれて生涯を終えたい」
『へ? そんなんでいいの? 普通すぎてご褒美になんなくない? なんかもっとオプションつけようか? 特殊能力とか、大金持ちとかさ』
「俺にとって、その人生は、普通じゃなくてものすごく贅沢で手の届かないものなんですよ」
『うーん、そーかー本人がそれでいって言うならいいかなーでも怒られるかなー』
声の人はしばらくブツブツ独り言をつぶやいていたが、しばらくすると『まあいっか!』となんとも軽い声が聞こえてきた。
『うん、じゃあ今タロ君が言った人生が、今回の働きに対する報酬ね! じゃあさっそくいってらっしゃい! もう会うことはないだろうけど、色々ありがとう、次こそはよい人生を』
声の人がそう言って、いつかのように白い手が俺を光の中から押し出した。
あ、落ちる。
落ちていくような、吸い込まれていくような感覚に既視感を覚える。ああ、俺生まれ変わるんだな……と消えゆく意識の中で思った。
***
そして現在。
声の人は確かに俺の希望をかなえた人生をプレゼントしてくれた。
そう、俺は大家族の家庭に生まれたのだ。
希望したとおり、家族を慈しんで大切にする、温かい家庭に。
でも、でもなあ……。
「リンた~~~ん。可愛い~今日も可愛いね~リンたん大好きぃ~」
「リンちゃんはあはあ……今日もいい匂い……」
「リンたん、おはようのちゅーは?」
「リン、お顔にいたんが洗ってあげるね」
「リンちゃん生まれてくれてありがとう! 愛してる!」
「リンちゃんが可愛くて死ぬ……」
「リンちゃんは一生にいたんが守るからね!」
「……」
うーん、どうしてこうなった。
毎朝毎朝、俺は七人の兄たちに起こされ、着替えからなにからお人形よろしく世話をされている。
そりゃね、大家族の家に生まれたいって言ったよ?
親や兄弟に囲まれて、お互いを慈しんで、愛して、大切にするような、そんな温かい家庭で育ってみたいって言ったよ?
確かにこの家は、父さん母さん、今年二十歳の長兄、そしてなんと十五歳の七つ子の兄がいる、まごうこと無き大家族だよ?
確かに幸せだよ?
家族からめちゃくちゃ愛されているよ?
俺も家族を愛しているし、希望通りの転生だよ?
でもね?
でもね?
(なんで俺、女の子に生まれ変わってんの――――!?)
あるべきものがないと気づいた時の衝撃は忘れられない。
ぎゃああああと赤子らしからぬ叫び声をあげて家族を恐怖のどん底に突き落としたのはホント悪いと思っている。
……ねえ、声の人。酷いバグが発生してますよ?
俺、前々世から男だから、女の子の体に違和感しかないんだけど?
百歩譲って、女子にするんだとしたら、せめて前世の記憶をもっと薄めてくれよ。心と体が一致しないんだよ。
あれかな? たくさんの子どもの親になりたいとか言ったから、だったら自分で産めやゴルァってことなのかな? 産みの苦しみも背負ってこその子だくさんってこと? でもだったらメンタル男のままにしたらダメでしょ? そこんとこ分かってる?
心の中で声の人に呼びかけるけど、生まれ変わった俺の声はもう届かないからどれだけ叫んでも無駄なんだ。
というわけで、今世の俺は大家族の末っ子、紅一点のリンちゃん(三歳)なのである。
はあ……ようじょしんどい。
「リンちゃん、おはよう。あらあら今日も七つ子たちはリンちゃんにべったりね~。おかあさんもたまにはリンちゃんと一緒に寝たいわぁ」
「あ、かあしゃま。おはようごじゃいます」
七つ子に囲まれている俺のもとに、朝のしたくを済ませた母さんがやってきたので挨拶をした。
我が家は俺を含めて11人家族という大所帯である。
父さんのグレアム。母さんはアクア。一番上の兄はグラム。
七つ子は、上からセンティ、ミリー、マイクロ、ナノ、ピコー、フェムト、アット。
母さん儚げでほっそりした美人なんだけど、なにをどうやって七人も一気に産んだの? 異世界だから産み方も違うの?
まあ、男ばっか八人もいる家だけど、父さんと母さんも仲良しで、俺が生まれる前からも家族仲はすこぶるよい。町でも仲良し家族で有名だったらしい。
父さんは、ド田舎の小さな村の村長をやっている。対して儲かる産業もなく、ほそぼそと農地を耕して暮らしている若干寂れた村だが、犯罪もなく平和そのもので村人も皆穏やかで優しい。
特別裕福ではないけれど、これまでの人生から考えると俺の新しい生はものすごく幸せである。
回らない口で朝の挨拶をすると、母さんは可愛くてたまらないと言った顔になる。
「あ~んうちの子なんて可愛いの~! 好き! やっぱり息子たちに独占させるのくやしいわあ」
「母さんは父さんと一緒のベッドではないですか!夫婦水入らずでお休みになってください。リンたんのお世話は俺たちがやるんで!」
「ええ~おかあさんが女の子欲しいから頑張って産んだのにぃ~。もっと私に可愛がらせてよう」
毎朝恒例のことだが、俺を溺愛する七つ子の兄と、母さんとのリンちゃん争奪戦が始まる。
それも仕方がない。自分で言うのもなんだが、なんせリンちゃんはものすごく可愛いのだ。
かあさま似の菫色の髪と瞳に、まっしろすべすべな肌。顔の造形は自分で鏡を見るたびに驚くくらい整っていて可愛らしい。だから余計にこの体が借り物のようで、どうも馴染めない。
かあさまは男ばっかり八人生まれちゃって、どうしても女の子が欲しくて、高齢出産のリスク覚悟で俺(リンちゃん)を生んだらしい。
『女の子をお恵みください~って神様に一生懸命お祈りしたのよ~そしたらこんな可愛いリンちゃんを神様は授けてくださったの!』
と、以前母さんから言われたことがある。もしかしてその願いが届いて俺は予定外に女の子で生まれちゃたのかなあと考えたが、考えたところで性別は変わらないので仕方がない。
仲良しの大家族の家に生まれて、文句をいうつもりもないけれど、でもやっぱ男がよかったよ神様……。
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