第2話 手相を見せて

 ガガガガガガ


 二つの机をくっつけて向かい合って話ができる状態にした。


「今日は手相占いをするよ」


「この本? そりゃあわたしは修行中の身だもん。本を確認しながら占うに決まってるじゃん」


「だったら自分で見る? ダメダメ。自分の手相を見たら良い風に解釈しちゃうでしょ。あとでわたしの手相を見てよ。お互いに練習するライバルだからね」


「ま、わたしの方が当たっちゃうかな。なんたって何人か手相を見てるから」


「当たってるかどうかはいいの。手相を見慣れているかどうかが大事。だんだんと練度が上がるから今日はうまくいく気がする。テレビの星座占いは10位だったけど、あんなの昨日はたまたま当たっただけで今日は外れるに決まってるから。むしろ1位の気分ね」


「ほら、手を出して……手の甲を出すのはボケてるの? 全然おもしろくないからわたし以外の人にやらない方がいいわよ」


「もしかして手相に自信がない? 大丈夫。手相は想い次第で良くなるから。若い時に悪い部分を知れば改善もしやすいよ」


「ほんとほんと。病気でもう長くないってお医者さんに言われた娘の手のひらをナイフで切って生命線を伸ばしたら元気になったっていう話もあるくらいなんだから」


「この本に書いてあったよ。ほらここ。でも絶対にマネしないでくださいって。そりゃ手を切ったら危ないよね」


「極端な例ではあるけど手相は変えられるってこと。だからほら、恥ずかしがらずに手相を見せて」


「右手を差し出すとはわかってるね。右手は後天的な運気を表すからこっちで見るのがいいんだって。これからの生き方で変わる方でもあるからね」


「う~~~ん。濃いとか薄いってなにが基準なんだろ。わたしのと比べて……同じくらい? 線はくっきりしてるから濃いのかな」


「あの……雰囲気を出すために机をくっつけたわけですが、ひとつよろしいでしょうか」


「この本に書いてある手相さ、自分の視点で見てるんだよね。この位置だと逆になってるからすごくわかりにくくて、そういえば友達の手相を見た時は後ろから見てたわ。あははは」


「と、いうわけで」


「動かすのはイスだけでよかったね。うん。やっぱり隣に座ってる方が見やすい」


ふむふむ。やっぱこっちからじゃないと無理だわ。反対側から見るのは今後の課題ね。伸びしろを見つけてしまった」


「わっ! 生命線ながっ! 綺麗な線だし一生健康間違いなし! なのはいいんだけど、これじゃあ当たってるかどうか判断するのに何十年もかかっちゃう」


「えーっと次は頭脳線。……頭脳線も長くない? 物事を深く考えるタイプだって。たしかに占いの練習するのも即決してくれなかったよね。じっくり考えるのも良いけどチャンスを逃しちゃうよ。なんか今の占い師っぽくない? ぽいっていうか占い師なんだけどさ」


「さて、次は結婚線を見ちゃおうかな。結婚願望はなさそうな顔をしてるけど右手の手相には現れちゃうよ。興味ないふりをして実は恋多き男だったり」


「んん? 一本か~。一途な恋をして結婚するんだね。もっとよく見せてよ。手貸して」


「この線の位置だと三十歳くらいの時に結婚するのかな。上向きの線だから幸せな結婚になるみたいよ。でもこれも答えがわかるのはすごい先だね。十八で結婚とかだったらおもしろかったのに」


「あ……ごめん。めっちゃ手触ってたね。結婚観を知れてちょっと興奮しちゃった。こういうのは占い師としてよくないよね。これも伸びしろ伸びしろ」


「さ、選手交代。今度はわたしの手相を見てよ。はい!」


「ダーメ。自分では絶対に見ない。占い師は自分を占えないの。それができたら運が良い日に宝くじを買ってみんな仕事を辞めてるよ」


「当たらないからじゃないです。お金よりも人の幸せを願って占ってるだけですー」


「そういうイジワルなことを言ってると唯一の結婚のチャンスを逃しちゃうかもよ? ちょっと右手見せて。あぁ……結婚線が薄くなってる気がする」


「はい。本を貸してあげるから。まあ、ちょっとは自分の手相を見ちゃってるんだけどね……」


「頭脳線が短いのはわかってるの! だからこうやって今は占いの勉強をしてるじゃん。きっとこれから伸びるから」


「それよりも結婚線はどう? 客観的に見て。何本かあったりしない?」


「一本しかない? もっとよーーーく! わたしの手を凝視して。そんな距離じゃちゃんと見れないでしょ? ほら、この手を!」


「うぅ……やっぱり一本しかないか……。この本に書いてる位置を参考にすると年齢はどれくらいになる?」


「三十歳……だよねぇ。理想としては二十代なんだけど、もうちょっと早くならないかなぁ。これって相手が悪いのかな? わたしは二十代での結婚に向けて努力しているのに、相手が三十歳まで待ってって言ってるパターンじゃないかな。その可能性も捨てきれないよね?」


「運命は変えられるもん。相手にも頑張ってもらえば結婚が早まるかもしれないし。やっぱり手相は人に見てもらう方がいい。ありがと」


「お礼に左手の手相も見てあげる。こっちは先天的な運勢を表すんだって。まあまあ遠慮せず。手を出して。恥ずかしがるものでもないでしょ」


「……え? これって……」


「すごい! ますかけ線だ! すごい幸運の持ち主だよ。へぇ、実在するんだ。何人か手相を見てきたけど初めてだ。すごいすごい! ご利益がありそうだから手揉ませて。ありがたやありがたや」


「っていうか手あったかいね。わたしが冷たいのかな。このぬくもりからしてますかけ線のパワーを感じる。やっぱり今日も運がいい。テレビの星座占いは外れたね。ふふ」


 誰もいなかった教室にクラスメイトが戻ってくる。


「違うのこれは付き合ってもらってただけで。手相占いの練習に! わたし達はそういう関係じゃないから! ますかけ線! ますかけ線のご利益にあやかってただけだから!」

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