第2話 修行

「はぁっ…はぁっ…ッ」

 上手く眠れず、目を覚ます。時刻は、まだ夜中を、指していた。

 あのときの、光景がずっと脳裏にこびりついて離れない。

「くそッ……」

 ドンッと、強い物音を立ててしまう。

 まずい、そう思うも遅かった。

「大丈夫!?」

 彼女が、勢いよく扉を開けて入ってきた。

「えぇ、大丈夫です。ちょっと寝返りうった、だけですから……」そう言って、誤魔化す。

「…そう、それなら良いんだけど……」

 不安そうな顔を、しながらも彼女は踵を返し、扉を閉めながら「おやすみ」と呟いた。

 はぁっ、と溜息が漏れる。彼女に、心配をかけてしまっている、自分を悔いる。

「もっと、しっかりとしないと」

 そうだ、もっと強くならないと、復讐なんて夢のまた夢なんだから。

 そう思い、再び、眠りにつく。


「おはよう、昨日は……あのあと眠れた?」

 彼女が、不安そうな顔を、のぞかせ尋ねる。

「えぇ、なんとか」

「……本当に?無理してない…?」

「大丈夫ですって、心配してくれてありがとうございます」

「うーーっ!」と彼女は、膨れっ面をしている。

 何故?理由は、よく分からないが、何かしてしまったのだろうか。

「取り敢えず、顔を洗ってきますね!」

 逃げるように、言い放った。


 鏡の前に、立つ。

 自身の顔を見る、とてもじゃないが、大丈夫そうには見えなかった。自分でも、わかるほどに隈が深く刻まれていたからだ。

 そう、実際あのあと眠れず、そのままずっと起きていた。成る程、これをみたからか……

「…………戻るか」



 彼女が、ソファに腰掛けていた。

 くいくい、と手招きしている。

 手招きされるままに、彼女の方へと近づく。

「はい」っと言われる。

「どういうことです?」

「だ~か~ら~こーこ!」

 ぺしぺしと、太ももを叩いている。そこに、何かあるのだろうかと、思い、じっと見つめる。

「……なんで、見つめてるの……?」

「いや、太ももを、強調するから……」

「ち〜がう〜膝枕!ひ〜ざ〜ま〜くら、言わないと、わかんないの?」

「膝枕?」

「そうよ、だって眠れてないんでしょう?」

 僕を、心配してのものだったらしい。

「いや、大丈夫ですから……。そんなことより、早く、修行の方を……」

 そう、こんなことをしている場合じゃない。一秒でも早く、強くならないと、

「そう……だったら、修行はしないわ」

「なんで…!どうして…!」

「してほしかったら、私の言う事を、聞きなさい」

 そう言われてしまうと、弱い。仕方なしに、彼女の言われたとおりにする。

「そう…それでいいの」

 彼女の太ももに、頭を、乗せる。……ひんやりとしていて気持ちいい。

「ふふっ…どう?私の太ももは?」

「やわらかい…です」

「なら、良かった。…じゃあ、改めて自己紹介しようか」

「?……言ってませんでしたっけ?」

「うん、聞いてないね」

 昨日、初めて会ってから、割と時間たっているのに、互いの名前すら知らなかった。確かに、昨日聞きそびれていた。

「なら、私から、私の名は――――ガーデン。

 これからは、そう呼んでほしい」

「ガーデン?上名は何ていうんです?」

「それは、ちょっと……諸事情で………」

 何か特別な、事情があるらしい。それならば、深くは聞かまい。

「分かりました。次は、僕ですね。改めて、僕は、ルカナ=ディズベルトと、申します。これから、よろしくお願いします」

「うん、ルカ君ね。これから、よろしく。あぁ、それとそんなに、畏まらなくて良いよ」

「………ルカ君、………」

 胸の、中から何かが、込み上げる。かつて、そう呼んでくれた者に、思いを馳せる。

(母さん………)

