第16話 【深層】桜井春香の日記
私には……もう、『未来』なんて持つ必要がなかった。
だって、それは決定事項だったから。
物心がついた時には施設にいて、両親も何もかもを消えた状態で残っていたのは“慰め”のように置かれた少量のお金だけ。
……誰にも相手をされず、私は常に何かを消していくような––そんな生きて、常に死んでいる日々が続いていた。
そんな時だ––「同じ境遇の“肉親”が遠くの高校にいるかもしれない」と知ったのは。
本当に奇跡だと思った。
だから、私は一生懸命に努力して1年、1ヶ月、1日……早く会いたい気持ちにかられて勉強もしたし、バイトもしたの。
でも––それは一足遅かった。
【自殺した高校生】
その地元では何度も報道され、ニュースに何度もうつり––そして、私の入学と同時に『消された存在』として……時間が風化させていった。
「あ……そうだったんだね」
そんなニュースを何度もネットで見て––私は呟いた。
途中入学したこの高校の屋上で見える景色は––きっと私の姉が最後に見た景色なんだ。
全てが私の中で繋がっていき––それは私の心の黒い部分を更に黒くしようと厚塗りしていった。
だから、私は姉と同じ「痛み」を少しづつ受け入れることにした。
幸いと言ってもいいのか知らないけど……この高校は性根が腐っている奴らが多くて“標的”になるのに時間はかからなかった。
「……」
もうすぐ追いつくことのできる背中。
私にはその背中に何を言えるんだろう?
……いや、そんなことを思う必要もないのか。だって、私と死んだ学生が本当に肉親であるかもわかんないから。
でも、会えたら……「こんにちは」くらいは言ってもいいかな。
そうしたら––「辛いよね」って慰めるのかな?それとも、「何できたの?」って怒るのかな?
……はは、それだけが今の楽しみかもしれない。
そんな時間と痛みが数日続いた。
私の中に––一つの光が差し込んでいく。
「大丈夫ですか?」
……そう、私の特別な人が生まれたからだ。
正直、あの時の私の記憶は曖昧だった。
でも、あの時の表情––そこに姉のような存在が見えたから……といえば、馬鹿に思うかもしれない。
それでも、「何かに抗おう」としている姿に……私の足は動きを止め、代わりに腕がタオルで頭を拭き、男性の姿が見えなくなった時にジャージに着替えたんだと思う。
本当にそれが……私にとって初めて『存在』を認めてくれたと思えた瞬間だったから。
なんでだろう?あの後は本当に押し殺していた物が溢れていった。
それは、今思えば『子供』だったかもしれない。恥ずかしい。
でも、それは単純に「この人だからいいか」と思えたんだと思う。
……。まあ、そんな時が私の中でありました。
でも、それを忘れるくらいに“草薙青さん”という存在は––私の中で大きな存在になっていくわけです。
だって、私のために学校を壊して一緒に引っ越ししちゃうんですよ?
……うん。わかっています。
きっと、青さんは『姉』と被って見える私を見て––『姉』を助けるように私を助けてくれたんです。
でも、それはキッカケにすぎないですよね。
今、私は生きている。青さんも生きている。
もちろん、姉が死んだことは実感はないけど……辛いです。
それでも、今なら理解できるかもしれない“生きる理由”ってやつが。
……辛かったよね、お姉ちゃん。でも、ありがとう。
きっと、私に「死ぬのは違う」って言ってくれたんだよね。
そっちに行った時に沢山の話をするからね?覚悟してね?
私は『生きる糧』になった存在が消えないように––また消えてしまわないように努力した。
でも、それは一度も辛いとは思わなかった。
隣で一緒に頑張ろうとする姿があって、常に認めてくれて、弱気になった時には叱咤激励してくれて……こんなの好きになるには時間がかからないです。
それに、お互いがお互いを求めるようにサークルを作って……存在を大きくしてくれた。
だから、もうこんな存在を手放すことはありえないと思います。
本当は––それ以上の関係値になりたいけど、まだ私達にははやいのかな?
あ、でもこの前のキスは嬉しかった。
今度はお互いが意識して––キスをしたいって思う。
でも、不安もある。
存在が大きくなったサークルを買収されて仲間ができた。
そんな仲間の容姿は––私には持っていないモノばかりだ。
しかも、青さんって実は巨乳で押しが強い人に弱いんです。部屋にあったエロ本の傾向でわかります。
だから……今以上にスキンシップは大事にしなきゃだよね。
それに––黒瀬さん達から大きくなる秘訣も聞けたし、毎日実践してみようと思う。
あと、私はママになった。
でも、その中の1人には複雑な感情がある。
私がママなのに––その人には姉のような温かさを感じる。
たまに私の胸を弄ってくるのは正直イラっとするけど––ちゃんと見てくれているような……ちょっと言葉に表せない感情が生まれる。
あ、でも青さんと話す時は嫉妬します。仲良すぎ。
でも、なんだかもっともっと楽しくて素敵な日々が生まれそうで嬉しいです。
大好きな青さんがいて、尊敬できそうな先輩達がいて、馬鹿にするけど見守ってくれるバーチャルな存在がいる……こんなの何倍も何十倍も楽しくなること間違いなしでしょ?
大丈夫。私達ならできる。
……あ、青さんが呼んでくれてるからここで日記を書くのを止めます。
次は……また思い出した時に書くからね。
だから、あの時の私。バイバイ。
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