勇者をかばって死ぬ当て馬キャラだったけど、物語の進みがおかしい
エイ
第1話 風邪薬とアルコールを一緒に飲んではならない
さんざんラノベやアニメでこすられて、やや食傷気味になりつつある『ある日突然異世界転生しちゃう』っていう感じの物語。
ファンタジーあふれる別世界に生まれ変わって、魔法が使えたり、モンスターを倒したりしてみたいな~……って中坊くらいの頃は本気で思ったりしていた。
謎の必殺技名とかを作っちゃったりして、かっこいい技のきめポーズとか真剣に考証していたあの頃が懐かしい。
まあ大人になってしまうと、忙しくてラノベを読む時間も取れなくて、昔にそんな妄想していた黒歴史も忘却の彼方だった。
そんなスレた大人になった俺が、本当に異世界に生まれ変わるなんて誰が想像できる?
異世界転生は見るものであってするものではないと身をもって学んだ。実際、自分の身に起きるのは、『しんどい……』以外に言葉が見つからない。
***
ふと気が付いた時には、俺は自分の姿を上から見下ろしていた。
狭いワンルームの部屋でこたつにつっぷしている俺。微動だにしない自分をじっくり観察して、
「あれ? 俺死んだの?」
と気づいたが、だからってどうにもできずただ天井付近に浮いていた。
……たしか金曜の夜に、仕事帰りに喉が痛いなと気が付いて、近くのドラッグストアで風邪薬を買って帰ったんだった。
風邪薬を飲んだ時に酒を飲んだらダメなんだっけーと思いながらチューハイをプシュッと開けた。
一口飲んで、なんかあんま旨くないなと感じて酒が進まない。調子が悪いせいかもしれないと気づいて、結局二、三口飲んだだけでやめてしまった。
チューハイ、開けなきゃよかったと後悔しながらコンビニ弁当をちまちま食べていると、だんだんと体がだるくなってきて眠気が襲ってきた。
少量だったがやっぱりやっぱり酒は止めておけばよかったかもしれない。
まあでも、一晩寝りゃ治るかなどと軽く考えていたら、猛烈に眠いのに心臓がバクバクいってガンガン熱が上がっているのが自分でも分かる。
寝返りをうつだけでガンガンする頭で、「病院行ったほうがいいかな?」とか「財布にお金あったかな?」と考えるが、ちらっと時計を見ると、夜中の二時。
明日病院行くにしても、絶対歩いてなんて無理そうな体調だ。
喉がカラカラだけど、こたつの上にはチューハイしかない。台所に行きたいが、起き上がることもできない。
手元にあるスマホを見て誰かにヘルプを……と連絡先を開きかけて、迷った挙句やっぱり画面を閉じた。
家族も兄弟もいない、ましてや恋人もいない俺に、こんな非常識な時間に『具合が悪いから助けて』と無茶を言える相手が思いつかなかった。
同僚……友人……だめだ、さすがにこんな夜中に電話して来てくれなんて言えない。
どうしようもなくなったら、明日の朝、誰かつかまりそうな人に電話してみよう。明日、休みで来てくれそうなやつ……。
同期のアイツは最近子どもが生まれたし、風邪移すわけにいかないしダメだな……友人なら……ああでもアイツ土日は仕事だ。
仕事休んできてくれとは言いにくいしなあ……。あとは…………。
そう思って目を瞑ったところまでは覚えている。
「まさか自分の死に顔を眺めることになるとはなあ」
こんな死に方かー……まだ二四歳で持病もない成人男性だし、まさか風邪とかでこんなにあっさり死ぬとは思わなかった。仕事が忙しく、ここ最近食事もまともにとれていなかったからな……色々悪い要因が重なったんだろうか。
悔しくはあるけど、俺が死んで悲しむ家族も恋人もいないし、仕事も別に責任ある立場でもない。心残りが少ないのが救いか。
でもこの部屋が事故物件になるから大家さんには大打撃だ。どうしよう。いや、どうしようもないけど。わずかばかりの貯金があるから、それでなんとかしてくれることを祈るしかない。
それにしても、幽霊になった自分はこのあとどうすればいいのだろう?
死んだら自動的に成仏できるもんかと思っていたが、未だに天井を浮遊しているだけで何も始まらない。
地縛霊とかになっちゃったらどうしよう……と不安がこみ上げてちょっと泣きそうになっていたら、急に誰かに手を引かれて、白い光の中に引っ張り込まれた。
『○○君、死にたてのところ悪いけど、神様のお手伝いに行ってくれないかい? 人手不足でねえ、困っているんだよ』
光の向こうから俺の名を呼ぶ声が聞こえる。白く小さな手が俺の手をつかんでいて、声はそちらから聞こえてくる。
『もちろん手伝いが終わったあかつきには、神様からのスペシャルご褒美があるよ。神様にご褒美もらえるなんてフツーはあり得ないから、とんでもなくラッキーなことだよ~』
声のするほうを見るが、もやがかかって顔は見えない。小さな手だけが見える状況に、これは本当に神様とかそういうものなのだろうと納得する。
「神様っすか? でも俺別に宗教にも入ってないし、信心深い人間でもなかったですよ。神様のお手伝いするならもっと適任がいると思うんですけど」
『うん、いいのいいの。君がいいの。別に嫌じゃないんでしょ? だったらお手伝いしておくれよ。本当に困っているんだ』
「まあ、死んじまったからやることあるわけじゃないし、別にいいスけど……」
困っているとか言われると断れないタチである。
それで会社でも同期からいろんな雑務を押し付けられて自分だけ妙に忙しくなってしまっている。自業自得とは分かっているが、困っている人を見捨ててはいけないという亡き親の教えが体に染みついてしまっているのだ。
『わあ、じゃあ今すぐいってもらうねー。よかったよーちょうど君みたいなお人好しで、なおかつ人生諦めた系の人間が見つからなくて困っていたんだ。追って役目の詳細はお知らせするから、よろしくねー』
「んん? お人よし? 諦めた系? ちょ、待ってやっぱ嫌な予感が……」
『変更は無理―じゃあ、いってらっしゃい~』
「待って、後から都合悪い情報を出してくるのは詐欺の可能性が高いってなんか偉い人が言ってた! やっぱやめときます! あー! 待ってー!」
必死にクーリングオフを訴えたが、問答無用で光の中から押し出された。あ、落ちる。
落ちるような、吸い込まれるような感覚がして、目が覚めて気が付いたら俺は赤子になっていた。
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