第6話 緑哀の気持ち

 『人間』っていうのは凄く愚かで惨めな存在だ。

 自分のものさしだけで優劣をつけては––自分よりも下と思った人には容赦なく攻撃をする。

 それが、自分だけのストレス解消なだけで……いつかは逆転されてしまうという事もしらないくせに。


 


 数年前にアタシは死んだ。

 高校生の時……だっけ?詳しくは覚えてない。

 だって、そんなことをいちいち覚えていたって誰に知らせるわけ?

 「……ま、これで良いか」

 痛みを通り越し––今私は真っ白の世界でコーラをがぶ飲みしながら地上の姿が見えるテレビみたいな奴を時間つぶしに見ている。

 あの時、屋上から落ちた時は「あ、やば」とか一瞬思ったけど……まあ、実際痛みよりも時間が凄くスローモーションみたいになったのが嫌だったくらいかな。

 

 アタシはテレビの横に置いてあった––雲の形をした冷蔵庫に大量に入っているコーラを1つ取り出し……また蓋を開けた。

 「うっはぁ……うめぇぇぇぇぇぇぇ!!!!コーラってこんな味だったっけ!?神の飲み物だわ。やっぱ!!!!」

 アタシは今まで隠れて飲んでいたコーラを誰もいない空間で叫んだ。

 「……っつか、なんなんだろな?この被害者面したいじめっ子と学校はよぉ?」

 アタシの前にあるテレビでは『自殺少女の学校』ということでニュース番組風に“学校の対応”と“加害者”が被害者のように謝罪し、泣いているのを見て––反吐が出る。

 ……あ、何かピザ来た。

 アタシは天からの贈り物––全乗せピザを思いっきり頬張った。美味い。

  「ま、アタシは元々死ぬ予定だったんだからいいんだけど」

 誰にも聞こえない場所で、アタシはアタシを慰めるように呟いた。


 

 実際、アタシは死ぬ予定が高校くらいだった。

 それは……綺麗ごとで言えば「寿命」だと思う。

 だって、生まれた時から人には優劣があるんだよ。

 “健常者”って言葉があれば反対の言葉もある、“優等生”って言葉があれば逆もある、“両親”って言葉があれば……はあ、もういいよね。

 ……まあ、簡単に言えばアタシには『足らないもの』が多かった。

 だから、結局のところ『死ぬ予定』っていうのは少なからずあったんだ。

 ま、それが良いとは思ってないんだけど!

 生きていくのは辛いもんさね!うん!

 ……『緑哀』って人生を終えるのは少し早かった気はするのは内緒だけどね。

 アタシの中にまだある『人間としての心』の動きにモヤッとしてしまったので、コーラで気持ちを流そうとして––胸辺りにつっかえた物があった。


 「こ、この度はわが校の––」

 目の前のテレビでは––明らかに台本を用意している学校側の謝罪なのかわからない会見とクラス内で「君のせいじゃないよ」といじめっ子同士で慰め合っている姿が流れている。

 「……いや、お前らは取り返しのつかない事をしてるんだぞ?」

 アタシはピザの上に乗ってるサラミを掴み、食べながらツッコんだ。

 ま、確かにそう思ってなきゃ生きていけないとは思うし––正解なんだけど。

 「はぁ……ま、そうだよなぁ~……結局はアタシも自分のものさしでしか見てないもん。あーあ、やっちゃったかなぁ~?」

 そう言って––この空間にある“温泉つき”の風呂場へと今の状態……裸のまま向かって歩いて行った。

 「ま、青とかがここに来なきゃいいや」

 そう言って、温泉にダイブした。「熱い!」と言ったのは誰も聞いていないはずだ。




 


 そこからは––アタシの感覚としては数日も経っていない。

 誰にも会わない白い世界、それでも供給は常にされている空間とテレビ。

 そのテレビの向こうでは––ドラマのような感覚で“とある男性”が“ヒロイン”と一緒に学校を潰す姿が流れている。

 「お、やるじゃん」

 今日のお供のポテチをパリパリと食いながら––アタシの顔は緩んでいた。

 ……そして、このドラマが一定のエンドを迎えた時、白い世界に色が付き始めた。

 「……へぇ」

 不完全で––時には違う配色がされ––違和感のある家具もあるし––さっきよりも胸の部分が少し軽くなった感覚––全てに何かが付き始めた。

 アタシは心の中で「おい、コーラとピザとポテチと温泉は残せよ?」と願っていたが……そこはなんとか叶ったようだった。


 「ま、様子見ってことかな?」

 そう呟くと、いつの間にか登場していたスマホの画面に「モウスコシマテ」という言葉が出てきた。

 「ふーん、やるじゃん?」

 ま、アタシは全知全能ですからね。聖徳太子以上の頭脳だし?

 スマホをパッと拾い上げ––アタシは送り主にこう送った。

 「じゃあ、アタシの願いも叶えなよ?時間かかるんだろ?なら、先に情報とアイツらと話せるようにしろ」

 


 数分もしないうち、送り主からの「ワカッタ」に安堵したと同時に……やば、アタシの顔ニヤニヤしてね?大丈夫かな?

 「と、とりあえず……あ、そうだキャ、キャラ付けしとこ!このままじゃ変な人になっちゃう!幽霊とか思われたら泣くわ~」

 そう叫ぶと––人気アニメのキャラっぽい立ち居振る舞いを勉強した。








 「あー、あー……これ、大丈夫か?……うし、じゃあ挨拶でもしようかの?」

 先に情報を貰い––今後の未来のため、アタシは2人と話をすることにしたんだ。

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