第4話 初めてのケイケン

『コーキ、今日の帰りちょっと付き合って欲しいところがあるんだけど!』


 そう言われたのはいいが、いったいどこへ行くつもりなのだろうか?今までこんな経験はしたことはないし、放課後デートというものの仕方も正直一切分かっていない。


「うぅん…。女の子だから買い物とか、流行りのカフェとかかな…?」


 校門前で待っていると、西条さんが走りながらこちらへ向かってきているのが見えた。

 一度教室に戻りたいから、校門で待っててほしいと言われたのだが、どうして一緒に居てはいけなかったのだろうか…不思議だ。


「ごめんねー、待たせちゃって。じゃ、早速行こっか」

「どこに行くつもりなの?」

「ふふっ、イ・イ・ト・コ・ロ」

「……っ⁉︎」


 めちゃくちゃアブナイ予感がする——‼︎

 彼女は人差し指を立てて僕の唇へ当ててきた。それ以上はなにも聞くな、ということなのだろうか。もしそうならば従うことにしよう。


・  ・  ・


「ここに来るの久しぶりだなぁ」


 しばらく歩き、学校の近くのショッピングモールへやって来た。

 相変わらず賑やかなところだ。

最後にここに来たのは一年以上前だろうか。


「あーし、初めてなんだよねー」

「初めてってなにが…?」


 西条さんはあんまりこういうところに来ることがないのかな…。結構意外だな。友達とよく来てそうなイメージがあるんだけれども…。


「んーと、その…カレシと放課後デート…」

「ん゛⁉︎」


 予測していなかった解答に驚いてしまった。

 経験豊富そうだと思ってたけれど、こういうことはしたことなかったんだ。

 少し嬉しいことを知れたような気がする。


「……っ、アンタはどうなのよ!」

「ぼっ、僕も初めてだよ!というか、今まで彼女なんて一回もできたこともないし!」

「——そっか、一緒だね」


 恥ずかしそうに頬を赤くしながらも、彼女は微笑みをみせた。

 ダメだ……。本当に可愛すぎる——ッ‼︎


「可愛すぎてエスカレーターから落ちそう…」

「えぇっ⁉︎なに変なこと言ってんの!しかも、急に可愛いとか言うなしっ‼︎」


 あぁ、僕は本当に幸せだ。

このまま死んでも構わないかもしれない——。


「ちょっとコーキってば!なんでそんな仏みたいな顔してんの⁉︎」

「ごめん、西条さん…。首がもげそうだからそんなに激しく揺らさないで…」

「あっ、ゴメン!」


 僕と西条さんがこんな関係になっているだなんて、誰も思ってないだろうな……。

ほかの男子たちに恨まれたくないから、バレないようにしないと!


「…なんで先からカバンで顔隠してんのよ」

「自分の身を守らないと…!」

「ふぅ〜ん、じゃあ、あーしも守ってよ」

「うわぁ!」


 絶対領域に西条さんが入ってきてしまった。


「こ、こんなところ誰かに見られたら…っ!」


 あなたのファンが僕になにしてくるか分からないですよ!というか、顔が近すぎて吐息が頬に当たってます…!

 動揺している僕とは違って、何故か彼女は満足げな表情を浮かべていた。


「——コーキのえっち」

「え…。えぇぇぇぇ⁉︎」


 僕なにかしちゃったか⁉︎

いや、でも胸も見てないし……。

あぁぁぁ!もうなにも分からんっ‼︎

 彼女は、混乱する僕の頬をつつき、言う。


「ちょっとコーフンしてたでしょ」

「…べっ、べつにそんなことしてないよ!」


 動揺はしたけれども、興奮なんていていないからね!これは本当だよ!どちらかというと、緊張のほうが大きかったし!

 誤解されたままではいけないと思い、慌てて弁明し始めた。


「……あれ、どうしたの西条さん」


 なにか悪いことでも言ったかな…?

 理由は分からないが、彼女は顔を背けて身体を少し震わせていた。

 これって、本気で怒ってるんじゃ…。


「…そう。ドキドキしてたのは、あーしだけだったんだ」

「ん?なんて言ったの?」

「なにも言ってないですー!ほら、行きたいとこあるからついて来て!」


 そう言って彼女は僕の腕を引っ張った。

 今日の西条さんはいつも以上に分からないなぁ…。ま、なんでもいいか。



 腕を引かれながら連れてこられたのは、何の変哲もないゲームセンターだった。

子どもたちが楽しそうに遊んでいる。

 お、でもやっぱり高校生もいるんだな。

ということは、同じ学校の人もいるかもしれないから、顔はちゃんと隠しておかないと…。


「だから、なにやってんのよアンタ…。恥ずかしいからやめてよ」

「…はい」


 そうだな。僕は西条さんと付き合っているんだ。ちゃんと堂々としておかないと、彼女にも悪いよね!


「でも、どうしてここなの?」

「…友達に聞いたらさ、カップルはこういうところに来るって言われて、あーしもコーキと遊びたかったから…。もしかして迷惑だった?」

「そんなことないよ!僕も、西条さんと遊べて嬉しいよ!」

「ほんと⁉︎それじゃあ、早速アレ、しよっか!」


 言葉を失ってしまった。彼女の指している先にあるのは、紛れもなくプリクラの機械だった。それも、カラフルでド派手な。

 初めての放課後デートで初めてのプリクラ。


——僕には難易度が高すぎる…っ‼︎

 

「西条さん…あれってプリクラだよね…?」

「うん!あーし、コーキと一回撮りたかったの!」


 うぅ…っ!期待の眼差しが眩しすぎる…!

 そうだ、西条さんのためにも頑張らないと!

ファイトだ、西村晃樹!


「…よし、行こうか」

「やったー‼︎友達とはよく撮るんだけどさー、コーキとは初めてなんだよねー。初放課後デートの記念だね…っ!」

「そ、そうだね…」


 どうしよう、勢いで入ってきたのはいいけど、どういう顔して撮ったらいいのか分からない…。今までまともに写真なんて撮られたことないのに!

 密室で西条さんと二人きり。

 機械がカウントを始めて、より一層緊張が高まる。


「コーキ、ほら笑いなさいよ!」

「え、あっ、ちょっと!」


 僕の口角を上げて笑顔を作らせようと、彼女は両頬を引っ張った。

 これだと、笑顔と言うより変顔だよ…。


・  ・  ・


「はぁーっ!楽しかったー!」


 僕はものすごく疲れましたけどね…。

 でも、西条さんが楽しんでくれたならそれで満足だ。


「ねっ、コーキ。また一緒に来ようね!」

「…うん!」


 だめだ…笑うと頬っぺたが痛い…。

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