過去を忘れるお泊り会?

第26話 学生時代を取り戻せ

 『お、おかえり~』

 僕と春香、アレクの3人を事務所で出迎えたのは、アイ1人だけだった。

 アイはカウンターでコーラにケバブという……何か変化球な組み合わせを食べていたのだが匂いは勿論バーチャルなので立ち込めてはいなかった。


 「つかれたああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 事務所に戻ってきて、アレクは黄瀬さんがいないのを確認するように目線を動かし––僕と春香に抱き着きながら叫んだ。

 そんなアレクを春香は「がんばったね~」と頭を撫でながら言っているのだが……アレクの方が年上だからな?勘違いしないように。

 でも、高身長のハーフ美女が僕らの身長に合わせながら“撫でてくれないの?”って感じの顔をするのは破壊力がえげつない。


 『にゃはは~、こんなに仲良くなるなんて凄いな~。くっ、もう!なんでトマト抜きって伝わってないんじゃ!』

 アイはケバブの中に入っているトマトをつまようじで弾く様に取り除きながら、アレクの幼女化している姿に満足気な様子だ。

 というか、ケバブってトマト入ってるんだね。知らなかった。

 僕はアレクの頭を少し撫で、春香にバトンタッチして奥からグラスとお茶を用意して準備を始めた。

 アイはなんとかトマトは取り除いたようだ、満足気にケバブを頬張っている。

 『ん~美味い!って、外は暑いでしょ?』

 「夏は暑いよ。アイには関係ないだろうけど」

 『そうじゃな~。でも、男ってもんは透けブラとか見るの好きなんじゃろ?』

 「……そうだな」

 『ほれ、今日の春香の恰好よ~く見たら透けブラしとるもんな。黒じゃな黒』

 「おっさんみたいな会話すな」

 『アレクさんも……お、今日は明るめの……お~』

 「……」

 『青はやっぱ男じゃな。わかるわかる』

 「お前は女だろうが」

 『アタシはあってないようなもんじゃしな~、ほれ見えないじゃろ?ほれほれ』

 僕の前で何度も上下運動を始めるアイ……いや、確かにわかんないけど……目に毒すぎるからやめろ。

 それに、春香の顔がこっち向いてる気がして怖いんだが。


 『にっひっひ。春香にもプレゼントあげたんだね。凄く大事そうにしてるじゃん』

 

 アイは僕にだけ聞こえるように囁き、妹が幸せそうにしていることを嬉しく思っているようだった。



 「ところで、黄瀬さんと湊はどっかいったの?というか、湊は来た感じ?」

 『お~……あれ?いつの間にいなくなったんじゃ?……あっ、そうそう“湊ちゃんと声優事務所とかアニメ関連会社へ挨拶行ってくる”って言ってたなぁ』

 「そうなんだ」

 『あんな炎上が起こったからの、色々なケアと予防線は張っておくべきじゃしな。それに、湊も湊で新事務所立ち上げ関連から色々な話もできるじゃろうし。黄瀬さんは何気に凄い有能なときは有能ってことじゃな。うん』

 「……でも、酒が入ると?」

 『そこのアレクさんと関係がガラッと変わるの~?アレクさんも軽くお酒飲んだだけでドS姉さんモードになるし、黄瀬さんは……ほれ、最初にあった時の感じじゃ』

 「ヤバい姉さんになるってことね。……はい、春香。あとアレクも。今日はお疲れ様」

 アイとの会話をしつつ用意できた飲み物を僕は春香とアレクに渡した。

 2人は凄く喉が渇いていたのか、直ぐに飲み干し……奥の方へとアレクは歩きだした。

 「汗流さなきゃ」

 そう呟くと、奥へと歩き出した足を止め、一度戻ってきて春香の手を握りながら……奥へと連れて行った。

 春香も春香で「じゃあ、青さん待ってて」と言っていたので余計な詮索は“男として”止めておこうと思う。

 『今行けば覗けるぞ?』

 悪魔のささやきが聞こえる。

 のんのん。アイさんそんなこと言っちゃいけないよ。

 『いいのか?見れるぞ?好感度高い今ならきっと拒否されないぞ?』

 ……え?そ、そうかな?

