第10話 質問と答え

「う〜ん…」

 

 かつてない程に俺は今、頭を悩ませている。

その理由は、橋本さんに彼氏がいるかどうかということだ。

 もちろん俺は男子高校生で、そろそろ彼女が欲しいというリア充なる者への憧れがあるわけで。そこでふと思ったのだが、橋本さんって彼氏いるのかな…?男子からの人気もあるし、やっぱり俺は朝の暇つぶしでしかないのかな…?


「どうしたんですか?橘くんが朝から悩み事なんていつも以上に変ですよ?」

「それって俺がいつも変ってこと…?」

「ふふふっ、そういうことになっちゃいますね」


 相変わらず笑い方が上品だ…けど、言っていることが失礼だという事実に変わりはない。

 ただ、一人であれこれ考えるより直接聞いた方が早いよなぁ…。


「…あのさ、橋本さんって彼氏いる?」


 俺の質問を聞いた彼女は、目を丸くして暫く固まった後、すぐに笑い出した。


「そんなことをずっと考えてたんですか…っ?ふふふ、おかしい人ですね」


 結構勇気出したんだからそんなにも笑わなくていいじゃん!


「だって橋本さんって人気あるし、やっぱり彼氏の一人や二人くらいいるのかなーって…」

「私に彼氏なんていませんよ」

「じゃあ好きな人は…?」

「そうですねぇ…そういうことを聞く場合はまず自分から言うべきですよ」


 にへらと笑う彼女だが、そんな笑顔を見せるのはズルいと思う…。


「俺は…べつに…」

「それなら私もナイショです。でも、一つだけ教えてあげます」


 そう言って彼女は俺の耳元で囁く。


「私は好きですよ、橘くん——」

「ふぇっ…⁉︎」

「——と二人で過ごす時間が。早くしないとバス出ちゃいますよ」


 心臓が口から飛び出るかと思った。

手で押さえても、未だに耳元で優しく囁かれているような感覚が消えてくれない。

 そうやって動揺している俺をバスの運転手が急かす。


「乗らないんですか?」

「ご、ごめんなさいっ!乗ります!」


 ・ ・ ・


 慌ててバスに乗り込む彼を見て私はどうしても微笑まずにはいられなかった。

 初めてこのバス停で会った時も初めて病院で私に話しかけてくれた時も、橘くんは橘くんで、私をいつも笑顔にしてくれる。

 いつか私を思い出してくれたらいいなぁ…。

 

「橘くん、また寝癖ついちゃってますよ」

「ええっ⁉︎今日はちゃんと見てきたのになぁ…。橋本さん、また直してくれませんか?」

「もちろんっ」

「あ、でも前みたいにハートは作らないでくださいよ?」

「あ、バレちゃってたんですか」

「あのあと学校で大変だったんですから…」


 当然のように私の隣に座ってくれる彼がいる日常。そんな時がいつまでも続けばいいと願ってしまうのは、強欲すぎるだろうか——。

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俺ときみの1日25分 TMK. @TMK_yoeee

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