第27話 お泊り会のご褒美は……?
もうすぐ、新事務所の立ち上げに伴う『親睦会&お泊り会』が始まろうとしている。
6人が“自分らしく、楽しい未来を作る”ためには必要な時間なんだろう。
ただ、僕の中に1つの疑問があった。
【何故、人見知りの桜井春香がお泊り会を許可したのか】
……その答えを僕が知り、ミッションが舞い込んでくるのは––数時間前に遡ることになる。
◇ ◇
「部屋広いってのも本当に大変だ……」
「青さんの部屋と私の部屋が繋がったら少しは楽なんですけどね」
「そりゃ、大家さんが怒るだろうな」
「ですよねぇ~。あーあ、疲れました」
僕と春香は部屋の掃除をしているが……もう1時間はとうに超えている。
僕も春香もそこまで自宅にゴミを溜めたりするタイプではないけど『他人を部屋に招き入れる』というのは初めてなので……異常な緊張感と必要以上に掃除をしてる。
「春香の方はどう?終わりそう?」
「もう少しですね」
1人で2LDKの部屋を使っている分無駄なスペースが多いんだけど、そのスペ―スを埋めるように色々と置いちゃうから片付けたりするのは人一倍大変なのだ。
ちなみに、僕の両親からの遺産で僕と春香の2人分の部屋を借りたわけなので春香も同じスペースを持っていることになる。
それにしても、その家賃等の支払を今は春香自身が現在できているのは本当に凄い。
「青さん?私の事を見つめて……あ、私に養って欲しいんですか?いいですよ?支払いは青さんの体で十分なので!」
「馬鹿を言うんじゃありません」
「ぶー」
「ぶーじゃありません」
まあ、そんな事を時たま挟みつつ、大体の掃除は終了したと思う。
僕以外は女子なため……この春香の部屋に寝られるスペースを多く取るようにした。男性の部屋に寝てもらうのは申し訳ないしね。
……それにして、春香の顔は凄く嬉しそうな気がする。
少し前の春香なら……僕もだけど『誰か部屋に入れる』ってことは絶対に拒絶していたと思う。
というか、アイがタブレットから話しかけた時の事を思い出すと本当に成長したんだろうか……?いや、慣れたといった方がいいのだろうか……?
「春香は嫌じゃないのか?」
僕は、春香にとっては唐突で––核心をついた質問をした。
春香はその質問に「んー……」と考えた後、笑顔で話しを始める。
「別に嫌じゃないです!というか、何か凄く嬉しいなって気持ち!確かに青さんとの時間が減るのは嫌なときもあるけど、アレクさんや黄瀬さんみたいな人と話せるのは凄く安心できるし、アイさんも湊さんも私の事を“ちゃんと見てくれる”って分かってるから怖くなる必要はないのかなって思えてます。ま、私も大人になったってわけです!」
「お~」
「それは、青さんも同じなんでしょ?青さんだって凄く良い表情してるじゃないですか」
……そっか。
僕はそんな真っ直ぐな瞳で見てくる春香を少しだけ抱きしめた。
何故だろう?自分でもわかんないけど……少しだけ嬉しく、寂しくなったのかもしれない。
「え!?青さん!?」
「……」
「ふふ。もう、青さんも実は甘えん坊ですよね」
「春香には負けるよ」
「え~?」
少しづつだけど……簡単に言えば『人間らしさ』を取り戻しているんだろう。
それは、僕らの心に更に色を与え、様々な感情を生んでいく。
「……春香とは離れたくない」
「それは、私もですよ?」
「ありがとう」
「こちらこそ」
春香の首元にある……指輪型のネックレスは少しだけ揺れ、輝いて見えた。
そして、春香はその大人な顔つきとネックレスを付けてる女性としては幼いような言葉を言い出した。
「なら、私にご褒美ください」
そう言った後、春香は僕から視線を落とし……モジモジとしている。
僕もそんな春香を見て、さっきまでの自分が恥ずかしくなってくる。
「えっと……ご褒美?」
「は、はい」
「何か欲しい物とかあるの?」
「いえ……あ、ある意味ですかね……?」
変な空気が掃除した部屋に充満していく……。
春香はその空気の中––左手の人差し指を自分の口へと持ってきて––
「ここにキスしてください……お泊り会終わった後で良いので」
その言葉以降、僕らは黙って残りの必要のない作業を進めた。
◇ ◇
「……青君顔赤くない?あれ、春香ちゃんも」
僕が少し前の記憶を回想している合間に、訪ねてきた黄瀬さんから指摘された。
「「え!?」」
「……あ」
なんでだろうな、黄瀬さんって察するのも意外と上手いんだろうか?
いや、僕らが下手いのか……?
『なんだ、青達ヤッたのか?皆が来る前に一発』
「ないわ!」「いや!そんな!」
「え!?やったの!?」
「私は青と春香が居てくれればいいから気にしない」
……うん、どこから話せばいいのかわかんないから放棄しよう。
春香も春香で「えっと!えっとね!」っていちいち訂正しても弄られるだけだよ?身を任せることも大事さ。
……というか、湊は何で部屋の匂いを嗅いでるんだよ。僕の部屋がそんなに臭いっていうのか?
「……エッチはしてないか」
独り言にしては大きくないですか?湊さん。
ということで、春香の部屋に女性陣の荷物を置いてきてもらい……現在、僕の部屋で各々話をしている。
アイも黄瀬さんからの特別仕様の機械のおかげで、半透明ながら一緒に時間を過ごしているように……春香の隣でアレクと一緒に胸を弄っている。
そんな中、僕は皆のご飯を準備している。
「青君手伝うことはある?」
「青もこっちで話そうよ」
キッチンでエプロンを付けて野菜やキノコを切っている最中に……黄瀬さんと湊は僕の所にわざわざ来てくれた。
黄瀬さんの手には現在ノンアルコールビールが握られているわけだが……これがアルコールが入るとどうなるのだろうか?見たい。
「とりあえず、今は大丈夫ですよ。簡単な物しか作れないですし」
「青君って実は女子力も高いんだね」「青よりもできない私って……」
各々の反応が、僕の手で捌かれはじめている魚を見て言っている。
今日はぶり大根とパックで売っている炊き込みご飯の素で炊いたご飯、味噌汁にしようと思っている。
……あ、酒飲む組のためのおつまみに枝豆とレンジでできるだし巻き卵も後で用意しておこうかな。
「……にしても、この部屋広くない?ウチの部屋よりも広いんだけど」
「ああ、湊は知らないんだっけ」
「え?」
黄瀬さんは黙って僕が切っている大根を見ている。食べたいのかな。
湊は湊でこの後の話を聞きたそうにしている。
「……親からのプレゼントってところかな?」
「へえ~!」
嘘はついていない。
でも、この事実は……僕なりに解決した時にでも話せればいいなって思う。
……そこから時間は、部屋中にたちこめる良い匂いでそれなりに経った事を感じさせた。
湊と黄瀬さんから「コミケ参加常連者として思う事はなにか」とか「企業と一般参加者としての相違はあるのか」等……案外真面目な話に華が開いた。
春香たちの方も常に笑い声が絶えないから面白い話をしているんだろう。
そして……骨まで柔らかくなったぶり大根が出来上がった事で
「じゃ、ご飯を食べましょうか」
この話題を一時中断することにした。
……それと同時に改めてみた春香の––春香の唇にドキドキしてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます