第2話 赤子に転生したけど?
***
自分が赤ちゃんになっているって自認するのは結構難しい。なにせ視界がぼんやりしているうえにほとんど身動きができなくて、最初は訳が分からなかった。
でも自分の手を眼前に限界まで近づけて、ちっこいおもちゃみたいな手であることを視認してようやくこの体の状態について理解したよ…………。
(おい!声の人―! 追ってお知らせするとか言ってたけど、それっていつー! 神様のお手伝いするなら何か特殊能力とかオプションがあるんだよね? というか赤子になんのお手伝いができるのー?)
声の限りに叫んだけれど、『ほぎゃあああんほぎゃあああん』と赤ちゃんの泣き声にしかならない。
やけになって泣いていたら、声を聞きつけたのか、誰かの大きな手が俺の足を持ち上げてオムツを取り換えてくれた。精神年齢24歳でシモの世話をされるのはかぎりなく恥ずかしいけど、赤ちゃんだからしょうがない。
あ、すっきり。乾いた布の感触がキモチイー。
って、すっきりしている場合じゃない。
その後も心の中で声の人への呼びかけを試みるが、反応は全くない。
しばらくジタバタと叫んだり泣いたりしてみたが、お世話してくれる人が時々くる以外、反応がなかったので、数日もがいた挙句、諦めた。
……とりあえず、赤子に生まれてしまった以上、頑張って生きるしかない。
神様からのお知らせを待ちながら、日々を生きる。
生きるっていっても誰かに世話されているので、生かされているって言ったほうが正しいかもしれない。期待していた特殊能力は今のところ見受けられない。
最初のころは、視界もぼんやりしていて誰が誰だか分らなかったが、どうやら俺の世話をしてくれているのは何人かいるようだと気が付いた。どの人も母親とかではないらしい。それに子どもの声が常にたくさん聞こえている。
大家族で乳母とか使用人とかいるのかしらんと思ったけど、その割には最低限にしかお世話をされないし、だんだん見えるようになってきたら自分が結構みすぼらしい恰好をしていると気が付いた。
成長するにつれ、どうやらここは孤児院のようなところらしいと分かった。お世話してくれているのは年配の修道女のような人たちだ。
(わあ…………俺、孤児なんだ)
気づいたときは若干ショックだったけど、ママが恋しい年ごろでもないし、衣食住用意されているだけで有難いと思うようにした。
オムツやらお腹空いたとかで訴えるためには泣くしかなかったけど、それ以外では俺は非常におとなしいデキた赤子だったと思う。とにかく寝て、ミルクを飲んで、早く成長することを願うばかりだ。
でもおむつだけは早く卒業したくて色々頑張ったが、結局歩けないとトイレもいけないので修道女さんたちのお世話になるしかなくて、それだけは本当にしんどかった。
まあそんなわけで、色々メンタル削られながらも日々を生きているうちに、俺は大変なことに気が付いた。
…………ここ、ドコの国?
成長とともに周りがよく見えるようになっていて、家の外まで動き回れるようになると、目に入るもの全てがおかしいことだらけだった。
神様のお手伝いって、まさか別世界にまで飛ばされるとは思わないじゃん?
最初、違和感に気づいたのは、かつての俺の常識ではあり得ないようなどピンクの髪や青色の髪をした子がたくさんいたからだった。
染めている? と思ったが孤児院にいる子が奇抜なヘアに染めるわけがないし、目の色も色々とカラフルで、誰も彼も天然でその色味なのだと納得せざるとえなかった。
そしてこの孤児院でも魔法としか思えないものであふれていた。
天井の電灯は宙に浮いているし、勝手に洗濯してくれる盥があったりして、子どもたちも修道女の先生たちも魔法みたいなの普通に使っている。
見上げた空には太陽がみっつ浮いているし、なにもかも俺の知っていた世界ではあり得ない光景だった。
ここ地球じゃない? ほかの惑星?
…………もしかして俺、異世界転生とかした? と考えそれが一番しっくりくる。いかにもファンタジーな世界だし。異世界行くなんて聞いてないんだけど。
全てにおいて色々説明が足りなすぎるよ声の人…………。
ピンクだの青だの赤だの金だのと色がうるさい髪色ばかりがいるなか、俺は前世と同じ、この世界でも普通代表みたいなこげ茶の髪。なぜ俺だけ地味? 解せぬ。なんかちょっとがっかりした。
魔法が使えるファンタジー世界。魔法や魔術道具で色々なことを賄っている。魔力で明かりを灯すとか、トイレは魔道具で自浄されるとか、風魔法でぬれた服を乾かすとか! ワクワクが止まらないからそこだけは神様に感謝した。
俺も魔法とか使えちゃうのかなーと試しに電灯みたいな魔道具に気合を込めてみたら、なんかついた。俺、魔力あんじゃん! すげえ! と思ったけど、生活魔道具は基本小さな子どもの魔力でも使えるよう効率よく作られているらしいので、別にすごくもなんともないらしい。
この世界の電灯は、魔力を込めると点いて、ふわっと宙に浮かんで部屋を照らしてくれる。これぞ魔道具! て感じがして好きだ。
そういえば、この孤児院には、小さな子供がずいぶんたくさんいる。
そんなにもこの世界(国?)は貧困であえいでいるのかと思っていたが、ある時シスターがチビたちを集めて、かつてこの国に何が起きたのかを話してくれた。
ちょうど俺が生まれたころに、突然魔物と呼ばれる生物が大発生し、この国の各地で甚大な被害をもたらした。
それまで魔物がいないわけではなかったが、滅多に現れることがなかったため、魔物と戦える者がこの国には少なかったのだ。
王都から遠い小さな村などは、魔物の大侵攻により全滅したところも多数あった。小さな子を持つ親は、押し寄せる魔物を前にこれは逃げ切れないと察し、子を家の床下やかまどの奥に見つからないように隠していったのだ。
国を守る聖騎士団が、魔物を討伐し終えた後に、ようやく各地に救援隊が向かい、隠された子ども達が発見された。
幼い小さな子どもほど見つかりにくかったらしく、こうして俺くらいの幼い子どもがたくさん孤児となったのだという。
この孤児院は、その孤児たちの住まいとして建てられたもので、俺を含めここに居るのは皆、魔物に親たちを殺された子たちだった。
ハイ出た魔物―! と、喜べるはずもなく、たくさんの人が死んだと知ってかなりシビアな世界に来ちゃったんだなあ……と悲しい気持ちになる。
本当に神様は、この世界で俺になにをさせるつもりだったんだろう?
この世界で俺の役目ってなんだろう?
毎年すくすくと成長しているが、いまだに神様からの連絡はこない。
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