第8話 丸刈りと大胆

「はぁ…」

「朝からため息なんてどうしたんですか?」


 心配そうに橋本さんは首をかしげる。


「授業で自分の幼い頃の写真を持ってこいって言われて…」

「持ってきたんですか?」

「うん…」

「見せてください!」


 目を輝かせながら彼女は俺の手を握ってきた。これまでにない程の食いつきようで、俺は断りきれずに写真の入った封筒を渡してしまった。


「丸刈りの橘くんも可愛いですね」

「だから見せたくなかったのに…」

「いいじゃないですか、野球少年」

「そうかな…?」


 あれ、俺が野球してたって話したっけな?

 彼女は楽しそうに次々と写真をめくっていく。その度に可愛いですねとか、やんちゃだったんですねとか感想を言ってくるのが余計に恥ずかしさを増させる。

 しかし、暫くすると写真をめくる手をピタリと止めた。


「…こ、この写真は大胆すぎるのではないでしょうか…?」


 覗いてみると、ビニールプールの中で全裸で仁王立ちしている幼き日の俺の写真があった。

 慌ててそれを手で隠すも手遅れだったようで、彼女は顔を真っ赤にしながら固まっていた。


「えっと、見なかったことにしてください…」

「…そ、そうですね、忘れますね」


 そっとその写真を自分のポケットの中にしまい込んで握り潰した。

 すると再び橋本さんは口を開けた。


「この写真は…?」


 渡されたものを見てみると、そこには懐かしい二人の姿があった。黒髪の小さな女の子と俺の写真。


「それは母さんが出産のときにいた病院で俺が仲良くなった女の子かな。あんまり覚えてないんだけどね…」

「とても、仲が良かったんですね」

「そうかな…?俺が一方的に絡みに行ってただけだし…」

「そうですよ。だってこの女の子、こんなにも幸せそうに笑っているんですから」


 そう言って寂しげな表情を浮かべて写真を撫でる彼女の姿は、俺の脳裏から離れそうにないだろう。

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