 『ほれ、大きな山と小ぶりな可愛らしい山が見れるんじゃぞ?いいのか?』

 ……くっ、俺の足動け!動け!……どうして動かないんだ!

 『……ほれ、行かないともったいないぞ?』

 「じゃ、じゃあ––」


 「「ただいま~!」」


 僕が奥へと向かおうとした瞬間に……黄瀬さん達が汗だくで帰ってきた。

 そのため、僕は“あなた達の帰りを待ってましたよ~”って感じで直ぐに後ろにあるグラスの方へとグルっとターンし手をかけ、飲み物の準備をすることで誤魔化した。

 アイはと言うと……くそ、何でこんな平然とした顔でいるんだよ。

 『おかえりなさい。案外早かったですね』

 ……それに、如何にも“黄瀬さん達には忠犬のよう”に見せ“青で面白いこと起きないか”って楽しみでやってるのが腹が立つ。コイツできる子。


 「アポが取れた所しか行かないからね。飛び込みは失礼だもん」

 そう言いながら、誤魔化しでいれたお茶を僕から受け取ると大人な笑顔で「ありがと、青君」と言ってくれた。あ、良いにおい。

 ついでではないが、その流れで湊にも飲み物を渡すとこちらも「ありがとう」と言葉を返してくれた。何か嬉しい。

 

 「とりあえず、今日はこれで終わりかな?湊ちゃんもお疲れ様。忙しいのにありがとう」

 「ウチは別に忙しくないですよ。それに、ウチのためでもあるんで」

 「も~、湊ちゃんは可愛いね~」

 「なんでですか!」

 「あ、青君達の方はどうだった?なんとかなった?」

 『あ、アタシも聞きたい。凄かったって聞いたし』「え?何かあったの?」

 黄瀬さんの質問に、アイと湊は全く流れを把握していなかったような感じだったので……共有も兼ねて事の顛末を話す事にした。

 ところどころで「クソじゃん」とか『アレクさんかっこいいの~』とか茶々を入れていたが、アレクが「協力関係になる」といった感じの流れになった事を言うと黄瀬さんは––

 「うん、やっぱりアレクは凄いわ。私よりも優秀だね」

 そう言って、奥で聞こえるシャワーの方へと歩いて行った。



 ……そのため、ここにいる3人(1人はバーチャル)は同級生なわけだが……。

 「ねえ、黄瀬さんって何者なの!?」

 「僕もよくわかんないって」

 『あの人はあの人じゃな~』

 「アイももうちょい言葉のボキャブラリ増やしなさいよ!」

 『だって、言葉に表せることできないじゃん』

 「……黄瀬さん今日凄かったんだけどさ……こんな有名声優じゃないウチを“この子を是非何かあったら使ってください”って何度も頭下げるのよ?泣きそうになったわ」

 『黄瀬さんって実は有能すぎるんだよ。酒飲むと骨抜きの泥酔ババアになるけど』

 「じゃあ、凄い人にスカウトされたってことなのか?」

 「じゃない!?」

 『流石、アタシの先輩!』

 ……こんな会話は本当に学生時代に味わいたかった。

でも、今でもこうやって話せるのは嬉しくてたまに泣きそうになる。


 『ところで、湊。大変じゃない?大丈夫そう?』

 珍しく……アイは湊の状態を心配する。

 実際、SNSも報告後からネットニュースが何個も生成されて妬む輩は増えていると思う。

 それでも、湊は胸を張って答える。

 「ウチは大丈夫。こんなものは昔に比べれば全然余裕だし!ま、少しだけめんどくさいと思うのは疎遠だった奴らからの連絡が毎日来るくらいかな?」

 「あー、漫才とかで優勝した人がよくいうやつね」

 「そうそう、それくらいかな?……って、アイって実は優しいとこあるよね」

 『なっ!アタシだって人の気持ちはあるぞ!それに、湊さん、そんなない胸を強調されても青は何とも思わないぞ?』

 「僕に振る!?」

 「変態じゃん!」

 ……たまにはこの3人で話す機会があってもいいかもしれない。

 アイも湊も“あの時”に叶えられなかった事を少しづつ叶えてる気がするし。


 

