第7話 テンプレキャラが来た!


 



 大聖堂から移動して、どこへ連れていかれるのかと思ったら、なんとそこは王城だった。

 あれ? これうわさに聞く、謁見の間? みたいなとこ? 玉座とかあるし。そこに偉そうな爺さん座ってるし……と思いながらコソコソと皆の後ろをついて行くと、玉座へ続く長―い絨毯の先に、三人の女の子が立っていた。


 うーん。

 うーん……。


 巨乳。

 ロリ。

 ケモ耳。


 うん、冒険ファンタジーテンプレのキャラが目の前に揃っている!

 なんかちょっと遠い目になる俺。

 世界の脚本を書いた神様って絶対オタクだと思う。テンプレが過ぎると興ざめするもんなんだな……。



 騎士団長さんがその三人の前にレオを連れて行くと、そろって三人が跪いた。

 そのうちの一人、シスターのような白い服を着た子が顔を下げたままレオに口上を述べる。


「わたくしたちは、勇者レオンハルト様にお仕えするという栄誉ある使命を御使い様より賜った翼賛者にございます。わたくしは、サルニアーナ王国の王女、アトフェと申します。『聖女』の役目を神より授かりました」


「私はエルフ国より参りました、エルダンと申します。『魔術師』の役目を賜りました。命を懸けて勇者様をお守りすることを誓います」


「ぼ……ワタシは獣人国のカナカナですニャ。『闘者』だと御使い様から啓示を受け、この場に参りました。世界を救う崇高な魂を持つ勇者様と、共にあれることを誇りに思いますニャ」


 三人の女の子がそれぞれレオに挨拶をした。

 ケモミミ女子が語尾にニャとつけ始めた時点で俺は白目になっていた。

 これが共感性羞恥か……。中学生の時、クラスのオタ友が急に一人称が『我』になってノートに謎の魔法陣書いていた時に、周囲のドンびいた目が我が事のように辛かった。オタ友がその視線に気づいてない分、俺がダメージをくらっていた気がする。

 まあ何が言いたいかって、俺は未だに精神はニホンジンだった頃に引きずられているってことだ。



「この者たちは、勇者様の守護を担うもの。魔王の発生地には、既に生まれた魔物がその周囲の守りを固めています。魔王を斃すことが出来るのは、勇者の魂を持つレオンハルト様だけですので、その地まで勇者様をお連れする役目を神から賜った、その者らとともにこれから彼の地を目指して旅に出て頂きたいのです」


 大司教様が、補足するようにレオに話しかける。


 はっきり言って、こんな成人前の女の子より後ろにいるガチムチの聖騎士さんたちのほうがよっぽど戦いに向いているはずだ。それなのにこの子たちを指名するんだから、この神様は本当にこの世界を脚本でしか見ていないのだ。


「つーか、これ、よくある勇者のハーレムパーティーのお話?」


 神様はラノベの読みすぎではないだろうか。

 そりゃね、俺だって漫画やアニメで見るなら、絵面的にむさいオッサンより可愛い女の子がラッキースケベとか発動しながらわちゃわちゃ戦う話のほうを選ぶよ?でもさ、現実として生きて体感している側からすると、こんな若い女の子に戦わせるのはやっぱおかしいって思うんだ。


 神様側からすると、俺らの生き死にも世界の崩壊もやり直しのきくゲームでしかないのかもしれない。

 そう考えると、神様の横暴を皆に暴露してやりたくなるけど、でもここにいる人たちはみんな御使いとやらの無茶ぶりを崇高な使命だと信じている。


 俺はひとり、どこにもぶつけられない怒りをこらえるように拳を握った。


「勇者様。この者たちと魔王の発生地へ向かってください。彼の地へは、この聖剣が道を示してくださいますので、剣と御使い様のお声を聞き、どうか魔王の討伐を果たしてください。世界の命運は、あなたが握っておられるのです」


