第7話 偶然とツーショット

「あっ…」


 時が止まったかのように感じた。

まさか登校中にこの道で彼女に会うなんて思ってもみなかった。


「橘くん、おはようございます」

「おはよ。橋本さんもこっちの道から来てたんだ」

「はい。私の家はすぐそこなので」

「いつもは先に着いてるのに、今日は寝坊?」

「実は…。昨日携帯をスマートフォンに変えてもらったんですが、使い方が分からず目覚ましをかけれなくて…」


 なるほど。なんでも完璧にこなしそうな彼女だが、機械オンチな一面もあったのか。


「使い方、教えようか?」

「いいんですか⁉︎」

「俺も一応スマホだし」

「ありがとうございます!それじゃあ…えっと…」


 彼女は明らかに電源を入れるところで手間取っている様子だった。スマホのいろいろな部分を触ってやっと電源を入れられたが、今度はロックの解除に手間取っていた。

 まさかここまでの機械オンチとは…。


「ロックの解除は——」


 そう言って彼女のスマホを覗き込むと同時に、パシャリという音がした。橋本さんの方を向くと、彼女は突然の出来事にもの凄く動揺しているようだった。


「今のはなんなんでしょうか…?」

「間違えて写真撮ったんだね…。貸してみて」


 彼女からスマホを受け取り、写真フォルダを開けてみると、そこには俺と橋本さんのツーショットがあった。


「初めてにしては上手だね」


 意地悪な口調でそう言ってみると、彼女はとても嬉しそうに微笑んだ。


「はい、とっても良い写真です!これ、残しておいてもいいですか?」

「う、うん、いいよ」


 そうしていると、いつの間にかもうバス停の目の前まで来ていた。すると、橋本さんは『あっ!』となにか大切な事を思い出したかのように声を上げた。


「橘くんはLIMEやってますか?」

「うん、やってるけど——」

「よければ…私とお友達になってくれませんか…?」

「ぜ…っ、是非!」

「でも友達追加の方法が分からなくて…」

「俺がするから貸して」


 俺は手を出して、スマホを渡すように促す。

ベンチに腰を下ろして橋本さんのLIMEを追加すると、プロフィールの画像も変更されていない、いかにも初心者だというようなアカウントが出てきた。


「ほら、追加したよ」

「ありがとうございます!」


 目を輝かせながら彼女は画面をじっと眺めた。


「私も橘くんみたいに何か写真を設定したいです!」

「それなら自分の好きな画像を選べばいいよ」

「自分の好きなとのですか…。分かりました、家で設定してみます!」


 スマホを鞄に入れて彼女は立ち上がり、目の前の信号で足止めをくらっているバスを見て言う。


「最近、バス来るの早いですね」

「そうかな?」


 そうは言いつつも、俺も彼女と同じだった。

到着時間はいつもと同じだが、そう感じてしまうのはなぜだろうか——。

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