第1話後編3
『ええ。売り上げデータ自体、数値的な意味でも同一と言えるでしょう。だとすれば、あの時に提示したデータは一体……』
サイバンチョウの一言、それは弁護士にとっても、ある出来事を思い出させるものだった。
『ビッグデータと類似したものであれば、ここに……』
トウタクがあの時に見せた売り上げデータ、それこそが実はコンビニから盗まれたものだったのではないか、と。
商品名が黒塗り、コンビニの名称も不鮮明と言うか見づらいものだった。
しかし、その実態が実は……と思えば、納得はいくかもしれない。
(そうか。そういう事だったのか)
弁護士はふと、トウタクが実はコンビニに行かなくてもハッキングが出来たのでは、と考える。
いわゆる遠隔操作型、もしくは事前にプログラムされたものを使えば、現場に駆け付けるだけで容疑者をでっちあげて自分は目撃者を演じる……と言うのも可能なはずだ。
もしくは、近年に話題となっている高性能AIアバター、それを使ってハッキングも可能かもしれない。
丁度、それを題材としたアニメも放送されていたからだ。そのアバターの名前は……。
「弁護側、今回の事件がトウタクにしかできないことを証明できます。先ほど、レインボーブレイカーが提示したデータと……」
最終的に弁護側が何を証拠品で提示したのかは、ライブ映像でも表示されなかったので分からない。
その部分だけ配信が中断したのかと言われると、そうではないだろう。
この証拠品に関しては、意図的にレインボーブレイカーがノイズによって表示させないようにしたためだ。
おそらくは、このタイミングでアレを公開するわけにはいかない、そういう事なのかもしれない。
(おそらく……ガーディアンの狙いは、そこにあるのだろう。しかし、それに乗るわけにはいかない)
レインボーブレイカーは意図的にノイズ交じりの証拠品を表示させたのには、こういう事情がるのだろう。
ライブ配信では、角度的な意味で一部しか映っていないので、そこまでクレームがなかったのだが。
そして、数分後、トウタクは緊急逮捕というかガーディアンによって拘束されることとなった。
渋谷支部が提示した情報もあって、それと弁護側の出した決定的な証拠が決め手になったのだろう。
ビッグデータに表示されていたお菓子は、過去に自分が株を売ったお菓子メーカーものだったのである。
それを踏まえれば、コラボによって株価が上昇した流れは彼にとっても不利な物だったのだろう。
まさか、自滅するような展開になるとは……。
『結局、動機は株の売買に失敗した……なのでしょうか』
サイバンチョウもこの結果には困惑しつつも、総括をしようとしていた。
『今回の事件に無関係であると思われた炎上事件の数々、まさか盗まれたビッグデータが株を売ったお菓子メーカーのお菓子だったとは……』
検事側も、さすがに動揺する。
言いがかりと思われたガーディアンの持ってきた情報やレインボーブレイカーの取り換えしたデータも、実は……と言う意味でも。
『我々は、無実のVTuberを有罪にしようとしていたのですね』
(確かにトウタクの同期として、株の売買に失敗しての炎上から事件を起こした……矛盾はしないだろう)
(しかし、本当にそれだけだったのか? 他にも理由があるのでは?)
サイバンチョウが総括を行っている最中、弁護士はふと思った。トウタクが本当に株の売買に失敗しただけで、あれだけの事を実行したのか、と。
レインボーブレイカーと言えば、特定のフェイク情報などに特化したホワイトハッカーという噂もあったからだ。
確かに、企業勢VTuberとコンビニのコラボと言う話だったが……。
『では、リュウビに判決を言い渡します』
そして、サイバンチョウから無罪との判決を受け、リュウビはほっと一息。
これで一つの事件は幕を閉じるのだった。
その後、トウタクは数時間の拘束を経て、釈放という事になった。
一連の裁判が茶番だったのではないか、そう指摘する声もあったが……所詮はまとめサイトが『バズり』狙いで書いた憶測記事である。
それらのサイトを信用できない、という事で一掃しているネットガーディアンの行動を加速させる結果になったのは言うまでもない。
これらの事件と複数の案件、わずか一か月で起きた事件はまとめサイトをこの世界から追放するには……遅かった。
まとめサイトを一掃したとしても、第2、第3の……と言う可能性があったからである。
「これは、なかなか面白い事を行っている」
一連の配信を見ていたのは、渋谷支部だけではなかった。
ガーディアン以外の勢力も一連の配信をチェックしていた事実を、彼らは知らなかったのである。
レインボーブレイカー、ブラックバッカラ……全ては、ここから動き出すのだろうか?
一連の事件は、始まったばかりとも言えるかもしれない。
パルクールゼロフィールド アーカーシャチャンネル @akari-novel
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