 いつの間にかそばに来ていた王様が、レオの前に跪いて懇願する。

 大司教様もそれに倣いレオに首を垂れる。そして、謁見の間の両側で控えていた近衛兵も一斉に膝をついた。

 この場に立っているのがレオと俺だけという状態になり、全員から『え? お前なに立ってんの? 不敬なんだけど。つかお前誰?』って目線が突き刺さる。



「わ、分かりました。分かったんで、皆さん立ってください。俺にできるか分からないけど……」


 レオが諦め顔で了承すると、皆からわぁっと歓声が上がった。

 勇者様、勇者様! と皆がレオに群がるので、俺は突き飛ばされて人の輪からはじき出されて転んでしまった。そしてちょっと、いやだいぶ踏まれた。ねえ、追い打ちに蹴るのやめて……。



 出立の前に禊のため、祝賀会を行いましょう! と、盛り上がる人々を遠めに眺めて、そういえば飯まだ食ってなかったことを思い出す。

 多分祝賀会についていっても俺はいれてもらえない気がするから、食事をどうしればいいのか。


 さっきの騎士団おっちゃんらの宿舎とか行けばなんか食わしてくれるかな……。

 団長は俺にも親切だったから、頼めば食事と寝床くらい恵んでくれるだろう。もりあがる人々にそっと背を向けて部屋を出ようとしたら、またしてもすごい勢いで後ろから捕獲された。


「どこ行くんだよ? タロはどうしてすぐ逃げようとするんだ? 困ったときはいつも助けてやるってタロ言ってたじゃん。俺だけじゃこんな大変な役目、頑張れないよ」


「あ……レオ。でもさ、お前を支えてくれるってゆーそこのメンバーがいるから、そろそろ俺はお役御免かなってさ。つか俺、なんの特殊能力もないし、一緒に行っても足手まといだって……」


「無理。無理無理、あの子らとは初対面だし。俺、人見知りだから、タロがいないと三対一になって気まずい。困ったとき、いつもタロがアドバイスして解決してくれたじゃないか。頼むよ」


「んー……でも俺はメンバーに選ばれていないしさ……」


 神様の脚本がハーレムルートなら、俺は完全に余計者だ。この場にいる人々の視線からも、『勇者様のおこぼれにたかる虫』と思われているのをビンビン感じるから、正直しんどい。

 するとレオがパッと右手を上げて、皆の注目を集めた。


「……なあ、みんな! タロは俺のキョーダイだ。討伐の旅に彼は欠かせない。だから彼を連れていくのは俺の意思だ。どうかタロを尊重してくれ」


 レオは広間に響き渡るような大声で呼びかける。


「……そちらの方はご兄弟でいらっしゃいましたか。我々は勇者様をお支えすることが使命です。レオンハルト様がお望みであれば、旅の道中我々が全力でご兄弟様をお守りいたします」


 巨乳聖女様が全体を代表して言った。


「うん、よろしくね。頼りにしている」


 作り笑顔でレオが応じる。何が人見知りだ。めちゃくちゃコミュ強じゃねーか。


 女子三人にさわやかな笑顔で挨拶する、勇者様のレオ。

 あ、俺も挨拶したほうがいいんかなと思って、レオの横からひょいと俺が顔をのぞかせると、それまでうっとりと頬を染めてニコニコしていた女子三人の表情が一気に『無』になった。


 ……全っ然、よろしくしてくれそうにない。


 もうこの時点で心が折れそうだったが、レオが後ろを向いた瞬間にケモミミの子が中指を立ててきたので俺のガラスのハートは砕け散ってしまった。

 レオくーん! このパーティーに俺が入るの無理そうだよー!


 よくよく廻りを見渡してみると、みんな呆れたような蔑む目線を俺に送ってきている。聖騎士団のおっちゃんたちだけが、憐みの表情を浮かべているが、すがるように見つめるとそっと目を逸らされた。


 どうやら、何の使命も持たないモブが崇高な討伐の旅に余計なモノがくっついてくることをよく思わない人が非常に多いらしい。


 望んでついて行くわけでもないのに、厄介者扱いとか、まじでろくでもない立場だな……。

 どうにか途中離脱できないものかと、遠い目をして頭を悩ます俺なのであった。




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