第8話 ニセモノ
あれからどれだけ走ったのだろうか。
階段を登りきるまであと少しだというところまで全力疾走していたが、一切疲労を感じなかった。
呼吸はもちろん荒いが、身体は軽かった。
——誰か、助けてくれよ…!
神社に着くと、そこに華月さんの姿があった。
「なんだ華月さんいたのか…。まさか俺の足が遅いなんて言うんじゃないだろうな」
…無視かよ。まぁ、いいか。
よっぽど疲れているんだろう。
だが、何故だろうか彼女の表情はとても冷たかった。
「お、おい…どうしたんだよ…」
少しずつ近づいてくる彼女に恐怖を覚えた。
とても冷酷で——そう、まるで感情がないかのように。
「…うっ」
首にかけられた手がとても冷たい。
苦しさと恐怖で声が出ない。
「やめてくれよ…。苦しいよ、華月さん…。どうしてこんなことを…!」
——生きたかった。
もう一度、みんなで笑い合いたかった。
こんなことになるんだったら、あの子に告白しとけばよかったかな…。
あぁ…俺、この人生、後悔しかねぇわ——。
華月さんは俺を階段のほうに放り投げ、気がつくと俺の視界に映る彼女はだんだん小さくなっていった。そして最後に映ったのは華月さんではなく、監視者の姿だった。
「ちくしょう…っ」
自分の不甲斐なさや無力さを感じながら、ゆっくりとまぶたを下ろす。
・ ・ ・
「ほら、男の子なんでしょ。ちょっと怪我したくらいで泣いてちゃダメよ」
「うん…」
女性はそう言いながら小さな男の子を抱き、優しく頭を撫でた。
しばらくして眠りについたその子の顔を見て、女性は微笑んだ。
「大丈夫、あなたはいい子だから——」
男の子を強く抱いて涙を流す彼女の姿は、子を想う母親のものだった。
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