第29話 ビバ!ハーレム主人公!?

 あんな事があったのに––僕は現在上半身裸で美女4人(しかも、お風呂から上がったばかりの無防備さ)が僕の周りを囲んでいる。

 「青さんいきますよ……!?」

 「お、おう!」

 「「「「せーの!」」」」

 そう音頭を春香がとると……僕の体を温かい感触が当たってくる。

 「あ……」

 意外と人が触ってくるのは……凄く敏感になってしまう。

 これが……伝説のお姉さんが夜這いしてきた時の感触なのか……?近いか知らないけど。

 でも、それくらい敏感になってしまう。

 「青さん!動かないで!」

 「ほら、青君?じっとしてね」

 「青……アンタってやつは…」

 「……摂取、摂取……」

 各々の言葉と一緒に様々なところが温かくて気持ちいい。

 ……いや、待て2人だけ違うんじゃないか?


 『青~?おぬしって実は勿体ない事をしてるの』


 目を隠し、女性の匂いが充満する春香の部屋で……アイは僕の状況を“ニシシ”と笑って、更にそれっぽくする。


 ◇ ◇

 

 こうなる前、僕の足には複数の傷跡ができた。

 歩行はできるし、痛みもそこまで感じてはいなかったのだが治療にあたった湊が「この足で風呂に入るのはダメ」という風に言っていたので……僕の風呂タイムは強制的になくなった。

 しかも、隣にいた春香は慌てていたのかわかんないけど泣きながら僕の手をギュッと握っていたので動けない。

 「青さん!もう1人にはしない!」

 「は?」

 「今から私の部屋に連行です!」

 「……春香さん?それって……」

 僕の腋に頭を通し、立ち上がろうとする。しかし、春香の力じゃ立ち上がらない事を悟ると……「はい、湊さんも片方もって!」と謎のリーダー感を発揮し、気圧された湊は「え、は、はい」と流れに身を任せて……掃除をした数時間ぶりの“春香の部屋”へと連れていかれた。

 いや、普通に歩こうと思えば歩けるけど。


 春香の部屋は隣のため、実質1分もかかることはなく……覚悟もできずに着いてしまった。

 「「……え?」」

 春香がノックもせず、自室に戻ったため……黄瀬さんとアレクは上半身に服を着る途中であった。

 ……健康的な下乳を見れば健康になる……どっかで言ってたけど本当だわ。

 黄瀬さんのは柔らかそうで手に吸い付きそうだし、アレクは逆に張りがあって触りたくなる。

 ……おっと、春香がこっちを見てるので視線を逸らそう。

 湊は湊でガン見してるのは羨ましいぞ、ちくしょう。


 黄瀬さん達は特に叫ぶこともせず……この状況を受け入れるように着替えを続行した。

 幸い、下の方は履いているようで黒とピンクがチラッと見えたので安心はした。


 「で、青君の足どうしたの?」

 「あ!」

 黄瀬さんは着替えが終わると同時に僕の足について聞いてきた。

 ……ところで、アイは部屋にはいるけどここまで何も言わずに置物のように座っていた。


 「えっと……」

 僕としては正直に何て言えばいいか困る。

 だから、簡潔に答えることにした。


 「皿が割れて、破片が足に刺さりました」


 アレクよそんな顔でこっちに向かってこないで。怖い。

 黄瀬さんは「あらあら」と言いながらも、適切な処置をした湊に対して「流石、湊ちゃんね」って湊の頭を撫でていた。

 もしかしたら、春香がしたかもしれないのに冷静に状況判断する黄瀬さんは凄いな。


 「でも、これじゃお風呂も入れないでしょ?病院には明日行けばいいと思うけど」

 「まあ、痛みもないんで入ってもいいと思うんですけど」

 「「ダメ!」」

 『……』「……」

 僕の前をアレク、後ろからは春香が抱き着きながら拒絶し、それを湊とアイは冷ややかな目でみる。

 「……青って本当にやってないの?」

 湊よ、僕にその質問をするのはおやめください。


 黄瀬さんは僕の足に巻かれた包帯を見ながら……何かと唸っている。

そして、その包帯から血が滲んでいないことを十分に確認すると……

 「じゃあ、私達が体を拭いてあげる」

 変な提案がでて、それは多数決で決定した。アイもそこでは参加するのか。



 ◇ ◇

 

