第6話 雨降りと冗談

 空を見上げるとそこは薄暗く、ザーザーと冷たい雨が地面を叩く。

 そんな中、もちろん俺は傘をさして登校しているわけだが、それでも雨粒の全てを防げるというわけではなかった。

 

「バス停で拭かないとな…」


 今日は寝坊せず、いつもより早く目が覚めたためのんびりと登校できる。


「ハックション!」


 雨はあんまり好きじゃないんだよな…。

 いつもなら塀の上で喧嘩をしているはずの猫たちも、今日は流石にお休みらしい。



「橋本さん、おはよ。どうしたの?」


 なんだか落ち着きがない様子の彼女が気になり声をかけてみた。


「ハンカチを忘れちゃって…。その、スカートなので脚が濡れて…」

「俺の貸そうか?」

「…それじゃあ橘くんから先に拭いてください。私はそのあとでお借りしていいですか?」

「俺は全っ然気にしないから先に拭いて」

「えっと、じゃあお言葉に甘えて……」


 そっと俺の手からハンカチを取り、自分の脚を拭いていく。膝から足首まで這わせるようにゆっくりと拭いていく。そして何かを感じとったのか、チラリと俺のほうを向いた。


「どうかしました?」

「あっ、いやっ別に!なにも!」


 慌てて顔をそらすと、彼女はニヤリとした。


「もしかして、私の脚に見惚れちゃってたんですかー?橘くんって案外、スケベさんなんですねー」

「そんなんじゃないって!」


 必死に弁解しようとすると、突然彼女は笑い出して俺に言う。


「ふふふ、冗談ですよ。橘くんがそんな人じゃないってことくらい分かってますから」

「冗談キツいって…」

「ごめんなさい。少しからかいたくなっちゃって。はい、ハンカチありがとうござました」


 笑いをこらえながら、返してくれたハンカチは思ってた以上にそれは濡れていたが、俺は気にすることなく受け取り、自分の制服を拭き始めた。

 ごめん、実は脚みて興奮してました…!なんて口が裂けても言うことはないだろう。

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