第8話 完全に邪魔者だけど?
聖都に到着してから一週間、心構えもできないまま、俺たちは出立の日を迎えた。
レオはなにやら魔王に関する伝承とか、過去の大侵攻における魔物の出現傾向なんかをレクチャーされていたみたいだけど、この俺は一体この討伐においてどういう立ち位置で行けばいいのかと、国のエライ人たちが頭を悩ませていた。
そもそもお偉いさんたちの思っていた勇者パーティーの頭数に俺なんか入っていなかったのだ。それを無理言ってついて行こうとするから、予算も含めどういう扱いにするべきか、お偉いたちは困ってしまったらしい。
「いや、別に俺がごり押ししたわけでもないのになんで俺が迷惑な人みたいに扱われてるの?」
結局、パーティーの補佐役……というか荷物持ち兼食事係みたいな雑用に落ち着いたらしい。戦力外だしね、そんな役しかなかったんだろうけど。
盛大な見送りとかやめてくれとレオが言ったので、俺たち討伐チームは大司教様とか騎士団長さんとか数人だけに見送られ、ひっそりと聖都を旅だった。
「森までどれくらいかかるんだっけ……」
雑用係として、渡された地図を開いて荷馬車に揺られながらぼんやりと眺める。
馬の手綱を繰る御者はもちろん俺。雑用係だからね。
でもなぜかレオまで御者台に座っている。
「レオ様ぁ、どうかこちらに来てくださいませ。そちらではお風邪を召されます」
「レオ様、エルフの伝承についてお話がしたいのですが」
「レオ様、腕相撲しようにゃー」
「おい、後ろ行けよレオ、呼ばれてんぞ……なんでお前御者台にいるんだよ」
「だって三人いっぺんにしゃべるから対応に困るし、なんかあの子らみんな距離が近いから居心地悪い」
女子三人はどうやら肉食系女子らしい。傍で見ている俺も引くくらい、レオにグイグイくる。
なんならベッドに誘い込む勢いの彼女たちに、女慣れしていないレオが引いても仕方がない。
俺とレオがいた孤児院にいた女性と言えば、シスターだったし、孤児の女の子たちもシスターを見本に育つから、穏やかで控えめな子ばかりだった。
だから俺たちはこういう自己主張の強烈な子に免疫がないのだ。
レオは初っ端から引き気味で、事あるごとに俺のところに逃げてくる。つか、それやられると、あの三人に睨まれるのは俺なんだけど、そこんとこ分かってる?
最初に宿場町で宿を取ろうとした時、あの三人「我々は勇者様と同じ部屋で」とか言い出すから、シスターの教えを受けて育ったレオがドン引きして顔を真っ青にさせていた。こりゃあかんと俺が必死に嫁入り前の女の子とは同室にできないと拒否した。
だが三人は、そんな俺を睨みつけて怒りをあらわにする。
「勇者様の心身を癒して差し上げるのも、我々の大切な役目でございます」
だから女性である我々が神に選ばれたんだと言い出す彼女らに、俺の目玉がどこか飛んでいった。
俺は前世知識で、あっ……そっち方面の癒し?……って分かったけど、エロ本のひとつもない孤児院育ち純粋培養のピュアボーイレオくんにはよく分からなかったらしい。
「みんな一緒の部屋だなんて、騒がしくて落ち着かない。君たちの着替えのたびに部屋をでなければいけなくなるし、無理に大部屋にする必要ないでしょ。くつろげないから俺は無理」
と、普通に一蹴してさっさと俺と同室にする手続きをしていた。
女子三人の殺意溢れる視線が俺に突き刺さって、この時は本当につらかった。
三人がレオにまとわりつくと、すぐに俺のところに逃げてくるもんだから、最初っから余計者だった俺がさらに邪魔な存在になったらしく、レオの見ていないところでかなり風当たりが強くなってきた。
宿に泊まる時だけでなく、レオは一事が万事その調子で、このやり取りが移動中何度も繰り返され、一カ月経つ頃に彼女たちのイライラはピークに達した。