 その様子を、不審に思ったのか、

「…何か気にさわちゃった?ごめんね」

「ううん、大丈夫です。それより、今後のことを、話しませんか?」

 そのために、身を起こそうとするも、強い力で押さえつけられる。はぁ、このまま話すしかないのか。

「じゃあ、まず、ルカ君は、何をしたい?それを、聞かせてほしい」

 何を、したいかなんてもうとっくに決まっている。

「僕は、………ゅう、………」

「?何て、」

「――――復讐を、したいです」

「ふーん、復讐……ねぇ」

 駄目だっただろうか。いや、何と言われようともこれを、変えるつもりは、一切無い。

「まっ、当然のことよね。何も決めてないって、言われたら、どうしようかと思った」

「………一応、止めないんですね」

「だって、止めたって意味ないし、それを止める権利も、ないしね。でもね、その心に支配、飲み込まれないで」

「優しい君を、忘れちゃ駄目だよ」

 頭を、撫でられながら、優しい声音で諭される。

 その手の、温かさで少し、眠たくなってくる。

「…じゃあ、そのために、したいこと、やらないといけないことを、決めようか」

「あっ、それに関しては、取り敢えず決めてます」

「へぇ~、聞かせてほしいなぁ」

「――――――ステラに、行きます」

「その理由を聞いても……?」

「元々、目指していたっていうのも、ありますけど、より強くなる為に、学ぶ為に行きます。そして―――――特権を手に入れます」

 特権を、手に入れる。これが、主な目的だ。それさえ手にいれれば、この国で、活動していくには困らない。

「成る程ねぇ〜、それがしたい事ね。じゃ、次はやらないといけないこと。これは、もう決まってるね」

「えぇ、……修行、ですね。いつから始めます?」

「それは、明日から」

 明日……か、一刻も早く強くならないと、いけないのに,と焦る気持ちが、募る。だけど、焦ったところで、しょうがない。そう自分に、言い聞かせる。

「今日は、このままゆっくりと、しようね」

「………ちなみに、起き上がっても……」

「ふふっ…だ〜めっ」

「ッ…ほらっ、……足が痺れますよ、」

 頭を撫でる勢いが、増していく。ワシャワシャされて、ちょっと痛い。

「あ…あの、ちょっ…いた…痛いんですけど!」

「あらっ、ごめんなさい」

 全く、誠意を感じない謝罪をされた。はぁ、諦めてもうこのまま、寝てしまおうかな。というよりも、そろそろ限界が近づいている。

「いつでも寝ていいからね〜、お姉さんに、可愛い寝顔見せ、……ゲフッゲフッ、おやすみなさ〜い」

 ………何か、今割と危ないことを言ってたような気がするが、お言葉に甘えさせてもらおう。

「でしたら………おやすみ、」

 ことっと、そこで意識が途切れた。


 ☆


「はぁ~、本当に、可愛い……」

 ほっぺを、ふにふにと、する。とてもやわらかく、肌もきれいで、はぁー本当に可愛い。よく見ると、睫毛も、長く顔立ちも、どちらかと言うと、女の子よりの顔をしている。黒髪も、似合ってるし。

