あの日のカツ丼!

崔 梨遙(再)

1話完結:700字

 小学6年生の時、知人2人と少し離れた街の夏祭りに行った。歩いたら……片道30~40分かかったと思う。だが、人混みなので自転車は使えない。ひたすら歩いた記憶がある。着いたらしばらく出店を楽しんだ。


 帰り道、それは突然僕を襲った。強烈な便意だ。


「めっちゃ腹が痛い! トイレを探してくれ!」


知人も一緒に探してくれるが、住宅地だったのでトイレが無い! 民家の玄関チャイムを鳴らして、民家のトイレを借りようか? と思ったところで、今まさに暖簾をしまおうとしている大衆食堂を見つけた。


「すみません! トイレを貸してください!」


 トイレを借りて、僕は救われた。トイレから出ると、僕は店の夫婦(50~60代くらい)にお礼を言った。


「本当にありがとうございました。助かりました。本来なら、何かお礼をすべきところですが、何もお礼が出来なくて申し訳ありません」

「坊主、何年生や?」

「小学6年生です」

「その歳でそこまでキチンと礼を言えたらたいしたもんや、気に入った、ウチの自慢のカツ丼を食っていけ! 俺の奢りや!」

「いえいえ、嬉しいのですが外に知人を2人待たせていますので」

「ほな、その2人にもカツ丼を食わせてやるから中に入れろや」


 僕達はカツ丼をいただいた。礼儀が出来ていただけでカツ丼をご馳走になった。カツ丼を奢っていただいたことよりも何よりも、こういう下町の人情が心地よかった。僕は、“ああ、僕はこの街に住めて良かったなぁ”と思えた。些細なことだが、僕は“下町の人情物語”だと思ってこの話を書くことにしたのだ。



 カツ丼はめちゃくちゃ美味しかったが、既に腹を壊していた僕は更に2回トイレに行くことになった。







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あの日のカツ丼! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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