第3話 基礎魔法、極める

「さ、今日から基礎魔法を、叩き込んでいくよ」

師匠が、杖をぺしぺし、と手の平に打ち付けている。

身体の、節々から悲鳴が、聞こえる。結局、昨日は、何度もボコボコにされた。

「うぅ……、痛い……」

「痛がってる場合じゃないよ、強くなりたいんでしょ」

「それは……」

精神的に、痛いところを突かれてしまう。あの、地獄が、脳裏によぎる。頭に、ノイズが走り、黒い感情が、湧き上がってくる。

(このくらいで、根をあげるな!)

拳を、強く握り、奥歯を強く噛みしめる。

「………お願いします」

「うん、それじゃあ、始めようか」

師匠が杖を、構えて魔力を、集めている。その有り様が、美しく、玲瓏な、雰囲気を纏っている。それでいて、一切の無駄がない。地面が、大気が、揺れる。周囲に、魔力が満ち満ちて、いるのが分かる。

時は、来たのか。師匠が、それを、天に向けて放つ。魔力の、暴流だ。

轟音が、した。魔力が、風が、吹き荒れる。天は、割れているのが、目に入る。ある程度、時間が、たち暴流が、収まっていく。

師匠は、ふぅ、と息をつき、僕に向き直した。

「今の、見てたよね。君には、あれくらい出来るようになって、貰うつもりだから」

「………あれくらい?……」

絶句してしまう。あれと、同じのをやれと、出来るようになると、言われたのだから。

「それじゃ……改めて、今から君には、基礎魔法を教えていく。基礎魔法の、概要、これも一応振り返っておこう。はい、そしたら基礎魔法とは、なに」

「………うぇっ!あ…えっと、魔力そのもので、攻撃したり、守ったりする事です」

いきなり、問いかけられ、驚いてしまった。

「そう、その通り。さっきやって見せたのも、これ。そして、基礎魔法を、高めていけば、魔力の総量や出力もあがる。つまり、これを、極めればそれだけで、強くなれる」

成る程、と思う。そして、疑問が、湧いてくる。

「師匠、……それは、どのくらいで、極めたとか、分かるのですか?」

「それはね、私が判断する。だから、君は、全力で臨んでくれ」

「分かりました」

(これから……本格的に……)

復讐心が、ひどく、冷たくなっていくのが分かる。だが、それと、同時に、不思議と楽しんでいる、気持ちがある。楽しんでは、駄目だ!と、思うもそれはやまない。矛盾した、思いを胸に抱え、彼は、修行に臨む。


―――――――――――――――――――――――




「取り敢えず、今出来る、最大の魔力を込めて私に、基礎魔法を打ちこんで」

「………いきます!」

杖の、先端に魔力を込めていく。自らの、内にあるものを、全て集める。師匠のことは気にせず、とにかく全力でやる。

「うっ…はぁ、はぁ」

震える。息が、荒れて、冷や汗をかく。もう、そろそろ、限界が近い。

「は………ハァァァァ!」

放つ。師匠に、向けて。これまでの、全力と感情を、すべてを。

「やっぱり、君は、―――」

師匠に、着弾する、その直前で、魔力が霧散する。

「えっ……は?」

困惑してしまう。渾身の一撃、そのはずだったが、師匠には、当たりどころか、かすりすらしなかった。一体、何をしたんだ?防御すら、していなかったのに。

「魔力の総量も、出力も、今の実力にしては、充分な威力。荒削りの、才能か……」

師匠が、顎に手を当て、ブツブツ、呟いている。

「――――あ、」

意識が、クラッ、ときてしまい膝をつく。そのまま、腰をおろし息をついた。

手足が、震えて、痺れている。それも、そうだ、今まで、やったことがないことを、いきなり、やったのだから。

「ハァ、ハァ、……ッホ、」

師匠が、近づいて、しゃがみこむ。頭に、手を置かれ、撫でられる。

「よしよし、頑張ったねぇ~。あとで、ちゃーんと甘やかし……ご褒美あげるからね」

纏う雰囲気が、違う。師匠が、オフモードになっている。

「ハァ、す……すいま…せん、こ、この…くらいで、へ、へばって」

「ぅん、良いよ。今まで、やったことなかったんでしょ?だったら、しょうがないよ〜、私も、初めはそんなだったしね」

「し…師匠も…?」

「当たり前でしょ?初めから、出来る人なんていないの」

師匠が、手を差し出してくれる。その手を、取り立ち上がる。足は、まだ震えてるが、立てないほどではない。

「そうねぇ~、まずは、魔力の制御を、してみようか」

「魔力の、制御ですか」

「そう、君には、無駄が多い。だから、そんなに疲れてるの。もっと、無駄を、減らせれば疲れないし、何より魔力量の底上げにもなる。それは、出力を、上げることにも繋がるからね」

