第1話後編2

 その一方、別の電脳空間ではレインボーブレイカーが直線のフィールドを走っていた。


 何故に走っているかと言うと、ゴール地点を目指しているのだが……そこには別の理由もある。


(絶対に、この先には……何かがある)


 ゴール地点にあるであろう何かを目指し、レインボーブレイカーは走り続けていた。


 走るといってもこの場合、VRという事もあって実際に虹坂にじさか姉も走っているわけではない。


 そうなると、ARパルクールにも近くなってしまう。操作関係は、いわゆるVRゲームのそれと同じだ。


 直線コースだけだと、絶対に妨害してくるであろうプレイヤーがこのゲームではいたりするのだが、サービス終了しているので他にプレイしているという人物はいない。


 あくまでも、レインボーブレイカーがハッキングに使うプログラムが、パルクールブレイカーと似ている、と言った方が正確か?


(なんだろう、あのドローン?)


 走っている途中で、ドローンがいくつか飛んでいるのを確認できる。


 コースの途中で妨害してくる車が出てくるようなコースではないと思うのだが……どういうことだろう。


 形状を見る限りは、ゲーム中で出てくるものではなく、取材用などのドローンかもしれない。


(それでも、まだ走り続けないと)


 結局、ドローンの方は少しだけ気になったが、後に見向きをすることもなくなった。


 それ位に走ることに集中した、と言えるかもしれないが。



 そして、レインボーブレイカーは目的地にたどり着く。


 そこにあったのはサーバー群とも言えるようなもの。しかし、ここはVR空間のはずだ。


 それを踏まえると……?


「なるほど。そういう事か」


 そのサーバーのひとつに触れると、サーバーは何かのデータを表示し始めた。


 これが、レインボーブレイカーのハッキング能力、その一部かもしれない。


(データの中身は……!?)


 データの正体は、あの事件で盗難されたビッグデータである。


 どうやら、何かのプログラム経由でこのサーバーへ……という事の様だ。


 このサーバーに何か仕掛けがあるのかもしれないが、今はそれを調べている余裕はない。


 下手に調べたら、それこそクラッカーと勘違いされる危険性があったからだ。


 目的を達成したレインボーブレイカーは、どこかへと向かう様子。


 しかも、VRフィールド内をそのまま走っているのだ。ログアウトをするような様子はない。



 裁判の行われているライブ会場、弁護士の方はあと一歩までトウタクを追い詰めてはいるのだが、決め手に欠けている。


 彼自身は午前6時59分の時間帯にコンビニにはいない。事件が発生し、若干が経過したところを一連の事件に関して目撃していた、と言うのだが……。


 事件が起きた時間が確定している以上、トウタクには決定的なアリバイがある、という事だ。


 元株式系の配信者だったことも、株で損をして炎上したことも事件とは無関係、検事側はそういう判断をしている。


『どうやら、ここまでのようですね』


 サイバンチョウもVRな木槌を叩こうとしている気配だ。弁護士側は頭を抱え、打つ手なしと言う状態に。


 明らかにトウタクが犯人のはず、今まで出てきた情報や証拠も……それを示しているのに。


『それでは、この目撃者に関する……』


 サイバンチョウが裁判の閉廷を告げようとしたその時だった。


 突如として、待ったという声が響く。しかも、弁護士や犯人とされているリュウビではない。完全にこのライブ会場外の第三者だ。


『その裁判、まだ終わらせるには早い!』


 突如として弁護士とサイバンチョウ、検事の目の前にVRモニターが出現し、そこにはパワードスーツ姿のレインボーブレイカーが表示されていた。


『ば、馬鹿な。伝説のホワイトハッカー、レインボーブレイカーが何故ここに?』


 一番動揺しているのは検事側なのは間違いない。まるで、これでは……と言う意味でも。


(レインボーブレイカー……)


 まさかの展開に驚いたのは、トウタクも一緒である。


 彼としては、ここでレインボーブレイカーが来たことは想定外と思っていた。


 それでも……。



『こちらとしても、こういう手段は使いたくなかったけど……あるガーディアンの支部から依頼されていたもの、確かにサーバー内で見つけたわ』


 レインボーブレイカーが見せたデータ、それは盗難されていたビッグデータである。さすがにコンビニ名は伏せているようだが……。


 これに関して異議を唱えようとしたのは検事側である。


 コンビニから盗まれた―データそのものなので、決定的な証拠品ではあるかもしれないが……入手手段的な意味でも無効なものである、と。


『そのデータは、コンビニから盗まれたデータそのものではないですか!』


 サイバンチョウも驚きを隠せない。裁判も終わりかけていた所で持ち込まれたのは、決定的と言ってもいい証拠だ。


 殺人事件などで言えば、発見されていなかった凶器が見つかるような物であり……。


『馬鹿な。そのデータ、どこから発見した?』


 これに反論したのは、何と目撃者側のトウタクである。


 発言的な意味でも、明らかに自分がハッキングをした、と言わんばかりの発言だ。


 しかし、それでもサイバンチョウや弁護士の方も気づいてはいない。


 これが意味するものとは、どういうことなのだろうか?


『このデータは本物とは言えません。コンビニ名も伏せられていて……いわゆる言いがかりです』


 検事側はレインボーブレイカーの提示したデータを見て、異議を唱えた。完全な言いがかりである、と。


「コンビニ名を伏せたとしても、ある程度のデータは同じものと確認できるでしょう。あの時のデータも踏まえると」


 弁護士側は、裁判内でトウタクの持ってきたデータを思い出し、それと同じお菓子の売り上げデータである、と言及する。


 たとえコンビニ名を伏せたとしても、現場の説明は行われており、そのコンビニ以外はあり得ない……。


『ええ。売り上げデータ自体、数値的な意味でも同一と言えるでしょう。だとすれば、あの時に提示したデータは一体……』


 サイバンチョウの一言を聞き、弁護士はふと何かを考え出す。


 あの時にトウタクが提示したデータ、それは盗んだデータをコピーしたものではないか、と。

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