第23話 日常は素晴らしい!
白鷺湊は今日から少し大変になる。
【私、白鷺湊は新事務所を立ち上げる運びとなりました。したがって、所属していた事務所は退所することとなりましたのでここに報告させていただきます】
そう一文を各SNSに投稿し、続いて––
【新事務所に関しては準備が整い次第のスタートとなりますが、私のような声優だけではなく、沢山のクリエイターが今以上に活躍し、楽しく、自分が自分でいられるような場所やイベントを提供したいと考えております。精進してまいりますので応援のほどよろしくお願いいたします】
……僕と同じ年齢とは思えないくらいの大人な文章だ。
そんな湊の更新から目を上に向けると……時刻は12時になっていた。
現在、外の気温は35度!室内は25度!快適空間に僕と春香はいる。
そして……隣で棒アイスをぺろぺろと舐めている春香に目を向けた。
「なあ、春香」
「ん?何ですか?青さん。あ、こぼれちゃうこぼれちゃう」
「改めてだけど……凄いことになっちゃったね」
「そうですねぇ~、青さんは凄いラブコメ主人公なのかもしれませんね」
「いやいや、そうじゃなく––」
「ほら、青さんも食べましょ?」
春香はニヤニヤしながら、僕に食べていた棒アイスを突っ込んできた。
しかも、咥えさせたまま……動かしてくる。
『グポッ』とか『ジュル』……なんで、僕がこんな音を出さなきゃいけないんだよ。
「えへへ~?青さんも上手ですね?」
「っつ。お前なぁ」
「あ、青さんは私のも聞きたいんです……かぁぁ?///」
春香の顔はしたり顔のクソガキムーブをしていたのに、途中から僕が出していた音と自分の発言に……赤面している。ならするなよ。
それに、途中で我に返られると……こっちも恥ずかしくなる。
「「あっ」」
そこから数分したのだろう……棒アイスは溶け、僕のソファーの上に落ちた。
「……青さんって本当ハーレム漫画の主人公みたいですね」
「またその話?」
「それは何度もしますよ。だって……だって~」
「はいはい」
僕らは落ちたアイスの欠片をすぐに取り除き、こんな会話をしている。
まあ、そんな日は「日常になったな」なんて思えてしまうのは……仲間に非日常な奴らが多いからだろうな。
「ところで、青さん」
「なんだ?」
春香は自分のタブレットを見ながら、会話のキャッチボールは続行するように山なりのボールを放ってくる。
僕も僕で……さっきまで手を止めていた作業を再開させつつ、そのボールを無造作に受け取って投げ返す。
「私もVtuberのモデルつくることになりました」
「……へえ……は!?」
いやいや、夏休み明けに恋人持ちカミングアウトする親友みたいな感じでサラっと言うな。
……え?どういうこと?
「あはは、やっぱりそうなりますよね。黄瀬さんにさっき追加発注もらったんです」
「ということは……?」
「私と黄瀬さん、黒瀬さんのモデル原案を依頼されました」
「おお~……お?なんでだ?」
「私は『青君と一緒に活動した方が今後もいいでしょ?』ということで。黄瀬さんと黒瀬さんに関してはキャラクター化することで“社長”と思われている白鷺さんの負担を減らす事が目的みたいですね。コミケ後の伸びも高いのもあると思うけど」
「春香は嫌じゃないのか?」
「……どうだろう?青さんと話せる時間が今以上にあるのは正直嬉しいし、一緒にまだ沢山行動できるのも嬉しいです。配信は……不安ですがそこも大丈夫かなって」
「本当か?」
正直、コミケの時のテンパり具合は大丈夫に見えないんだけど。
でも……どこか春香には秘策があるような顔をしている。
それが––こんなことだとは思わなかった。
「ほら!青さん!私が描いた私!すぐにわかるでしょ?青さんと一心同体なの!」
……衣装がほぼ同じで、服には僕のサインが描かれている。
わかりやすく言えば『匂わせしてるよね!?』と言ってるような感じだ。
「まだ髪型とか色々決まってないですけどねぇ~、青さんに変な虫をつかないようにしなきゃ」
……春香さん?それはもう活動者として大丈夫?
「まっ、もう少し待っててください!きっと隣に並んでも引けを取らない、素敵な2人って思わせますから!」
……“今でも僕の隣にいる春香は似合ってるよ”なんて言えなかった。恥ずかしいから。これでも、僕もコミュ障だからね?
