第9話 窓とボタン
「お、おはようございます、橘くん」
「おはよう。一つ質問いいかな?どうしてそんなに目を逸らすの?」
なぜか俺が来た時から橋本さんは驚く程に顔を合わせようとしてくれない。
何か嫌われるような事したかな…?
「ね、寝違えてしまって…」
「それなら俺がこっちに座ったらちゃんと話せるね」
橋本さんの首の向いている方に座ろうとすると、今度は反対側に勢いよく彼女は首を曲げた。えっと…どういうこと?
「寝違えたんじゃなかったっけ?」
「首の曲げる方向を間違えていたのを思い出しまして…!」
「そんなことある…?」
「今ありました!」
「何か隠してるでしょ」
もう一度彼女の顔の向いている方に立つと、またまた勢いよく反対へ首を振られてしまった。う〜む、これは絶対何かあるな。そう思い、反復横跳びのように何度も立つ場所を変えるがその度に顔を背けてられてしまい、体力だけでなく精神の限界が訪れそうになった。
「ね、ねぇ、何かあるならちゃんと言ってよ、橋本さん…」
「…分かりました。驚かないで聞いてくださいね…」
ゴクリと喉を鳴らす。
「——ズボンのチャックが開いてます…」
「俺の…?」
ゆっくりと視線を落とすと、確かに彼女の言う通り、チャックが全開になってしまっていた。
「これはこの前のパンツのお返し…みたいな…?」
「そ、それは忘れてください…っ!」
「はい!失礼しました!」
慌てて背を向けてチャックを閉じ、大人しくベンチに座った。一言も言葉を交わさずにバスを待つのはいつぶりだろうか…。そして、これは指摘するべきなのだろうか。
——橋本さん、ブラウスのボタンがずれて下着がちょっっと見えちゃってます‼︎今日は黒なんですね‼︎
ちゃんと教えた方がいいのかな?でもそんなこと言って軽蔑されたら嫌だし、俺は何を見せてあげたらお返しになるんだ?この前のパンツは今日のパンツで等価交換として許されたけども俺はブラジャーを付けてないから交換できるものがない…。つまり言わない方が良い?いや、それだと橋本さんが学校に着いたときに辱めにあってしまう。もし近くの席の男子たちがそれで彼女を襲ってしまったら、原因は俺…。よし、ちゃんと真実を伝えよう…!
震える手をなんとか動かし、彼女の胸元を指差した。
「あの…橋本さん、ボタンがずれて…見えてるんだけど…」
案の定、彼女は一気に顔を紅潮させて胸元を隠した。
「教えてくれるのはありがたいですが、そんなにガン見しないでください…っ!」
「ご、ごめん!俺も服脱いだらいい⁉︎」
「いりません‼︎」
少し嫌われたかもしれないが、彼女を魔の手から救えたと思えば気は楽だ——。
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