「……この子を、強くする。私にとっては、造作もないことだけど…」

 彼を強くするそれは、勿論だが、私の目的は、別にある。それは、彼の心を癒す、ということだ。

 復讐を果たす。それを、否定する気はないが、その道だけに、突き進むことは、してほしくない。その道の先に、あるものを私は、知っている。

 あるのはただ、一時的な達成感。それだけ。後ろを、振り返ると、何も残ってない。誰も、ついてきてくれない。空虚な道だ。

 頭を、優しく撫でる。

「だからね、本当は、君に歩んでほしくないんだ」

 私に、止める権利はないし、資格もない。けど彼にはしてほしくない。自分の中の、矛盾した思いを、胸に抱える。

「はぁー、本当に、どうすれば……」

 パキッと、音がする。音のする方を、見る。

 左手が、少し欠け、光となっている。

「はぁ~、もう……確かに、少しやり過ぎたかも。最後に、この子を教える事位は出来るかな」

 これを、見られたら不味いな、そう思い、再生魔法を、使う。……やっぱり、これには効かないか……

 しょうがない、誤魔化すしかないか……。

 上から、魔力で作った皮を被せる。―――これで、大丈夫なはず。

「……さ、明日からだよ。私を、師匠にしたこと、絶対に後悔させないからね」

 彼を見てると、意識が、朦朧としてきた。わたしも、一緒に、寝よう。そのまま、目を閉じ、暫くして意識を、手放した。



 ☆


「ッ………うッ……うーん」

 意識を、覚醒させ、目を開ける。彼女の顔が、よく見える。どうやら、彼女もいつの間にか、眠ってしまったらしい。……改めて、見ると美しい顔立ちをしている。それを、引き立てる純白で綺麗な、長い髪。……胸は、少し控えめだが、それが逆に美しさのバランスを、保っているように感じる。

 ………?何故、こんな事を考えているんだ。彼女のことを、観察するように……。それどころか、心臓が、さっきから、バクバクしている。うーん?よく分からないが、まぁ大した事じゃないと、思う。

 取り敢えず、起き上がろうとし、その瞬間うつら、うつらとしていた、彼女の頭とぶつかる。

「ッ〜〜〜痛ッ〜〜」

「ん、うぇっ、な、何?!」

 彼女が、目を覚ましてしまった。申し訳ないことをしてしまったな。

「あぁー、おはようございますー?」

「ん、おはよう」

 ふわぁ〜、と目をこすりながら、欠伸をしている。

「今、何時くらい〜〜?」

 壁に、掛けてある時計を見る。時刻は、現在1の方向に、針を指していた。

「今は、……13時位ですね」

「ん~~ってことは、お昼なのね。それじゃあ、ご飯食べよっか!」

 彼女は、立ち上がり、キッチンへと向かった。

「あ、そういえば嫌いなものとかある?」

「特には、……しいていえば、野菜が嫌いです」

「ん、野菜ねぇ〜りょーかーい」

 そういった、彼女は、テキパキと料理に取り掛かっている。その間、暇になってしまった。彼女の方へ、向かい尋ねる。

「何か、手伝うことは……」

「ううん、大丈夫だから、座って待っててね」

「う…ん、分かりました」

 彼女にだけ、色々させてしまい、申し訳無さが増す。やることもないので、大人しく待つことにした。


「お待たせしたね。今日のお昼は、クラジカの、ソテーに、コンソメスープ、あと付け合せに、ポテトをバターで絡ませたやつ、それとパン、以上!……どうかな?」

「す…凄い豪華ですね…。……食べ切れるかな…」

 そうだった、少食なことを、伝え忘れていた。

 彼女の方を見ると、満面の笑みを、浮かべていた。ふぅー、と覚悟を決める。

「……いただきます」 「ふふっ…いっぱい食べてね!」

 まずは、スープから、……美味い、めっちゃ美味い。味蕾に、スープが触れた瞬間、口の中に一気に、コンソメの香りが広がり、喉にスーッと、入ってくる。後味も、しっかりとあるが、それでいて全く、くどくない。続いて、ソテーを一口。これもまた、美味しい。中まで、しっかりと火が通っているだけに飽き足らず、火加減も、完璧。かかっているソースも、甘みをベースとした中、少し酸味ががっておりそれがさらに、食欲を、唆る。

