第33話 青春のテーマパーク!
今日は最終日だ。
そのため、僕らは完全なオフの日にする事にした。
「ま、明日からが本番だしね」
真さんの言葉の意味を知るのは夜なのだが……今はアレクがつくった朝食を食べてまったりしようと思う。
うん、アレクのご飯はオムライス以来だけど……本当にこの人はそつなく高水準で良い物を提供できる。今度レシピを教えてもらおう。
「さて~っと、今日はどうしようかな?皆は何がしたい?」
「え~……?」
アレクが食後のコーヒーを人数分用意している中、真さんは僕らに問いかけ……案が出てこない。
それはしょうがないよね?条件があるわけだし。
1つ目は“アイが動けない”ことだ。
この家と春香の家は真さんが持ってきた箱(どんな技術なんだろう)を使って、半分リアルで一緒に過ごすことができているが……外だと限定される。
アイ自体は『別に構わないぞ?』と言ってくれるが、できれば一緒に楽しみたい。
2つ目は“白鷺湊が有名人すぎる”ことだ。
声優でコスプレイヤー、そして……つい最近炎上を起こした。
そのため、昨日みたいに“有名人だから”ということで特別講師等の依頼が舞い込んではくる。それが、逆に自由行動の範囲を狭めてしまっている。
しかもだ、そこに付随してアレクの存在も少しづつ認知されていることでセットだと目立ってしまう。
……軽く言うとこんな感じで下手な行動はできない。
過剰に捉えすぎと思うかもしれないが【新規事務所を立ち上げる】というのは神経を使う物なんだ。
しかも、他の事務所とは異色な事が多いから余計に考える。
「湊ちゃんって声優になってから遊んだ?」
真さんはアレクの特製コーヒーを1口飲み、髪の毛を整えていた湊に声をかけた。
すると、湊は「あー……」と言った後考え、アイを見た。
アイもアイで『なんじゃ?』とは言ってたが湊の言いたい事を理解していたのだろう。ドヤ顔するな。
「ウチは高校から声優の勉強してたしそこまで遊んでないかもしれないな~?……だから、一度やってみたい事があるんです!」
そういって向かった先は––
「ネズミ―ランドー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「春香、声のボリューム落として」
……そう、僕らは日本でも大きく有名なテーマパークへとやってきた。
しかも––
「あはっ!久しぶりに制服きた~!アレクも似合ってるよ!」
「……恥ずかしい」
「楽しい~!ウチもう楽しい~!」
『のじゃ~!』
「……なんで、僕も……」
「青さんの制服似合ってる!」
そう……湊が「青春っぽいことをしたい」とのことで制服でテーマパークへとやってきたのだ。
一応ここで補足をする。
アイは立体で動くことは絶対にダメなため各スマホや春香と真さんが持ってきたタブレットに自由に行き来することで解決した。アイはそれだけで嬉しそうだった。
また、湊はバレないために帽子を被ってもらうことにした。軽い変装だね。
最初は「なんで?」とか言っていたが、真さんの“とある提案”を聞き入れたことで湊以外(特に春香とアレク)も更にやる気にさせた。
……もちろん制服はドンキでそれっぽく仕立てた。
そんなことを脳内で語っていると、入場門をくぐることができた。
もう戻る事のできない最悪のゲートだ。
「……はあ、こんな格好で嫌なんだけど」
「青さん!覚悟してください!」
そう言って、どうやって逃げようか考えている僕の右腕に春香は抱き着いてくる。
そして、片方の腕にはアレクが抱き着いてきた。
「青ももう覚悟を持って。……うん、至福しゅぎる」
「……」
実際、入場の時のスタッフさんの荷物検査と挨拶に「あ、どうも」と言った時に「え?」と小さい声が聞こえたのが早速トラウマすぎる。
それでも、他のお客さんからすれば「仲の良いグループね♪」くらいなんだろうな。
「にしても……青って本当に男性なの?ウチと変わんないじゃん……え、私よりも大きくしてる?」
「……胸見んな」
「アレクと春香ちゃんと並ぶと3姉妹みたいね。皆可愛いわ」
『青は性別を間違えてきてしもうたんじゃな。あ、チンは切ることも––』
「下ネタやめろ」
「ううう~~~!春香!今日は一緒に独占してもいいんだよな!?」
「アレク~?しょうがないから“嫁である私”が特別に許可しちゃうよ~?」
「いや、僕物じゃない」
……異常なテンション(通常か?)をこのテーマパークが起こしているならマジで終わって欲しいわ。
だって……僕だけ何故か女装(完璧版)をさせて女性グループの一員としているから。
『青って何で長髪になると女の子らしくなるのかねぇ?今日は春香みたいな茶髪のセミロングで……んー、もともと女の子顔なのかね~』
「青さんは私と一心同体ですから!ふん!」
「いや、意味わかんないって」
「でも、青って私よりも身長低いからか余計に女の子っぽく見えるんだよ」
「春香ちゃんから少しだけ身長高いくらいだもんね。女子の平均よりも若干高いくらいだろうし」
「ウチと同じくらいなのに胸は大きいのか……」
『格差社会じゃな』
「うざ」
……いや、歩きながら僕の女装評論会しないでください。
というか、アレクと春香の異常は“はじめからクライマックスだぜ!”状態なわけなんだけど……。
接着面がいつもよりも広いし、夏だから自然と着る枚数が減るわけで……このスカートで隠せるか不安になる。
……そこからは、僕は別の意味でアトラクションを楽しむことになる。
ジェットコースターでは春香達は「キャー!」と叫ぶ中、僕はスカートの中がめくれ上がる事に「キャー!」だったわけだし、ホラーハウスでは皆がお化け役のスタッフや演出に「キャー!」な中で僕は驚いた声が男性だから「キャー!」って逆に驚かせたし、コーヒーカップでアレクが異常にハンドルを回すため「やっほー!」と皆が楽しむ中で僕だけアソコが「やっほー!」しないかだけ心配だった。
そして……メリーゴーランド。これは羞恥心が凄かった。
短めのスカートとニーソの間“絶対領域”を不特定多数の人に「見てください―!!」って言ってるもんなんだよ?恥ずかしいじゃん。
しかも、毎度毎度春香やアレクが僕に対して「楽しいですよね!!!ね!?」って言葉を振ってきては「楽しいよ!」って言わなきゃ更に密着してきて「楽しいよね?」って聞いてくるから言葉を言わざるを得ないし……。
『性別を捨てるか、羞恥心を捨てるかどっちかだね』
アイの言葉に楽しみながら言った言葉に僕は同意し、絶望した。
まあ、それでもなんだかんだで面白い。
チュロスを食べている春香がアレクに食べさせようとしていたり、湊が真さんの腕をとって色々な話をしたり、アイが僕にお土産品を見たいとショップに向けてアラームを鳴らしたり……色々な事が青春の一ページとして書けるくらいに楽しかった。
それでも時間は有限だ。
「いやー、楽しかったね!」
打ちあがってる花火を見ながら、湊が声を出した。
僕らはそれに各々の反応をする。
……少しだけ悲しくなるのは僕だけじゃないと思う。
だからなんだろう……僕らはこの花火が終わるまでは誰一人動こうとはしなかった。
……帰りに温泉施設に行った事は後々語ろうと思う。
ただ、今言えることは––真さんが最後に言った言葉だ。
「明日から事務所が完成して本格的な活動を開始します」
その言葉だけだ。
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