炎上から始める簡単な始動はここです
第17話 コミケ前、自宅。幸せはここにある。
僕と春香が入った事務所の始動日が決まった。
それは、唐突ではなく––各自の準備が終える2ヶ月後の10月を目途にする事とした。
自宅。
僕は毎日のように泊まっている––春香のおでこに冷えピタを貼る。
これは、熱が出てるとかではなく––買ってきた漫画のキャラが「漫画家なんだ」って冷えピタを貼っているのに影響されたらしい。
本当は僕に“ファイト!”って書いて欲しかったらしいが、そこは拒否した。
「青さん~?今日こそ衣装合わせしてください」
「……いや、この前春香が勝手にポチッた衣装じゃん。僕は着るって言ってないんだけど?」
「ええ~?……衣装可愛いし、似合うと思うんだけどなぁ~」
「じゃあ、春香が着れば?」
「……え、私に……サイズ違うから簡単にブラ見えるのに?変態ですね。やっぱり」
「だ、男性がこれ以上何も言えなくなるキラーワードを言うな。〇○ハラスメントとか簡単に言われるんだぞ?」
「へへ!だって、見たいですもん。変態なのは認めてください?」
「……それは……って、違うから!」
少しだけ––トロンとした顔で見つめてくる春香に……同意しかけてしまった。
……そんな理性を抑え、僕は貼り終えた冷えピタをパンっと叩き少し距離をとった。
「……今度ね?」
「え!?先行で見れるの嬉しい!!」
「……今は絵を頑張れ」
「はーい♪」
春香はご機嫌になり––コミケように仕立てた新刊の特典イラストに取り掛かっていた。
そして、僕も僕で––コミケ後の日程の確認をパソコンに打ち込み––確認をする。
……2ヶ月後に僕らは新体制となる。
さっきの会話通り––僕と春香はコミケに出るという前からの予定があった。そして、それは黒瀬アレクサンドラさんも同じで……コスプレ参加をするらしい。多分、黄瀬さんも。
そして––白鷺湊……湊さん。
こっちは『所属している事務所を平和的かつ迅速に退所するため』期間を設けることになった。
バイトみたいに「辞めます」「オッケー!」みたいな事は普通はなく……形式上だとしても「両者の合意を持って契約を終了させた」と激励の定型文と共に挟んでおかないといけないらしい。
……そのため、今の湊さんは仕事が入らない限りは変装して––黄瀬さん達のお手伝い兼メイドをしているとのこと。
「……毒が勝つのか、ギャルが勝つのか……」
いや、何も関係ないよ?でも、見てみたいとは思わない?
「む、青さんって本当ギャル好きじゃないんですか?」
僕の声があまりにも大きかったんだろうか……?
……明らかに頬を膨らませて怒っている、春香の声が『会話』となって帰ってきた。
「……あそこにあるエロ本。全部ギャル系じゃないですか」
「は!?はあ!?……そ、そんなもんはここにありません!」
僕がそう答えると––落ちてきそうな冷えピタを貼り直しつつ、春香が動き出す。
「ほら、ここには『僕がエロギャルに押し倒された話』ってあるしぃ~……こっちは『ヤンキーギャルとオタク君』!……え?何か言うことはあるかい?青さんや」
「なんで場所把握してるんだよ」
本棚の奥の方に隠していたり、ソファーと床の隙間にかくしていたりした––神秘の本を––春香がどんどんと掘り起こす。
「伊達に青さんと一緒にいませんからねぇ~?傾向と対策はバッチリ!草薙青テストは誰にも負けることはないですぞ~?」
そういって、絵描きぶるために買った大きめの黒ぶち伊達メガネをクイッとした。
「さ、青さん。反論はあるかい?」
「……いや、単純に絵が好きで……」
「はあ~ん?」
「……い、いやね?高校の時にこんな奴とは関わりなかったから……つい出来心で……」
「……で?」
「ポチったら、増えてました」
「……もう!青さんって実はこういった本集めてるの知ってるんですからね?寝室には“お姉さん系”もあるの知ってますし!」
「……おま!え、え!?」
やばい、誤魔化す方法が見つからない。
中学男子が拾ってきたエロ本を隠してたのを––部屋の掃除しに来た母親に机の上に置かれてた時のような––羞恥心が一気に押し寄せる。
そんな、あわあわとしている僕を見てからなのか……春香は湊さんが買ってきてくれた部屋着のパーカーを1枚脱ぎつつ、顔を赤らめて結論を言い出す。
「はあ、もうこんな本読む必要ないでしょ?ほら、触ってくださいよ?」
一度は生で触った感触だけど……その近い感覚が––腕ではなく、顔に来た。
「ほ、ほら!大好きなおっぱいでちゅよ~?」「ちょっと!」
「あ、あ!?お、大きくなっちゃいます?はじめます?」「ちょ、ちょっと!」
「……もう!青さんお風呂にはいりましょ?」「うぐっ」
……やばい、この空気は––エロ本みたいな展開じゃん。
あ、もしかしたら僕の見てない隙に何冊も読んだのか……?
