第1話後編1

 裁判が行われている中、突如として該当するガーディアンさいたま支部に他の支部の人物がやってきた。


 ライブ映像に映り込むわけではないので、この段階では中断はされていない様子。


 しかし、この人物は別の意味でも裁判を強制中断させようという目的はあるのかもしれない。



「こちらの支部で、ある人物の裁判を行っていると聞いた。その有力情報を持ってきている」


 ガーディアンの支部長室に突如として姿を見せたのは、ガーディアン渋谷支部の男性メンバーである。


 渋谷支部長から情報の調査を命じられ、その情報をもってここへやってきたのだが……時計の方は午前9時を過ぎたあたりだ。


「有力情報? 我々は、そういうものを用意してほしいとは言っていないが……」


 さいたま支部支部長の男性は、情報を集めてほしいとは言っていないのに、突如として渋谷支部が介入してきたことには驚く。


 ガーディアン同士で潰しあいは禁止されているのだが、逆に言えば渋谷支部が今回の件を手柄にする可能性は否定できない。


 あくまでも今回の事件はさいたま支部の手柄……そういう事にしたかったのだろう。


「そうは言うが、こちらもこちらで別の事情がある。すでに他の支部にも情報提供済みだ」


「なるほど。特殊詐欺などのような非常事態、と言いたいのか?」


 大型事件、それも特殊詐欺や悪質な転売ヤーと言った情報は、即座に他の支部にも情報が伝わり、行動に移す……それがガーディアンだ。


 しかし、ここ数日は高性能AIアバターである『ブラックバッカラ』の存在もあって、下手に情報をサーバーへ流すと、向こうへ手の内を見せる事になりかねない事情もある。


 そうした対策を行ったうえで行動しているネットガーディアンと言う、自分たちとは無関係なガーディアンを名乗る組織の台頭も許しているのだが……後手後手に回ったのは。


「どう受け取ろうが勝手だが、こちらとしても情報伝達の不備を理由に処分はされたくない事情もある」


「秋葉原本部長のマークもある。公式の情報という事か」


 データの方を目視でチェックし始めるさいたま支部支部長、表紙には秋葉原本部長の承認を得ているという電子マークもあった。


 そう、実際に手渡したのは電子タブレット内にあるデータだったのである。


 タブレット自体はさいたま支部の持ち物なので、渋谷支部としてはデータだけを転送すればよかったのでは……と言う話にもなるが。


「内容は理解した。これならば、直接来なくてもよかったのでは?」


「さすがに、そうも言っていられない事情はあるので」


「事情? 何のことだ」


「そちらの支部で不正な証拠やデータなどを利用し、冤罪の人物を検挙しているという情報を入手した」


 渋谷支部のメンバーから聞かされた衝撃の内容、それを聞きさいたま支部支部長は、別の意味でも言葉を失う。


 ある意味でも沈黙と言えるような空間が、数秒ほど続く。



「不正な証拠? 何を根拠に?」


 さいたま支部支部長も言いたいことは分かっていた。


 しかし、そうした証拠は一切ない。それこそ、渋谷支部の言いがかりだろう、と思っている。


「今の段階では、そうした証拠はない。他の支部からの伝聞などだ」


 渋谷支部のメンバーも、明確な証拠があって言ったわけではない。


 しかし、情報を調べていくにつれて、そうした部類でないと片づけられないような技術を使った痕跡があるのも、また事実だった。


「伝聞だと……それこそ言いがかりだ!」


 やはりというか、フラグな発言を支部長はする。それに対し、渋谷支部のメンバーは冷静ではあった。


 逆に言えば、この冷静な態度は何か別の証拠があることを思わせるのだが。


「言いがかりかどうか、いずれ分かりますよ。今は、裁判を休廷することを推奨します」


 その一言を聞き、さいたま支部長はスマホを手に、裁判を行っているライブルームに連絡を行う。



「先ほど、渋谷支部から秋葉原本部長の承認済情報が来た。それの審議を行うため、30分の休廷を指示する」


『このタイミングで? 今、同時接続でも数万は超えているというのにですか?』


「こちらとしても本部長の承認した情報は無視できない。それに、今回の裁判にも関係あるものだ」


『わかりました。この後、30分の休廷をするように指示をいたします』


 ライブルーム側も慌てているようだが、これも仕方がないのだ。


 今回の配信では投げ銭のようなものは使用不能になっている一方、配信内で宣伝がいくつか入ることで、CMのロイヤリティーを得ているような状態だ。


 ある意味でもテレビ番組で野球でいう表裏の入れ替わりでCMを流しているような形式で、配信を行っている。


 唐突にCMが入って、ライブ感を損なうよりは……という事だろう。



『先ほど、ガーディアン渋谷支部より重大な情報提供がありました』


『この情報の真偽を確かめるため、これより30分の休廷をいたします』


 サイバンチョウから唐突な休廷と言う発言……検事側、弁護士側もあまり慌てている様子はない。


 むしろ、弁護士側にとってはトウタクを追い詰めるチャンスと考えているのだろう。


(ガーディアン渋谷支部? 一体、どんな情報を……)


 弁護士は渋谷支部からの情報提供に驚きつつも、どのような情報を……と言う部分はあった。


(ガーディアン渋谷支部だと? こちらもガーディアンのはず。一枚岩ではないというのか?)


 一方でトウタクの方は、向こうが自分に不利な情報を提供するはずが……という事で、若干の動揺をしている。


 明らかに犯人であることをアピールしているかのような動揺の仕方に対し、それを見ているリュウビも無言で彼の方を見ていた。



 30分後、時計は午前9時40分辺りを指し示している。


『お待たせしました。まずは……』


 サイバンチョウが再び姿を見せ、裁判再開か……と思われた中、異議を唱えたのは検事側である。


 姿を見せたといっても、瞬間移動のような出現演出なので、驚く視聴者はいるかもしれないが。


『この情報はあり得ません。言いがかりです!』


 検事側が異議を唱えるのは無理もない話だ。


 トウタクが実はVTuberを始める数か月前、株式関係の配信者をしていたという事実、それによってインサイダーまがいの配信を行って炎上したことも言及されている。


 当時のニュースでは『複数の個人投資家がインサイダーにも似たような、不正な取引を闇バイトとして行った』と報道されているのだが……。


 実際は違っていた。このインサイダーまがいの株式売買を指示していた人物こそ、トウタクだったのだ。


「当時のニュースでは闇バイトとして複数の人物がこの企業の株式を大量に売り、その利益を得ていた……」


「今も株式投資を解説する配信者はいますが、その数人はトウタクがきっかけで配信を始めたとも……」


 弁護士側は、これをチャンスにして畳みかけようとする。


 実際、トウタクが先駆者となり、株式投資系配信者も増え始めた、と当時のまとめサイトも書いていたほどだ。


『しかし、それはまとめサイトの記事に過ぎない。アフィリエイト利益を目当てにしたサイトの情報を鵜呑みにするとは、弁護側も……』


「ですが、これは犯行の動機である可能性が高い。何らかの株の売買で失敗、そこで株式投資配信者を引退、そこから歴史系VTuberをはじめた……」


『犯行の動機はリュウビが企業系VTuberに逆恨みした……それで間違いはないのです。今更……』


「それこそでっち上げでしょう。逆にトウタクが犯人である可能性も否定できない」


 検事側と弁護士側のバトルが展開していた。


 まるで……という事で、いつの間にやら同時接続10万人を越えようとしている。


 今回の情報提供が、思わぬ呼び水となったという意味でも。

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