 ということで、今こうなっている。

 拒絶した湊の折衷案として––目隠しありっていうのが余計にそそる。

 まあ、それを抜きにしても風邪を引いたりしなきゃできないイベントを体験できるのは嬉しいもんだ。

 「あ、青さん……」

 「青……」

 2人のメス化が更に進行しないかが不安だけど。


 美女からのご褒美を受け続け––体感5分は経過していると思う。

 「……じゃあ、次は下半身かな」

 ある程度拭き終えたのだろうか、黄瀬さんは僕の左耳に“わざと”囁くように言う。

 すると、2人の両手が勢いよく、尋常じゃない力で––ズボンを下着と一緒に下ろそうとする。

 「ちょっと!!!」

 「青さん!青さん!!!」「青!!青!!!」

 はい、犯人はこの2人––春香とアレクだ。

 アイが『おお、ついに童貞卒業か!?というか、複数プレイとは』とか遠くから言ってるのが聞こえ、湊は湊で右耳近くで「は!?やば!!」と声量のボリュームを間違えた状態で言ってくる。痛い。


 「青さん!?リラックスしてくださいね~!?」

 「一人でできる!から!」

 「青~?ここはお姉さん達に任せるべきだぞ~?」

 「アレク!キャラ変してるって!」

 「アレクさん!?ここは私がするから!」

 「春香には荷が重いぞ!お姉さんが大事に大事にやるから!」

 「いや、僕の意見を通せよ!」


 ……こんな攻防をかれこれ数分続けた。

 黄瀬さんは「あら~」とずっと笑ってるし、湊は「……」この状況に若干引いているのか?それとも……むっつりスケベムーブですか?


 『じゃあ、青に女装してもらえばいいじゃん』


 アイはそんな混沌とした状況の中、少しトーンを落として発言した。

 顔は僕には見えないけど……周りの反応から「ガチじゃん」って気がする。


 『……あ、青に女装してもらってな?短パンとか着てもらえばいいんじゃないかなって思ったんだ!あ、のじゃ!』

 「「「「……」」」」 

 僕以外の各々の反応は皆に任せる。でも、1人だけ以上な程息が荒かったことだけは伝えておく。


 「じゃあ、少し痛むかもしれないけど––」

 黄瀬さんの言葉を受け。目隠しを外し、一度自分の部屋に戻ることになった。

 最初は「私のを!」と春香が“いつかやる用”にとっていた様々な衣装やウイッグを提供しようとしたが……勿論、サイズが合わないので断った。

 「……」

 自室に戻る僕の後ろには湊と黄瀬さんが一緒になって歩いてきている。

 「ほら、青もまだ歩くの辛いだろうし。片づけもしなきゃでしょ」

 「私も手伝うよ」

 そう言って来てくれたわけだが……僕の背後で何かブツブツと言っているのが不安にさせる。



 


 ……そこから、自室に戻った僕らは湊がキッチンの片づけ&掃除、黄瀬さんがドライヤーで髪を乾かすという中で僕は……男性から女性になるための準備を始めた。

 「やるならちゃんとしなきゃだよね~?」

 そんな黄瀬さんの言葉がトドメとなり……ウイッグに女性風のルームウェアに身を包む。

 メイクは……眼鏡とマスクで隠すしかないか。めんどくさいわけじゃないけど。

 「……ええ……」

 僕は困惑する。

 さっきまでのシリアス展開からの急転直下だし、ハーレム展開すぎるし……第一、こんな女装は正直嫌だ。

 「ふふ、凄いいいじゃん」

 「青ってメイクしなくても女子になるね」

 リビングに戻ってきた僕を見て、黄瀬さんと湊はそんな事を言ってくれたけど……これは、本音なのか?お世辞?

 「可愛いからよし」

 黄瀬さんの言葉は更に困惑させた。


 「あ、青君。ちょっとこっちに来て」


 僕を黄瀬さんが呼びこむ。

 その手は……黄瀬さんが座っている横を手でポンポンと叩いている。

 「……」

 「ほらほら」

 僕は少しだけ躊躇したが酒を飲んでないのを湊に目で確認し、湊が頷いたので隣に行く事を決意した。

 ……僕が隣に着いた瞬間に「いい子だね~」と犬のように撫でてくる。

 それが、また可愛い。

 金髪ロングの髪にとろんとした目……普通に僕が陽キャなら抱き着いてましたね。きっと。


 「……で?な、なんですか?」

 「……」

 「黄瀬さん?」

 「あ、ごめんごめん」

 「ん?」

 「あー、暑いね」

 「あ、エアコンの温度下げますね!」

 「あ、あ!そうじゃなくって!」

 「はい?」


 黄瀬さんの顔は少し赤い、湯上り最高だね。

 黄瀬さんは少しだけ時計を確認した後––僕の顔をじっと見ながら話しを始めた。


 「ねえ、青君は何で私には『黄瀬さん』って名字なの?アレクも湊ちゃんもアイちゃんもタメ口だし、名前呼びでしょ?」

 

