第7話 幼馴染の飯田さん
夕日がオレンジ色に照らす帰り道。今日も僕たちは二人で帰宅していた。
「——あのね、私はヒデくんと席が近くて嬉しかったんだよ?」
「それは僕も一緒だよ!だって宿題忘れてもすぐに香帆里のを写せるし、先生に当てられても答え教えてくれるから!」
「ヒデくんのバカ。どアホ、マヌケ、あんぽんたん、鈍感……スケベ」
耳まで赤く染めながら小声で『スケベ』と呟いた後、彼女は両手で顔を押さえた。
「…あのさ、香帆里。僕スケベって言われるようなこと何かしたっけ…?」
しばらく返事は返ってこず、まずいことを言ってしまったのかもしれないと自覚しだした頃に彼女は再び口を開いた。
「……えっち大魔神」
「だからどうしてそうなるの!?」
「知らない!自分の胸に手をあてて考えてください!」
そうやって顔を背ける香帆里を見て困惑しながらも、言われた通りにすることにしてみると、ふとカフェでのことが頭をよぎった。
「そういえば、香帆里の胸柔らかかったな…」
「ヒデくん、それは一回忘れようか。この辞書で頭を殴れば記憶はなくなるかな?」
「いやややや!!それは他の大切な記憶もなくなっちゃう!びっくりするくらいバカになっちゃうからやめて!」
この人ガチだ!目が本気だ!
「ヒデくんの頭の中になくなっちゃいけないような大切な記憶なんてないでしょ?フフフフ」
「待って、それはあるよ。誰になんと言われようと失いたくないような大切な記憶——香帆里との思い出が」
肩を強く掴んでそう言うと、彼女は手に持っていた辞書を地面に落とした。
「ヒデくん、そんなこと思ってくれていたのね…」
「もちろん。だって僕は香帆里のことが——!」
「ねぇねぇ、仲良しさんのとこ申し訳ないんだけどさ、お嬢さんこれから俺たちとイイコトしない?」
僕の言葉を遮るように現れたのは二人の大男だった。これがナンパってやつか。
それにしても二人とも両サイドを刈ったトサカヘッドに袖なしの革ジャケットっていつの時代だよ…。
「返事くれないのぉ?もしかして俺たちに見惚れちゃって出る言葉もないですかぁ?」
「いえ、私はあなた方と遊ぶつもりはありません」
「強がっちゃってさぁ、お兄さんたち結構カッケーだろぉ?」
「……ダッサ」
頭の先から足までじっと見渡してから香帆里は本音をこぼした。もちろんそれに対して男は顔を真っ赤にして憤怒し、彼女の腕を力強く掴んだ。
「この女、大人しく言うこと聞いてりゃよかったのになぁ!」
それを見て我慢出来ず、僕は男の腕を振り払った。
「やめていただけませんか?彼女も嫌がっているでしょう」
「あっれぇ?もしかしてキミはその子の彼氏だったりするぅ?」
威嚇するかのように顔を近づけてくるが、ここで怖気付いてはいけないと相手を睨み返してやった。
「僕はただの幼馴染で彼女とはそんな関係じゃない!そんな風になるなんて絶対にないし香帆里に失礼だ!」
「ヒデくん、こっち向いてくれる?」
あれ?なんだか背後から負のオーラというかヤバそうな気配を感じるんだが…。
「こっちがどれだけヒデくんのこと想ってるかいい加減気付けこのどアホがぁぁぁ!!」
突然拳が飛んできたと思えば、次の瞬間僕は宙に浮いていた。いつもより空が近く感じる。
「何年ヒデくんにアピールしてきたと思ってるのよ!頑張って好きって言って気づいてくれないのはどうして!?恥ずかしいの我慢していろいろしてるのになんで分かってくれないの!?私、ヒデくんのことがずっと好きだったのに!」
嬉しいはずなのに体が痛くてうまく笑えないというか、地面と向き合ってる時に言われても…。
「なのでお二人はお断りです。それに、ズボンのチャック開いてますよ。ふっ、いい歳して花柄…」
「くっ、くっそぉ!覚えてろ〜!」
こうして男たちは去ったが、僕が殴られる必要はあったのだろうか。
幼馴染の飯田さん。 TMK. @TMK_yoeee
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