「めちゃくちゃ、美味しいです!!」

 本当に、美味しい。柄にもなく、食レポ紛いなことを、してしまうほど美味しい。

「そう!舌に合ってくれたようで、良かったぁ〜」

 そのまま、集中して食べ進めてしまった。


「ご馳走様でした…」

「はぁ~い、お粗末様でした〜」

 ふぅっと、息をつく。自分が、少食であることを、忘れる程夢中になってしまった。そのせいか、少し腹がいたい。

「!ねぇ〜ちょっと、こっち向いてくれる?」

 そう言われたので、彼女の方へ、顔を向ける。

「そのまま、じっとしてね。……はい、これできれいになったわね」

 どうやら、口の周りにソースが、ついていたらしい。……顔が、火照り始めたのが分かる。それほどまでに、熱い。

「んぅッ〜、照れてるの〜、可愛い〜!」

 彼女が、抱きついてくる。ちょっ……抱きつく位置が、まずっ……やわらか……いいにぉい。じゃない!、離してもらわないと。

「っと……くる、し…はなして」

「?あっ、ごめんね〜ちょっと、余りにも愛くるしくて……」

 ハァッ、ハァッと、息をする。彼女の、香りが、まだ鼻に残って離れない。

「い、いや、はぁっ、はぁっ、だ、大丈夫です」

「ごめんね、次からは、少し自制するね〜」

 彼女が、平謝りしてくる。まぁ、もうこんなことは、しないでほしい。………ん?今何て、

「さ、それじゃあ、今から識別の儀しようか」

「……識別の儀って確か、…対象者の力を、簡単に測る、ものでしたっけ?」

「そう、大体そんな感じかな〜。といっても本当に簡易的なことしか、分からないんだけどね。それでも、その人の属性適性、属魔法の有無が、分かる中々、優れたものなんだよ」

 彼女が、言う言葉の中で聞き慣れないものがあった。

「属魔法?」

「んっ?属魔法、知らない?よ〜し、お姉さんが、説明しよう!」

 属魔法――――――世界全体で、僅かの人間にしか宿らない魔法。固有魔法、とも呼ばれてるらしい。

 その魔法は、強力無比な強さを誇る。それにも、様々な効果があり、その効果は当人しか知り得ない。そして、

「同じ魔法はね、絶対に存在しないの。似ている、みたいなものは、あるけどね」

「成る程、必殺技みたいなもの、ですね」

「そうね、そういう認識で、間違いないよ。魔力の消費が、でかいからね」

 彼女が、立ち上がり庭へと向かう。どうやら、外で行うらしい。僕も、立ち上がり庭へと行こう。


「じゃあ、これから始めるね。緊張とかしてない?」

 緊張……。それは、している。しているっていっても、儀式に、ではない。これにより、出てくる結果の方に、緊張している。もし、何も才能が、力がなければ僕の、目的は果たせない。それは嫌だ。

「えぇ、……お願いします」

「じゃあ、いくよ」

 空気が、乱れ、魔力が満ちていく。彼女の下に、陣が浮かび上がる。魔力を込め、言の葉を、紡ぐ。

『天開』

 陣が、広がっていき、空中に球体が出来ている。

「さ、陣は、展開した。あとは、君がこれに触れるだけ」

 球体が、目の前に降りてきた。固唾を、飲み、覚悟を、決め触れる。

 球体が、青色に変わり、黄色に変わり、そして、最後に、黒くなり水晶へと変化した。

「?これは、……どういう結果なんです?」

 彼女の、方を見る。彼女は、俯いていて……震えているのが分かる。もしかして、とてつもなく悪い結果だった、のでは。そんな不安に、かられる。

「す…」「す?」

「すごいよ!!いやー、才能があるのは、分かってたけど、これほどとは、思わなかったよ」

 興奮気味に、彼女から告げられる。

「二次の属性適性に、属魔法を所持、そして魔眼も、あるなんて。しかも、両眼に違う概念を宿してる!これは、鍛え甲斐があるなぁ〜」

 早口で、まくしたてられる。どうやら、先程の懸念は、無用だったらしい。彼女の、語り草と、輝き放つあの顔が、何よりの証拠だ。

「それで、これは……。」

「えっ…あ、あぁ、ごめんね。ちょっと興奮しちゃって。だって、本当に凄いんだよ!私の、時代でもここまで才能ある子は、中々いなかったし、それどころか超えてるまであるね」

「そんなに、凄いのですか……」

 はっきりと、いってあまり実感がない。正直、自分でも、驚いている。こんなにも、自分には、才能があったのかと。

(だったら、何故父との修行の、時は何も起こらなかったんだ?)