小さい体で『作品の中のヒロイン』を頑張って演じている……?
僕はそんな小さい体についている胸の––横にある弱点––腋を何度もくすぐった。
すると、春香は“大人”から“子供”へと一瞬にして変化してくれた。
「むぅ……青さんってこういったプレイも開発したいんですか?」
「違うわ!」
……最近は過度になっているけど、一緒にいて馬鹿な事をして、一緒に何かできて––幸せと充実した日々を過ごせることに––嬉しかった。
そして、今まで以上に『楽しいことができる』という実感を手放したくないとも思った。
……僕らの高校時代が悲惨だったから、余計にね。
「春香」
「はい?青さん」
「こっちにおいで」
「……はい」
「ありがとう。僕と一緒に居てくれて」
「えへへ、こちらこそ」
そう言って––お互いが引かれあうように––目の前の相手を抱きしめた。
……小さく、強く抱きしめたら壊れそうな存在を包んでから3分くらいだろうか……。
『こんばん、うぇ!?……あ、ど、どうぞごゆっくり~』
「「っ!?」」
僕のパソコンのモニターから––アイが赤面して––視線を右下にしながら声を上げた。
それを、僕らはすぐさま解除して……モニターを見る。
『……んにゃ、邪魔したいとかじゃないんじゃけど……あ、アタシがお風呂を用意しておこうか?それくらいなら、AIな私ならできるぞ!?』
「……お気遣いなく」「よろしくお願いします!」
『……えっと、どっちだ……?』
「春香の事は気にしないでくれ……で、急にどうしたの?アイ」
「青さん酷い~!」
春香はまた落ちてきそうな冷えピタを貼り直している。
『お、おお……コホン。忙しいと思うんじゃけど、アタシもコミケを見て見たくてな?ちと、今度のサークル参加の様子を見せてもらっていいかの?』
「……あ、そっか。アイは見た事も参加したこともないのか」
僕は隣に座った春香の冷えピタがまた落ちないように、左手で抑えている。
『そうじゃな。アタシも“ブイチューバー”になるんなら知っておくべきじゃろうし、大手事務所も個人も色々と出すんじゃろ?知っておいて損はないと思う。……それに、面白い事も見れそうじゃもん』
「……?」
『で?いいかの?』
「いや、僕らは別にいいんだけど。黄瀬さん達もコミケに来るんでしょ?」
『え?春香から聞いてないのか?』
「……?」「うぇ」
春香はゆっくりと……僕から距離をとり、逃げようとしたのでガッチリとバックハグをして––逃げないようにした。
それを、アイは『にゃはは、仲良しじゃな』と言いながら答えてくれた。
『黄瀬さんもアレクさんも……あと、湊も青達のサークルに参加することになってるぞ?春香が「売り子さんは多くいればもっと青さんとデート!……あ、青さんが楽になると思うし!」って言ってたんじゃけど……ほお?サプライズにしたかったのかな?』
春香は小さく「そうですけど」と答えた。そして––
「アイさん言っちゃダメですよ~……ほら、青さん勘ぐっちゃうじゃん!」
『おお、ごめんごめん。でも、アレクさんの興奮が異常だったから気になってな?黄瀬さんも何か企んでてなぁ……湊の全身とスリーサイズを測っとったんじゃ』
「え!まさか!?」
『はっはっは。楽しみじゃな』
「楽しみ~!!」
「……?」
その“サプライズ”が何を示しているのかわからなかった……。
『じゃあ当日まで楽しみにしとくからの~!』
アイは満足げな顔で言い放ち、2人への空間へと戻すように去っていった。
「……青さん?」
「何だい?春香“さん”?」
「……えっと、お、お風呂でもはいります?ホットだけにホ~っとするかも……?」
「……冷房消そうか。寒いわ」
「うわーん!ごめんなさいーい!!!!!」
……すぐさま日常に戻る僕ら。
やっぱり、僕は––こんな日常が好きだ。
それは、春香が隣にいることが1番にあると思う。
あと––『哀』が『アイ』となって––僕らの前に現れてきてくれたからかもしれない。
ま、僕も悔しいので……春香にはコスプレ衣装を着たところは見せないでおこうと思う。
といっても、新刊のメインキャラとポチッた衣装で分かっちゃうんだけどね。
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