師匠が、杖を握る。空気が、冷える。

「今から、君に魔力を送る。その魔力を、霧散させずに維持して。完璧に」

魔力の、塊を形成し、投げ渡してくる。

「あっ………」

それを、受け止めるもすぐに、霧散してしまった。

「いい?それを、一週間保つこと」 

「いッ、一週間!?」

思わず、声を大きくあげてしまう。

「何を、驚いてる?これくらいは当然」

師匠が、もう一度塊を、形成する。

「さ、もう一回」

またしても、渡されるが、魔力は、霧散する。

「まだ、やるよ」

渡される、霧散する。その繰り返し。気づけば、日が暮れていた。

「……今日は、これで終わりに、しよう」

師匠が、杖をしまう。纏う雰囲気が、暖かくなる。

「ご飯に、しようか!」

師匠が、家へと戻っていく。その姿を、後ろで見ながら、僕は、拳を強く握ることしかできなかった。



―――――――――――――――――――――――



「ハァ、ハァ………出来た!」

「うん、魔力の維持は、完璧だね」

あれから、3ヶ月程経って、ようやく形の維持を、一週間保つことに、成功した。

「次は、それを、コントロールしてみて」

「コントロール?」

「魔力を、注いで膨らましたり、逆に、魔力を抜いて萎ましてみたり、かな」

要は、風船のように、してみろってことだと解釈する。

「………」

魔力を、注ぐ。みるみる内に、膨らんでいく。限界だと、思うところで、一旦止める。

「師匠、これ、」

師匠の、方を振り向くと、耳を、抑えていた。

「……何で、耳を抑えてるんですか?」

「えっ、あ、いや〜、その、信用してないわけじゃないんだよ。そう、……そうだよ!だって、君は…ね、才能豊かなんだし、出来ると思ってたし、破裂させるなんて、露にも、思ってないよ、うん」

どうやら、失敗するものだと、思われていたらしい。少し、ムッとしてしまう。

「昔、魔力を操作して、風船とかで遊んでたんです。だから、こういうのは、得意なんです」

「そ、そーなんだー、いやー、流石ね」

師匠は、苦い笑顔を、浮かべている。そんな、空気を変えるかのように、パンッ、と手を叩く。

「さ、魔力のコントロールは、出来てる。魔法を使い続けていけば、更に、上手くなっていくから。あとは、………出力、かな」

出力、恐らくそれは、基礎魔法の威力を、高める為の、ものだろう。

「それは、基礎魔法の威力を?」

「基礎魔法、っていうよりは、魔法全体、そのものだね」

「成る程、具体的に、どんなことを?」

「これに、関しては長い目で、やらないといけないからね〜。いきなり、出力をあげても、魔力切れを、起こしやすくなるだけだし」

風が、頰を触れ、草木が舞う。魔力が、乱れていく。

「これから、やることを言う。まずは、基礎魔法の、撃ち込み、それと防御の訓練。その次に、3時間の瞑想とイメージトレーニング、その後、2時間寝る。これを、繰り返す、毎日」

師匠の、目が鋭くこちらを見ている。

「分かりました」

元より、僕にそれを拒否する理由などない。

「そう……なら、早速、やろうか」

「お願いします」

杖を、取り出す。息を、吸って吐く。

「いきます!」

魔力を、込めた杖先が、弾となり、放たれた。



――――――――――――――――――――――



瞼を、閉じるとふと、蘇る。あの、地獄が。

もう、二度と思い出したくもない、光景が脳に、写し出される。

(何も、考えるな)

静かに、息を吐く。再び、無心へと戻る。


「大分、様になってきたね」

後ろから、声を掛けられる。声の主の、方向を向く。

「えぇ、おかげさまで」

これを、初めて1年の、時が過ぎた。

「もう、そろそろいいかな〜」

「何が…ですか?」

「基礎魔法の、修行は、もう完璧かなぁと、思って」

師匠が、突然そう告げた。

「ほ、本当に?」

信じられず、聞き返す。

「あぁ、本当さ、君は、私の次位には、基礎魔法は、出来ている。だから、合格」

やっと、一つ目の課題を、達成することが、出来た。その喜びを、噛み締めるのも、束の間。次なる課題が、始まる。

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