みらいよめ

くにすらのに

第1話 猫に好かれる人

「あの、ちょっといいかな」


「こんな風にお話しするの初めてだね。同じクラスなのに」


「実はわたし、占い師でして」


「そう。占いが趣味なんじゃなくて占い師」


 カバンの中をガサゴソとあさるとだいぶ前のプリントや壊れたストラップなどが出て来る。


「ほら、水晶を持ち歩いてるでしょ。完全に趣味の域を超えてる」


「その目は信じてないな? では自己紹介がてら占ってあげよう。っていうか、他のクラスの子も占ってるのに知らないの? 隣の席だよね? まさにこの場所で占ってるんですけど?」


「なるほど。占いなんて信じてないって感じですか。たしかに的中率は100%じゃない。むしろ、外れることに意味があるとわたしは考えてるんだな」


「言い訳? 違う違う。例えばさ、一週間以内に交通事故に遭いますって言われたらどうする? 車に気を付けるでしょ? これで一週間無事に過ごせました。占いが外れてよかったね。めでたしめでたし」


「だ・か・ら! 悪いを未来を知ることで運命を変えることができるんだって」


「良い占いは当たらないのかって? そのチャンスを掴むのも自分次第ってわけさ。ドヤァ」


 ガタッ……


「ま、待って! ごめんなさい。本当は的中率がイマイチなんです。みんな素人のやる占いだからって真剣に受け止めないだけなんです!」


「だから、その……占いの練習相手になってほしくて」


「選ばれた理由? 部活に入ってなくて暇そうだから……」


 ガタッ……


「うそうそ! ウソでもないんだけど……すごく猫に好かれてるよね? たまたま見かけたんだ。猫に囲まれてるところ。きっと魔法的な力を秘めてるに違いないって思ったね」


「怪しい勧誘じゃないから! 魔女って猫を飼ってるイメージない? だから猫に好かれる人は魔術や占いの才能がある。この理論を証明するためにわたしと付き合ってほしいの」


「付き合ってほしいってそういう意味じゃないからね! 練習に付き合ってほしい。さっきまで疑いの目を向けてたのに顔を赤くしないでよ。こっちまで恥ずかしくなる」


「わたしが占って、その結果通りになるかを観察する。隣の席だし通学路も途中まで一緒だからものすごく都合が良いってわけ」


「練習に付き合うメリット? わたしと過ごせる……とか?」


 ガタッ……


「黙って帰ろうとするのやめて! 明日から気まずくなる。いいでしょ? 時間は取らせないから。占いって一回で何千円もするんだよ? それを毎日無料で受けられるってすごくお得じゃない?」


「テレビで無料の占いをやってる? でもほら、どこの馬の骨ともわからない人より隣の席の子の方が安心でしょ。生産者の顔が見えるってやつ」


「それに逃げられないよ。帰る方向は一緒だし明日も学校に来るし。ね? お願い。いいでしょ? わたしの占いが当たるようになって有名になったら一番弟子ってことにしてあげるから」


「そう。弟子。猫に好かれてるからきっと才能はあるんだし……あっ! もしかして練習台になるんじゃなくて一緒に練習したかったとか? それならそうと早く言ってよ。お互いに占い合ってどっちが当たってるか勝負する。いいじゃんいいじゃん。やっぱり成長にはライバルが必要だよね。わかってるー」


「照れるな照れるな。全てを理解した。有名な占い師さんには男性も多いけど、やっぱり占いって女の子の楽しみって感じだもんね。安心して。わたしは理解者だから」


 ガタッ……


「おっ! やる気だね。って、どこ行く。水晶占いしなくていいの? 外で練習というのもなくはないけど」


 カツカツカツカツ

 廊下に二人の足音が響く。


「あの猫たちとはよく戯れてるの? 名前とか付けてたり?」


「そうなんだ。野良にあんなに懐かれるなんてすごいよ。猫カフェに行ったら他のお客さんに嫉妬されちゃうかも」


「あー、でもちょっと悔しいかも。今日のテレビの占いでね、てんびん座が1位だったんだけど、あ、わたしてんねん座ね。そのラッキーパーソンが猫に好かれる人だったの。どこの誰だかわからない人の占いが当たったのは複雑な気分」


「え? だって猫に好かれる人と一緒に占いの練習ができるようになったじゃん。さすがに1位を叩き出したことだけのことはあるね。これが8位とかだったらうまくいってなかった」


「やっぱり占いは楽しい。良い結果が当たれば嬉しいし、悪い結果は外れたら嬉しい。もし当たってしまっても、心構えができてるからダメージは少ない」


「占いは未来を読んで自分で考えるための手段なの。全てを占いに委ねるんじゃない。運命を決めるのはあくまでも自分だって思ってる」


「だからさ、わたしと一緒に楽しい未来を作ろうよ」


「だから顔を赤くするなし! そういう意味じゃなくて一緒に占いを楽しもうって話だから」


「ところでさ、テレビの占いって見たりするの?」


「あ、一応チェックはするんだ。で、どうだったの。今日の結果は」


「12位だったんだ。そりゃ災難だったね。ラッキーパーソンは強引な人。うわぁ、最下位な上に強引な人に振り回されるとか最悪じゃん。でも、今日が12位なら明日とかきっと順位が上がるから。ね? 元気出しなって」


「なによその顔」


 にゃあ~ん


 どこからか猫の鳴き声が聞こえた。

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