第18話 コミケ当日~前半~ コスプレとトレーナー

 コミケは––オタクがオタクとして楽しむことができ、クリエイターが自分の最大限の表現ができる素敵な年2回のイベントだ。

 だから––僕も春香も以上に気合が入っている。

 「……さ、青さん行きますよ!」

 「そうだね!」

 大きな会場を前に……僕らの頭の中では“俺達の戦いはこれからだ––”と出ている気がする。

 いや、本当にこれからなんですけどね!?

 

 ふぅ~……サークルだから先に入れるのは本当に気楽だ。

 コミケは現在、チケット制になったためか前みたいな戦争が怒りにくくなっていることは正直助かっている。

 前のコミケだったら「もう青さん無理……」なんて春香が吐いてたと思う。

 そのくらい過酷だったからね、今でも人が増えると顔が真っ青になるのは不安になるけど……。

 そんな時、僕のスマホから女の子が喋り出した。

 『アタシには関係ないけど凄い人数じゃな~……えっと、2日間で50万人もくる……は!?え!?』

 「……おい、僕のスマホの音量バカでかくして喋るな。弱く見えるぞ」

 『ほぉ?青よ。アタシがそんな軟弱者にみえるかのぉ?』

 「青さん、そんな事言ってないで早くいかないと!」

 「あ、マジか!」『ほお?』

 小さめなキャリーケースをひく春香と少し大きなめなキャリーケースを引いている僕は––大勢の来場待ちの人達を横目に––会場へと入場した。


 まあ、そこからコスプレを僕はするわけだが……今回は別途チケットをスタッフへと渡し––春香とは離れたロッカーで着替えを始める。

 勿論、男女で分けられてるんだけど……この時だけは少し焦る。

 「春香……本当大丈夫か?」

 僕らが割り振られた場所へと先に歩いていく姿を見ていると、オドオドしてて焦りが不安と融合合体していくからだ。

 『アタシが傍についてやるから大丈夫だよ』

 「……アイがいても不安しかないんだけど?」

 『おい!』

 ––といっても、僕にはどうすることもできないので僕が不在の今だけは“姉妹の時間”として何でもいいから話してくれてればいいなと思うようにした。


 「さて……気合をいれてみようかな」

 比較的空いている男性ロッカーで––今から“女の子”として化けていく。

 元々は嫌だったんだけど……春香のキラキラとした顔が忘れられなくて、おススメされたらしてしまう。けど––

 「この衣装……攻めすぎだろ」

 着け胸を装着しながらつくづく思った。

 あ、この装着した胸は本当にリアルらしいけど、あの時の感触よりは固く感じたのは墓場まで持っていこうと思う。


 

 さて、ここで問題を出そうと思う。

 男性が「女の子」になるためには何が必要でしょうか?

 チッチッチッチ……ブブー。

 正解は『恥を捨てる』でした~!

 勿論、肩幅とか眉毛とか見える部分もあるし、メイクだって女性用のメイクは男性には合わない事の方が多いから“オリジナルのメイク”ってのも確立しなきゃいけないんだけどさ……第一は「女性になっている」という自覚を持っていなきゃ意味がない。

 だから––「うん!これで大丈夫だね♪」––自己暗示をかけましょう。

 ……そこ、Vtuber御用達の下ネタゲームみたいな事をこの1文で見つける事は禁止だからね?


 

 着替えとメイクを終えて……多分、30分くらいだと思う。

 僕(心の声はそう言わせて)は荷物を預けた後––春香とアイが待っている場所へと足を運ぶ。

 幸い、今回のコスプレはヒールはないので比較的歩きやすい。

 それに、こうやって歩いてる中でも––周りからの声が更に気持ちを昂らせていく。

 「もうすぐだ~」

 スキップする気持ちを抑えつつ––足早に目的地に足を進めていく。


 「あ、青さ~ん!……もう、素敵すぎるんですけど!尊い!えろい!シコい!」

 「……ありがとう」

 『……はえ?え?』

 もう既に限界化しそうに口元を両手で抑えて春香が迎え––アイは未だに僕の事を誰か理解していない様子だった。

 ……それに、事前情報として「叫ぶのは禁止」と言っていた分余計に陰キャオタク感があって面白い。

 「春香?今日、頑張ろうね!……アイ?どうしたの!可愛くてビックリした!?」

 「はい!」『……お、おう』

 まあ、僕自身も––今大人気の競走馬を女の子化した育成ゲームの登場キャラ––“ウイニング〇ケット”のコスプレするとは正直思ってなかったけど。……この子って実は露出多いから避けてたんだよなぁ……。

