【掌編】一生一緒にいてくれや【700文字以内】

音雪香林

第1話 一生一緒にいてくれや。

 河津桜祭りに来たけど、全然咲いてない。

 旅行のメインだったのに。

 俺はともかく、楽しみにしていた彼女に悪いなと謝ろうとしたけど。


「あっ、地域限定のソフトクリームだって!」


 彼女がニコニコと俺の手を引いてソフトクリーム売り場に行く。


「あなたも食べるでしょう?」


 問われて思わず頷くと、少し待った後ピンク色のソフトクリームが俺と彼女の手に握られていた。


「美味し~!」


 彼女は歩きながら「後であそこのたこ焼きと、わたあめも食べたいな!」と出店を物色する。

 俺は戸惑いながら。


「あの……ごめんな。全然花が咲いてなくて」


 と、今後こそ謝る。だが。


「ん? まったく咲いてないわけじゃないじゃない。三分咲きくらいかな。それに出店も楽しいし、川も澄んでて景色がいいよ。来てよかった! あとで一緒に写真撮ろう!」


 言葉と共に向けられたその笑顔は、けっして空元気とかではなく、本当に楽しんでいるようで。


「俺、君のそういうとこ好きだな」


 ポロっとそんな本音が漏れてしまう。

 彼女は目を見開いて驚いたあと、顔を真っ赤にして「反則」とつぶやいた。


 照れているらしい。

 可愛いな。


「俺も来てよかったよ」


 可愛い君が見られたしね。


 俺たちはその後も出店で買い食いしたり、三分咲きの河津桜の写真を撮ったり、旅行を満喫したのだった。


 本当に、旅行というのは「どこに行くか」より「誰と行くか」が大事だなと実感する。


 彼女とならどこに行っても楽しめそうだ。


 一生一緒にいるのは彼女が良いな、と「結婚」の二文字が脳裏に浮かぶのだった。




 おわり

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