時刻は15時を少し過ぎたあたりか……。
あの後、春香は何度も何度も描いてる絵に「可愛い?カッコいい……うーん……」と唸っていた。僕は僕で作業も終盤になり一息ついて時計を見たら……こんな時間だったってわけだ。
「あー、夕ご飯は何食べる?」
「え~……なんでも!」
「……同棲した時の彼氏みたいな事言うな」
「え~?」
……いや、この図逆だけどね?あ、逆ってのも今の時代NGか。いかんいかん。
僕は冷蔵庫を覗く……え、何もないんだけど。
「買い物行かなきゃだけど一緒に行くか?それとも、絵描いてる?」
「いく!」
「あ、そこは即決なんだね」
春香はタブレットを丁寧にテーブルに置き––その場で服を脱ぎ始めた。
普段は「ちょっと!」とか僕も慌てるけど……ご安心あれ、今日の春香は黄瀬さんからもらったパーカー服を着ている。きっと中にもTシャツを着て––
「あ」
「……あ」
なんで何も着てないんだよ!下着も外してるし!
……そんなこんなで、僕達は外に出た。
今日の夕飯はカレーにしよう。辛口の。
僕も春香もある程度の辛さは『好き』だから毎度困った時にはカレーにしている。
「なあ、春香」
「なんですか?青さん」
「一度でいいからさ“お兄ちゃん”って呼んでみてくれない?」
「え?」
「あ、あとタメ口もしてみてほしい」
「……」
なんか、凄い変な事言ってしまったか…?
でも、男のロマンってあるよね?
春香なら……きっと叶えてくれると思ったけど、どうなんだ……?
「……お、お兄ちゃん?」
……やばい、ドキッとした。
それに、その上目遣いは卑怯すぎる。
「お兄ちゃん、今日も一緒にご飯……たべよ?」
やばい……新しい扉が開きそう。
身長差も本当兄妹みたいで……うん、次のシナリオこれで書いてもいいな。
「……む?何かへんな顔してる。青さんって本当変態さんですね!」
「春香もノリノリじゃないかよ」
「……べ、別にあんたのためじゃないんだからね!?」
次はツンデレか……?いや、これもいい……。
『きっもいの~?童貞男子の夢のシュチュエーションってやつかの?』
僕のニヤニヤを壊すように……僕のスマホからアイがツッコミをいれる。
僕もアイがいつ登場してもいいように気を張っていたのだが……迂闊だった。
「くっ……!」
『あ、春香もやっほ~?今日も青パワー充電中かの?』
「そうです。一日24時間青さんいないとダメなんです」
『にゃはは~リアルな青春って暑くなるもんじゃの。暑い暑い』
アイはバーチャル空間の中で何度も手を団扇のようにしてあおいでいた。
春香も春香で……改めて自分の発言に照れているようだった。
『ところで、おぬしらのパソコンのスペックとやらを聞きたいのじゃが……わかるかの?』
「スペック?」
『そうじゃ、あとは~……周辺機器じゃな。オーディオインターフェースとかマイクとか……ちと、教えてくれぬか?黄瀬さんからのクエストなんじゃ』
「じゃあ、黙ってたらクエスト失敗だな」
『……アタシはいいけど、実害があるのは青じゃぞ?』
「……確かに」
そんな会話を……目的地の大型スーパーの駐車場で話をする。
本当は買い物しながらが良かったが、バレるのはよくないと思って隠れた。
「そうだなぁ……詳しくはわからないけど、5年くらいまでのパソコンじゃないかな。マイクとかも1000円くらいの使ってる」
「あ、私も」
「アイ、詳しく教えた方がいいのか?」
『あー……んにゃ、いいかな?わかったぞい。じゃあ、明日は何かあるかの?』
「……特にはないよね?春香」「ないと思う」
『おお!そうかそうか。なら、明日秋葉原に来てくれ。黒瀬さんと一緒にパソコンを買ってくれ』
……は?
『んじゃ、黄瀬さん達に報告しておくからの~!黒瀬さんから後で連絡いくと思うから返信は必ずするように!あと、歯磨けよ!風呂入れよ!風邪ひくなよ!』
「ドリフかよ!」
……僕がツッコむ前に消えるアイ。ボケ逃げするな。
数時間後。
僕と春香は大盛カツカレー(チーズトッピング)を食べ、まったりとしている中メッセージが届いた。
「あ、あにょ!明日……14時くらいにきてくりゃしゃい!」
この文だけで、明日が大変な事を僕は察知した。
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