 疑問が、頭によぎるが、今は目の前の事に、集中しよう。そう思い、疑問を頭の隅に、追いやった。

「そう!すごいも何も、まず、君は、属性を二種類持っている。これは、先天性のもの。属性は、努力次第で、会得できるけど、途方もない時間がかかる。だから、生まれながらのアドバンテージだね。そして、魔眼。これも、先天性、才能の一種。どんな物かは、後々、試すから良いとして、最後に、君の、最大の武器、属魔法」

「……僕に、属魔法が……」

「でもね、今のままじゃ使えないの。自らの、心に魔力を、集めて集中して。そしたら、心象風景が、見えてくる。…属魔法はね、自覚しないと一生使うことが、出来ない。けど、一度でも自覚してしまえばそれで、覚醒は完了する。だから、やってみて」

「分かりました」

 ふぅーっと、息を吐き、深呼吸する。

 魔力を、心臓に、集中させる。心臓が、激しく鳴り響いている。

 血流が、より速く、より熱くなる。思考が、加速し、世界が、白く輝いて、弾けた。




 暗い、昏い、闇の世界。そこに、輝く無数の光。照らし、続ける暁の星。宵を、飾る白麗の星。無限に膨らむ、果てなき空間。

 意識が、宙を舞っている。

(これが……僕の………)

 自らの、心象風景を見て、理解した。

(僕の、属魔法は……)

 自覚すると同時に、空間が、崩れ意識が、現実へと引き戻される。



「……………はっ、」

「お、戻ってきたね。それで、どうだった?自らの、心象風景は」

「……言葉に、ならないくらい壮大でした」

 しばらくは、あの神秘的な空間を、忘れられそうにない。

「へぇ~、ちなみに、どんなところだったの?」

「……宇宙、にいました」

 本物の、宇宙に、行ったことはないが、まぁ、あれは宇宙だろう。

「ってことは、………本当に、君、とんでもないね」

 彼女が、初めて呆れた顔を見せた。そこには、感嘆の声も、含まれているのだろう。

「これで、君は、属魔法が使えるようになった。あとは、鍛えていくだけだね」

 そうだ、いくら才能があろうと、鍛えなければ、持ち腐れだ。これで、スタートラインに、立てる。

「明日から、ですよね」

「うん、覚悟しておいてね、お姉さんの修行は厳しいよー」

 そう言って、微笑み、展開していた陣が、収束していく。彼女は、踵を返し家へと戻った。

 拳を強く握り、空を見る。

「………待ってて、必ず」

 再度、決心し、歩み始めた。



 朝、時刻は6時頃を迎えている。

 早朝まもなく、庭へと集められた。

 朝だからか、少し肌寒い。深呼吸をする。冷たい空気が、脳を冷やす感覚に、浸りながら、僕は、彼女を、師匠を待っている。

 先に出てて、と言われたのが約三十分前位の、こと。そこから、暇を、適当に潰していた。

 周囲を、少し見て回ったりして、改めてここは、

 傀儡マリオネットフォレストだということを、確認する。ここから、少しでもでてしまえば、すぐさま傀儡となり、死んでしまうだろう。

(一歩でも、出れば皆に……)

 悪い思考が、頭に、よぎる。そんな考えを、払うかのように、強く頰を叩いた。

(駄目だろ……僕が、やらなきゃ誰が…)

 そんなこんなしている内に、師匠が、家から出てくるのが目に入った。

(取り敢えず、戻ろう)