校舎裏……もとい、途中寄った町で、俺がレオを別行動をしている時に女子三人に裏路地に連れ込まれた。
聖女様に壁ドンされて、こんなにもときめかない壁ドンがあるのかと心の中で涙を流した。
「あなた、なぜ私たちとレオ様の邪魔をするの? 私たちが勇者様と親交を深めることも、大切な使命のひとつなのですよ。あなたは魔王討伐を失敗させたいのですか?」
ひえ……聖女様こめかみに青筋浮いてますよ……。
「いや、俺が邪魔をしているわけじゃなくて、レオはまだこの状況に戸惑って不安なんだと思いますよ。アイツは無理に距離を詰めると怖がるから……そもそも恋人でもない女性と同じ部屋はおかしい、ぶべらっ!」
放している途中でケモ耳女子に横っ面を張り飛ばされた。
えっ、怖い。フツーいきなり殴る? 一応抗議しようと口を開きかけたが、それにかぶせるように彼女に怒鳴られてしまった。
「ボクたちは御使い様から仲を深めるよう言われているニャ。魔王を討伐した後の世界を創っていくうえで、子どもをつくることも重要な役目となるのニャ。勇者様の寄生虫が余計な口を挟むんじゃにゃい!」
「は? 声の人……じゃなかった、御使い様が、本当に信託として勇者を口説いて子作りしろっつったの?」
「身もふたもない言い方をすればそうです。そもそも勇者の翼賛者は花嫁の意味でもあります。もしレオ様がお気に召してくださるのなら、わたしたちは皆レオ様の花嫁となります」
「うわ……神様はマジでハーレムにするつもりだったのかよ……てか聖女様、杖で脇腹ゴリゴリするのやめてくれません?」
でっかい宝石がついた杖があばら骨に刺さってちょう痛い。ロリエルフはさっきから脛を蹴ってくるし、なんでこの子たちこんなにバイオレンスなの?
「討伐メンバーと無関係のあなたはご存じないことだったでしょうが、そう言った事情がございますので、これからはどうぞご遠慮なさってくださいませね?」
そう言ってから聖女様は俺に癒しの魔法をかける。そして話はもう済んだとばかりに、女子三人は踵を返して裏路地から去っていった。
一瞬癒しをかけてくれたことに感謝しそうになったが、単に暴力の証拠隠滅だなと気づいて悲しくなった。
すぐに戻るとレオの前で挙動不審になりそうだから、その場に座って気持ちを落ち着ける。
「それにしてもさあ……まじかよ声の人。この世界の脚本は、勇者のハーレムエンドなわけ? 引く……ドン引く……神様ってゲスじゃん……」
てっきりあの子たちが張り切りすぎて、もしくはレオが好みのタイプだったかしてグイグイ迫ってきているのかと思いきや、まさか声の人の指示だったなんて……。
あの子たちは、それが神様の脚本なのだとは知らないから、そんなゲスい指示も尊い神の啓示だと信じて疑っていない。
でももし俺がその事実を伝えたとしても、まず信じないだろうし、知ったところで俺の意見に彼女らが従うわけがない。
俺への態度に腹が立つこともあるが、彼女らは自分たちの使命に従っているから、それを邪魔しそうな俺を排除しようとしているだけなんだろう。
「あの子らも、この世界の被害者なんだよなあ……」
いや、あの子たちだけじゃない。
誰よりもこの世界の脚本に振り回されているのは、レオだ。
アイツは元々ケンカとか苦手で、誰かと揉めたり傷つけたりするくらいなら自分が我慢しようって思うような優しい性格なんだ。
こんな風に、使命を押し付けられて剣を持たされて凶暴な魔物と戦うなんてこと本当はしたくなかったはずだ。
俺だけが、この世界の犠牲にされているような気でいたけれど、そうじゃないんだよな……。
俺は、どうすべきなんだろう……。
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