第3話 成長したけど?
気付けば俺は、十五歳になっていた。この世界の成人が十六なので来年にはこの孤児院を出てどこかで仕事につかねばならない。
この年になってもまだ神様からのお知らせがないままなので、もうあれは何かの間違いか、死にかけたことによる幻を見たのかもしれないな、と思うようになった。
前世の記憶というのも成長とともに所々あいまいになってきたし、ひょっとしてすべてが俺の見た夢だったのもしれない。
特に役目とかないのなら、今後どう生きていくか考えていかなくちゃいけない時期に来ていた。
「お前、成人したらどうしたい?」
俺はここ最近、毎日のように、将来どうするかって話を一番仲良しのレオンハルトとよくしている。
レオンハルトは俺と同じ村出身の子どもだ。
俺たちの村は、魔物が発生した場所から一番近い場所にあったため、生き残ったのはうまく隠された赤子だった俺とこいつの二人だけだった。
同じ年で、お互い唯一の同郷である俺とレオンハルトは、物心つく前から二人で支え合って生きてきた。
いずれ孤児院を出てどこかで生きていくにしても、二人で協力して生きていこうと約束していた。
「タロは? 俺はタロのしたいことについていくよ。俺、自分じゃどうしたらいいか分かんないし」
レオンハルトは、今でこそ孤児院で一番のっぽで力持ちだが、成長期が遅くて幼いころは誰よりもチビでガリだった。そのせいでこんなにデカくなったにも関わらず、いつも自信なさげで、なんでも俺に決めてもらおうとする。
どうでもいいけど、こいつの名前が『レオンハルト』で、俺が『タロ』なんだよ。俺だけ犬っぽさ満載。名前格差あり過ぎ。
確かに現在の顔面偏差値的にはピッタリなのかもしれないけど。同じ村出身なのに、レオは超キレイな金髪碧眼。かたや俺は地味なこげ茶の髪と目のTHE地味……って感じだし、文武の才に恵まれたレオとは違い、特別秀でたところが見当たらない俺は何をしてもパッとしない。
「レオは魔法の才能もあるし、もしかしたら聖騎士団にも入れるかもしれないだろ。俺はまあ……聖騎士になるには身長が規定に足りないし、同じ所属にはなれないだろうけど、騎士団の食堂とか近い場所で仕事を探すよ。だからお前はちゃんと自分の才能に見合ったとこを目指せ」
「……タロが一緒じゃなきゃ無理だよ。だったら俺も食堂で働きたい」
「レオは、図体はこんなにでかくなったのに、いつまでたってもガキだなあ」
俺が呆れたようにそう言うと、レオンハルトは心底嬉しそうにニコニコと笑った。
しょうがねえなあと言いながらも、レオが全力で寄りかかって頼ってくれるのが本当は嬉しかった。
たった二人の生き残りで、お互い依存していた自覚はある。
俺は前世日本でも、家族の縁に薄かった。
母子家庭だった。祖父母もいるのかいないのか分からないが、生涯で一度も会ったことはなかった。父親のことは、俺が子どもの頃に亡くなったと聞かされていたが、写真の一枚もないので、それも本当か分らない。
経済的に裕福ではなかったが、母と二人で十分暮らせていた。特別不幸でもなかった。
だが、同級生たちから父親や祖父母の話を聞くたびに、ウチは家族の層が薄いな、と心細いような漠然とした不安が常にあった。
その不安は、ある時現実として残酷に突きつけられることになる。
俺が大学二年の時に、母が急死した。
ちょっと具合が悪いと、風邪でも引いたかと言っていたのは覚えているが、その後救急車で運ばれたと病院から連絡が入り、何が起きたのか分からないまま、その一週間後に母親は亡くなった。
母の死が受け入れられないで呆然としていたが、葬儀や死亡の手続きは唯一の家族である俺がやらなくてはならず、相談できる人も頼る人もいない自分の現状に、どうしようもなく不安で虚しくなったのを覚えている。
風邪をこじらせて死んだときも、もし家族がいたら、すぐに電話をして、『助けて』と言えたのかな、と薄れゆく意識のなかで思った。あの時、心の底から、『寂しい』と感じた。
この世界でも同郷であるレオンハルトだけが、この世界では俺にとって家族のようなものだった。だからレオが頼ってくれるのが嬉しいし、コイツのためならなんでもしてやろうと思うし、レオも俺を唯一の家族だと言ってくれている。
でもはっきり言ってコイツは食堂の雑用なんかやる器じゃないと思う。
基本的な生活魔法は皆平等に習うが、レオはいつのまにかその基礎をアレンジして色々な魔法が使えるようになっていた。これ上級魔法なんじゃ? てくらいのとんでもない技を軽々披露してくる。レオは気が弱いけど、図体がでかくなってからは町でケンカをふっかけられても負けたことがない。
だからコイツは自分の才能を活かしてもっといい仕事につけるはずなんだ。
聖騎士が一番名誉ある職で金も稼げるのだから、レオは聖騎士になるべきだ。俺は同じ高みにはいけないけれど、俺にできることでレオをサポートしてやるんだ。
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