第3話 お天気占い

 学校の最寄駅とは反対方向にある川の近くは人通りが少なく時折車が通る。


「ここなら誰かに見られる心配はなさそうね。この前の誤解は解けたはずだけどたまにわたし達のことをニヤニヤしながら見てる時があるから要注意ね」


「だって変な誤解をされたら迷惑でしょ? 占いの練習をしてるだけなのに恋人だと思われるなんて」


「だから今日はこの河川敷まで来たってわけ。それに今日の占いはすぐに結果が出るから練習にぴったり」


「靴を飛ばして明日の天気を占うよ。子供でもできるからこそ真の占い力が試さるってわけ」


「靴底が下なら晴、上なら雨で横になったら曇りってやつ」


「ちなみにスマホで天気予報を確認するのは禁止ね。狙い通りに靴を着地させるのは難しいけど意志が入ったらそれは占いじゃないから」


 ゴロゴロゴロ……


 遠くの方で雷が鳴っている。この辺りはまだ晴れているが北の方には黒い雲が見える。


「あくまでも明日の天気だから。これから雨が降るとかは関係ない」


「そじゃあわたしから。あ~したてんきにな~れ」


 くるくると回転しながらローファーが宙を舞う。


「へへ。どう? 靴飛ばすのうまくない? オリンピックがあったら金メダル間違いなしの芸術点の高さだね」


 コツッ


「着地も完璧! 明日はきっと晴れる。間違いない。っとと」


「ご、ごめん。ずっと片足立ちだったから。あの……このまま靴のところまで連れていって。石がごろごろしててここに足を着くのはちょっと……」


「あぁ、速い速い。こっちは片足でぴょんぴょんしてるの! もっとゆっくり。お願い」


「ちゃんとわたしの体を支えて。こっちが掴まるだけじゃ不安定なの。肩! 肩を抱いてくれると安定する」


「そうそう。これからお天気占いをやる時はアシスタントよろしくね。いくら科学が発展してもゲリラ豪雨の予測は難しいじゃない? やっぱり最後は占いの力が必要になると思うんだよね」


「わっ! ご、ごめん。足場が悪くて。人目に付かないところは良いけどこの占いには向いてなかったね。また一つ成長してしまった」


「確実に占い師としてレベルアップしてるのを感じるよ。ありがと」


「よし。じゃあ攻守交代ね。わたしの晴れ予想に対してどんな結果が出るかな。お手並み拝見といこうとじゃない」


「ほらほら早く。なんか雨降りそうだし」


 ミサイルのように真っすぐと飛んでいったローファーは地面にぶつかると逆さまになった。


「ほ~ん、雨予報ね。同じ結果だったら勝負にならないからね。さすが、わかってる~」


「で、どうする? 肩貸そうか?」


「ふふん。素直でよろしい。けど、試しに一人でぴょんぴょんしてみよう!」


「この悪い足場を片足で歩くことができればどんな困難にも立ち向かえる。そうは思わないかい?」


「ふははは。こっちは両脚で歩けるも~ん」


「どうしたの? 靴を取りに行かなくていいの?」


「わわっ! あぶなっ! ごめんて。いくらソックスが紺色でも汚れたら困るよね。って……体重掛け過ぎじゃない? このままじゃ二人とも倒れるから!」


「もう。さすがに石のところに倒れたらケガじゃすまないって。勝負はあくまでも占い結果で付けよう」


「え? バチが当たるって? 当たるのはバチじゃなくて占い。どやぁ」


「その冷たい視線やめてって。そうそう、バチはないけど罰はあるよ。占いが外れた方はのりたま占いをやります。大変だよのりたま占い」


「どんな占いかって? それはやる時のお楽しみ。やる気満々ってことは早くも負けを認めてるのかな? そうだよね。だってわたしと違う結果が出てるんだもん。自信をなくすよね」


「せめてもの慈悲としてたまじゃなくてのりでやらせてあげるから。わたしの優しさに感謝する時がきっとくるよ」


「よし。靴も履けたことだし帰ろうか。久し振りに誰かとお天気占いできて楽しかったよ」


「あ。今なんかポツっと」


「わあああ!! 急に降ってきた」


「ひとまず橋の下に逃げよう! ひゃあああ」


 ざああああああああああ


 ものすごい勢いで雨が降る。橋の下にいれば直接雨に当たることはないが風で飛ばされた霧のようなものが体を濡らす。


「こういうのってすぐ止むよね?」


「学校に戻るまでの途中で降られるよりかは良かった……かな」


「そういう意味では幸運よね。うん。靴を取りに行く時に煽ったのはこの瞬間のためだったのだ。わはは」


「ち・な・み・に。何度も言うけど勝負は明日の天気だから。きっとこの雨が止んだらすごく良い天気になってそのまま晴れるに決まってるから!」


「……全然止む気配ないね。つまり、わたしの出番。また肩貸して」


「どれくらいで止むのか占うから。そうだなぁ……靴の先が真っすぐ向いてたらすぐ止む。それを基準に靴先の角度で何分で止むか占うよ」


「あんまり遠くへ飛ばないように力を抜いて……せーっの!」


 ぼとっ


 一回転だけしたローファーは空気が湿っているせいか鈍い音と共に着地した。


「う~ん。真っすぐ右を向いてるから十五分後くらいかな」


「片足を上げたままなのは辛いけど……支えがあるから大丈夫だよね。決めた。自分の占いに責任を持つために雨が止むまでこのままでいる」


「十五分くらいなら平気だよ。ちゃんと掴まるところもあるし」


「ずっと止まなかったら? わたしと一緒にいられてラッキー……みたいな?」


「あ……」


「急に止んだね。う~ん。十分どころか五分も経ってない気が……」


「ほ、ほら。これは勝負とかじゃなくて暇つぶしの占いだから。早く止むに越したことはないというか。勝負はあくまでも明日だから!」


「靴も履いたことだし帰ろうか。うん。帰ろう。なんか蒸し暑いね。これは明日晴れるに違いない」


「今日も付き合ってくれてありがとね」


 

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