 ……いやいや、あなた社長だし恐れ多いだろ。

 でも、少しだけ嬉しい。

 「だからね!こうやってせっかく皆ともっともっと親睦を深めて良い環境、良い作品、良い配信ができるようにしたいから……せめて、名前呼びだけでもしてくれないかな~って」

 あ、この顔が赤くなってるのは……なるほど。

 「ほら!アレクがあんなに幼女化してるんだからさ……ね?」

 あー、この人も魔性の女すぎる。


 「……真さん?」

 

 僕の言葉に––黄瀬さんもとい、真さんは耳を赤くして顔を伏せた。


 「……青も安売りしちゃダメだよ」

 「なにがだ」

 掃除を終え、残っていた洗い物をしている湊が呆れながら答えた。




 ……さて、ここまででも読んでいる君達にはご褒美かもしれない。

でも、これからも更にご褒美展開だ。

 いや、誰に言っているかわかんないけど……それくらい僕の心臓が異常に早くなっているわけ。

 だって––「ウチは黄瀬さん……あー真社長と一緒にここにいるわ。まだ色々とやっておきたいことあるし」って言って頑なに一緒に戻ろうとしないから。

 ……いやまてよ?こんな不完全な女装で少しだけど外にでるのが嫌なのか……?


 僕は不安になりながらも、部屋を出て……少しの間をおいて隣の春香の家のドアを開けた。



 『「「いらっしゃいませ~~~!!!!!」」』


 僕の不安をある意味的中させるように……僕の目の前には3人のチャイナ娘がいた。

 「ほら、主人!ここに座るアル!」

 「リラックスしてね……ハアハア」

 『油淋鶏食うか?バンバンジーもおススメよ?』

 ……各々の言葉と手招きが……春香の部屋のリビング中央にあるゲーミングチェアを指している。

 ……。

 「は?」

 僕は玄関から……自室へ戻るためにドアを再度開けた。


 「ちょっと待つアル!今なら無料ね!」

 「ちょっと、ちょっと待って!」

 『いや、ここはあえてのビビンバ……』

 ……2人のチャイナ娘は思いっきり僕の腕を掴み、無理やり僕を奥へと引っ張っていく。けが人だぞ。

 でも……いや、なんていえばいいんだろ。

 春香は本当にソシャゲに出てきそうなくらいに可愛いし、髪型もチャイナ風に合わせているし、アレクはそのアンバランスさと胸元が少し開いている感じが“男性の性癖知ってるよね”って思わせるし……アイは恥ずかしいのか言葉と裏腹に常に胸を隠してるのがポイント高い。

 ちなみに、ビビンバは韓国料理な。それと、韓国人は「ピビンパ」っていうらしいから気を付けな。


 「ほらほら、ゆっくり座るネ」

 赤いチャイナ服の春香はキャラになりきるように僕を誘導し、座らせ

 「足、痛いだろうからマッサージする」

 黒い胸元が開いているチャイナ服を着ているアレクがすかさずマッサージを始める。

 『……あえてのビーフストロガノフも……』

 それは一番難しい料理です。アイさん。というか、もうその黄色のチャイナ服ともう関係ないだろ。


 ……三者三様で僕をもてなそうとするわけだが……なんでだろう?さっきから下半身が熱い。

 たしかに息遣いが荒いアレクと春香だから体温が少し高いのは分かるんだけど……。

 

 「黄瀬からもらったのを使ってるけど……あれ、全然……」


 その言葉に答えが詰まっていた。

 おい……いや、これ以上されるとヤバい。んっ……。


 右足を春香、左足をアレク……何故か耳元ではアイが般若心境を言っている状況が3分くらい経った。よく耐えてるぞ、僕。

 ……それでも、春香達は止めようとしないため––

 「湊さん助けて」

 そうメッセージを送り……湊の「おいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!」という怒鳴り声が鳴り響いて事なきを得た。

 ……今は顔を赤くした湊が「なにしてるんですか!」と正座している3人に説教をしている。


 「……おしいことしたのかなぁ」


 漫画の世界のような展開に少しだけ行って欲しい気持ちが出て––すぐさま現実に戻された。

 「それしたら終わりよな」

 僕はある意味賢者モードへと移行した。


 ……これが、修学旅行で異常なテンションになるアレなんだろうか。

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