「何処に、行ってたの?」

「ちょっと、周囲の散策に…」

 師匠が、心配そうな顔を、覗かせている。

「それより、何をしてたんですか?」

「……聞かないで、もらえると助かるかな〜」

 笑ってはいるが、その顔が怖い。聞かないでおこう、ヘビが、出てきてほしくないし。

「それじゃあ、……初めようか」

 空気が、引き締まったのを、感じる。師匠の、声音が、少し冷えたように、変わる。

「お願いします」

 今から、何をするのだろうか?そんな、疑問にかられる。

「君に、今から五つの課題を、与える」

 師匠が、杖を虚空から取り出し、地面に着く。五つの、泡が現れ何かを映し出している。

「まず、一つ、基礎魔法。その全てを極めること。二つ、属性魔法。過酷な環境に、身を置き、極めろ。

 三つ、魔眼。それを、完璧に知り、完全にコントロールしろ。

 四つ、属魔法。自らを、極め続けろ。以上」

 四つの、泡に、イメージ像が映し出されているが、1つだけ、何も映ってない。

「5つ目は?」

「それは、今挙げた四つの課題を、全て達成できたら」

 泡が、弾ける。師匠が、杖をクルクルと、回して構える。その構えは、今から戦闘でもするかのように、見える。

「さ、構えて」

「えっ」

 突然そう言われ、動揺してしまう。師匠は、さも当然かのように、こちらを見つめている。師匠が、首を傾げて、疑問そうな顔をしている。杖の、先端をくいっくいっ、と動かしている。構えろ、という無言の圧が、凄い。

「いや、いきなり……言われても、……」

「いいから、早く、………さぁ」

「わ…かりました……」

「そう、いい子だ」

 杖を、取り出し構え、手が、震える。目の前から、放たれる、得も言えぬ緊張感。それもそうだろう、今までの、彼女とは纏う雰囲気が、違いすぎるのだ。違いすぎて、別の何かに、見える。

「………かかってきなさい」

「では、……い、いかます」

 足に、力を込め、駆ける。魔力を、集め、攻撃を……。

 その瞬間、最後に見えた、彼女の顔は、無機質で、無感情で、鉄のようだった。


 ☆


「うーん、やりすぎたかな」

 私は、そう反省する。少々、大人げなさすぎたかもしれない。何せ、たった一撃で沈めてしまったからだ。だが、これで分かった事が1つだけある。

(この子が、何故あれ程の才を、持ちながら、ここまで弱いのか…)

 その理由は、恐らく、………彼の才を、花開かせないため、わざと弱く仕立て上げらていた。それで、何の得を、得るのかまでは、分からないが。

(まぁ、そんな事どうでもいい。私が、全てを強くする)

 彼の傍に、近付き、しゃがみ込む。回復魔法を、かけようとする。………その前に、ほっぺをぷにぷにして、堪能しよう。うん、そうしよう。


 ☆


「う、うーん」

 意識が、覚醒する。目が、眩しい。眩しいが、それでも開ける。写り込んできたのは、覗き込む師匠の、顔だった。ちらっと、横を向くと、純白のショーツが、目に入った。すぐさま、顔の向きを、直すが、その動作をしたのが不味かった。

「ねぇ〜、今……見たでしょ〜」

「み、見てません//」

「えぇ~ウソだぁ~」

「ほ、本当に、し、白のショーツなん…か……あ」

 師匠の顔が、にやついて、いるのが分かる。

「へぇ~、ふぅ~ん、……どう、似合ってた」

「な、なんで、そんなこと、い、言えるわけが」

「それ、もう言ってるも、同然じゃない」

 ふふっ、とはにかんで、笑う顔が可愛い。 

 起き上がり、膝をつく。

「そんなことより、修行の方は……」

 いつの間にか、彼女の雰囲気も、和らいでおり、あの時の、緊張感はなくなっている。

「ん?今のが、今日の修行だよ。私という、最強を知ること、その実力を、実際に体験することで目指すべきところが、分かると思ったから。明日からは、さっき言った五つの、課題それを中心に、やってもらうよ」

「分かりました、…明日も宜しくお願いします」

「え?何言ってるの?まだ終わりじゃないよ」

 完全に、終わった流れかと思っていた。

「だって、きみ〜さっきは一瞬で、のびてあまりよく、分からなかったでしょ。だから、何度も、何度も今日は、叩き込んであげる」

 顔が、……怖い。笑顔が、笑ってない。言葉が、可笑しいが、本当にそう表現するしかない。

 師匠が、杖を握る。また、緊張感が、漂う。

「ほら、立ち上がって、やるよ」

 恐怖が、押し寄せてきた。


 このあと、繰り返し、何度もやられた。

 そのおかげで、分かった事が1つあった。

 それは、彼女が紛れもない、最強と言うに、相応しい魔法使いということだ。

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