 「とりあえず、完売したら一緒に回りましょうね!?ね!?ね!?!?」

 春香の顔はピカピカと––目からビームが出るくらいに発光するくらいの興奮度で僕の手を握って何度も催促する。

 ……正直、そんな春香の目は凄く嬉しいし。可愛い。


 でも、その前によりお祭りを楽しむために僕は用意したことがある––

 「……その前に、今日は……っと。はい、春香は私のトレーナーさんだよ?」

 「え!?」『ほお』

 僕はコミケでも外出用ジャージで来ている春香の上半身のジャージのファスナーをおろし––私の行動用バッグにいれていた白のカッターシャツとリボンを渡した。

 ……いや、もしここで何も着ていなかったら大問題だったけど……幸い、自宅を出る時にTシャツを着ているのが自然と……“自然”と見えたからよかったよ。


 僕から手渡されたカッターシャツをすぐさま着て、ボタンをしっかり閉め……あの時、ドンキで買った制服についていたリボンを緩めにつけて––

 「私、青……いや、チ〇ゾーのトレーナだ!ウェイ系なトレーナー!」

 そう言って、胸を張った。なんだ、この愛くるしい存在は。

 なので、僕は––原作でもありそうな––トレーナーをギュッと抱きしめた。

 「トレーナー!今日もたーっくさんがんばろー!」

 「おー!!」

 そう言って、会場前にお互いに気合を注入させた。

 ……アイはというと、こんな2人のテンションに若干引いていた気がするが……そこは深淵にくればわかるさ。おいでよ、オタクの森へ。

(※実際のコミケは違う可能性があるので参加する際は必ず先輩に聞きましょう)


 

 ピンポーン。

 『只今からコミケ1日目開催します』というアナウンスが会場に流れ––会場内では大きな拍手と緊張に包まれた。

 そして、昔よりは遥かに落ち着いた大勢の足音とスタッフの声が––緊張感を更に上げて行く。

 ……春香よ、どんどん顔が強張っているが大丈夫か?

 それに、アイはアイで『ほぉ~』とか『凄いのぉ~』とか簡単な言葉しか言わずにいるのに凄く違和感がある。

 なので––僕は一瞬だけ“草薙青”として声をかけることにした。


 「春香?僕達の作品は凄い!春香の絵は読者の皆をきっと笑顔にさせる。それに、ほら!僕のスマホの中に笑顔になってるやつがいるじゃん」

 『……あ、アタシのことか!そうじゃよ~?』

 「……ふふっ」

 「そ、春香は笑顔が1番いいからね?今日は僕のトレーナーなんでしょ?指示してくれなきゃ困っちゃうよ?」

 「うん!わかったよ!」

 『お、人が続々来たの』

 ––そこから、僕は一瞬でキャラに戻り––笑顔になっていく相手に何度もお礼と精一杯の愛を注いだ。

 ……やっぱり、この時は本当に嬉しい。


 それに––

 「毎回買ってます!」とか「コスプレも作品もどっちも素敵です!」とか言ってくれる人も多いし、「好き!」とか「大好き!」とか––限界化を迎えた人も沢山いて嬉しすぎる。

 春香も春香で前よりも会話できるようになり、少しづつだけど笑顔もできるようになって来ている。

 「よかった」

 『そうだね』

 僕とアイは––そんなトレーナーな春香を見ながら小さな声で会話した。




 ……真夏な会場。

 会場して1時間もしないうちに––僕らの持ってきた新刊は完売することができた。

 もしかしたら“早くね?”と思う人がいるかもしれないが、僕らはそこまで新刊を刷る事はしなかった。

 それは––春香の体調を考えてということが第一にあるのだが……。

 「さ、青さん!企業を見に行きますよ!」

 「そうだね!」

 『お、ついにか!』

 ––各企業の催しが見たいからというのもあった。

 ……いや、もしかして春香がこのために毎度減らしてるのかもしれない。


 ––それに、僕らの本来の目的は「自分達が1番楽しむこと」だから必要以上に頑張る事はしたくなかったのもある。


 

 さて、読者の諸君。

 僕と春香が撤収作業をしている様を喋ったって面白くないだろ?

 だから、ここで問題2を出します。

 “一般できた人が会場に入るために待つ時間はどのくらいでしょうか?”

 チッチッチ……ポン。

 正解は“1時間~2時間程度”です!(毎度ではないけど)

 それでも、めげずに頑張れ!待った後には天国があるぞ!

 


 まあ、撤収作業も2人でやれば、実はそこまで時間はかからない。

 僕の持ってきた小さめのバッグに納まる様にしまって––春香は特等席の僕の腕へと抱き着いてくる。

 『……おっ、黄瀬さん達も準備ができたみたいだぞい?にひひ、楽しみ』

 「お!」「え!」

 スマホの中にいるアイは撤収作業中一瞬だけ消え––また戻ってきて伝えて来てくれたのだけど––これはきっと“サプライズ”があるんだろう。


 期待と不安を胸に––2人と1台は企業のほうへとゆっくりとマナーを守って歩いて行った。

 ……というか、机で隠れて見えなかったけど––上半身はJK,下半身はジャージの姿は––なんか部活帰りの少女みたいで違う刺激があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る