 ……30分くらいは経過しているのだろうか、僕らは未だにだべっている。

 そして……奥からお風呂上りの3人が帰ってきた。お風呂も沸かしていたのか。

 「青さん!青さん!胸大きくなったって褒めてもらえたよ!」

 「ちょっと!春香さん!?」

 僕に純粋かつ積極的にアピールしてくる春香に湊は驚いて突っ込んだ。

 黄瀬さんとアレクは「酒飲む?」なんて言っているのが少々不安だが……正直収拾がつかない。

 ところで、アイさんこんな時に限ってケバブ(2個目)を食うって……こいつめんどくさいことは僕と湊に投げるつもりか?


 僕はとりあえず春香の頭を撫で「そっかそっか」と流しつつ、アレク達にはコーラをすぐさま準備して飲ませた。

 ……春香、ネックレスはお風呂に入ると時は外そうね。



 「そういえば……皆にも伝えておかなきゃいけないことがあったんだった」

 黄瀬さんはコーラを数口飲んだ後、全員が揃ったスタジオ兼事務所で1つの報告をする。

 「え~っと、3日後から2日か3日くらいかな?そのくらいかかるらしいの。なので、この事務所兼スタジオの改修工事が始まり立ち入り禁止になります。急な事でビックリしたと思うけど、私もさっき知ったから。……で、私とアレクってこことは別に住居は一応あるんだけど……せっかくなら、誰かの家でお泊り会をしてもいいんじゃないかな~って」

 「「「「……」」」」

 「で、確か青君と春香ちゃんは隣同士で住んでるんだよね?」

 「いえ、もう同棲みたいなもんです」

 「ええ……?」

 「いえ、ちゃんと隣に春香が住んでます」「青さん?」

 「……なら、どうだろう?その間皆で遊びに行ってもいいかな?」

 ……僕は別に構わないと思うが、問題は春香だ。

 今まで多くの人と関わり合いがなかったから、正直断るだろうと思っていたのだが––

 「いいですよ」

 そう普通に答えたのに驚いた。しかも、少し嬉しそうにしている。

 

 「ありがと~!ちなみに、湊ちゃんもアレクも大丈夫そう?」

 「いいですよ」「私は行った事あるし」

 「え?アレク行った事あるの?いいなぁ~……あ、アイちゃんはアイちゃんで特別仕様の物があるから……ちょっとまってて!」

 『……特別仕様とな?』

 黄瀬さんは半分はだけている服を直すこともなく、奥へと急いで何かを取りに行った。そして、2分もせずに帰ってきた。

 手には……小型の箱があった。

 

 「これ!これを置いていたら少し限定的にはなるけど、ここと同じくらいの精度で他所の場所でも動けるようになるよ!」

 『おお!!』

 アイの顔はどんどんと嬉しそうな顔をしていく……と同時に僕と春香を見てきた。

 「「……?」」

 『おぬしらの夜の運動会を見れるかもしれぬの~?』

 「ちょっと!!!!????」

 僕がツッコみをする前に顔が真っ赤になっている湊が全力でアイにツッコミをしていた。



 「ってなわけで、3日後青君達の家に集合でお願いしますね~」


 黄瀬さんはそういいつつ、アレクと昔流行ったお笑い芸人のキャッチフレーズ“ルネッサ~ンス”ってやってる。……あれって髭男爵だっけ。

 というか、黄瀬さんがひぐち君ポジなんだ。




 ……3日後、時間と言うのはあっという間に過ぎる。

 必死に掃除(春香の家もした)をし、エロ本を隠し、食材も用意した。

 ……不安だけど、それ以上にワクワクもあった。

 「いらっしゃい」

 僕と春香は––3人とバーチャル1人を自宅へと招き入れた。

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