第1話中編2

 裁判内では、こうしたやり取りも行われていた。


 弁護士はビッグデータを盗んだのはリュウビではない、そう考えている。


 しかし、検事の方はビッグデータを盗めたのはリュウビしかいない、そう考えているのだろう。


「今回のビッグデータ、バックアップはないのですか?」


 弁護士がバックアップデータを出すように要求するのだが、検事の方は事件との関連性が認められないので拒否する。当たり前ではあるのだが。


 もしかすると、インサイダー取引関係などでビッグデータが盗まれた可能性もあるだろうが、あくまでも今回の事件とは関係ない。


 今回はVTuberコラボが中止に追い込まれたビッグデータ、その盗難を取り扱っているのが理由だろう。


『しかし、盗難された以上、コピーはないのでは?』


 サイバンチョウのいう事も一理ある。


 重要な流通データなどの部類であれば、バックアップデータを自社のクラウドに保管することはあるだろうが……。


『その通りです。盗難された以上、メインのデータはない。バックアップはあったとしても……』


「待った!」


 検事の発言を遮るように、待ったをかけた人物がいた。その男性は目撃者の人物だったのである。


 彼は、この前にもいくつかの目撃証言を行っており、犯人はリュウビ以外に考えられない、そう思わせるような証言ばかりをしていた。


 彼も歴史系VTuberとして活動しており、トウタクと名乗っている男性だ。同じく三国志に由来するであろうネームであり、扱うのも三国時代がメインである。


 リュウビ同様、ゴーグルを着用しての登場。更に言えば、リュウビとは別部屋でVR裁判を受けているという状態だった。


『ビッグデータと類似したものであれば、ここに……』


 彼がサイバンチョウに見せたもの、それはあるお菓子の売り上げデータだった。ただし、商品名は黒塗りなのは仕方がないのだが。


 このデータ自体、彼が別の人物から秘密裏に入手したと言及はしているが……明らかに怪しい。


 もしかすると、彼が盗んだデータではないか、そう弁護士は考えている。


『お菓子の売り上げですか……こ、これは!?』


 サイバンチョウも、黒塗りではあるのだが異常な伸びをしている箇所には驚いている様子だった。


『このお菓子メーカーのお菓子は、コンビニコラボの常連で、今までもキャンペーン中には売り上げが伸びるのです』


『被告人は、このデータを踏まえて犯行に……』


 検事の方も言及するのだが、弁護士の方が異議あり!と叫ぶ。


 今までの話の流れを踏まえると、リュウビの無罪は確定的に明らかであり……。


「彼は歴史VTuberとして活動はしています。しかし、このコンビニ行われたキャンペーンに三国志関係のコラボはない」


 言いたいことは一理ある。


 ラノベ、テレビアニメ、ソーシャルゲーム、実在アイドル……様々なコラボでお菓子の売り上げが上下するという、異常なグラフを見て弁護士も異議を唱えるのだが、それに反論するのは検事の方だ。


『しかし、このコンビニで三国志関係のコラボはなかった。偉人の美少女化、刀剣の擬人化と言ったような作品のコラボは、あったようですが……』


『つまり、被告人は三国志に関連したものであれば、情報を収集しようとコンビニに立ち寄った。これは間違いないでしょう』


 検事の方も別の意味で反論し、トウタクは無罪であると言及。犯人はリュウビ以外にあり得ない、と。


 間接的に三国志にも登場した武器や武将、そこが絡んだ物であれば情報収集のためにコラボグッズを手にするのでは……と言うのが検事の説明だった。


「きっかけが三国志だけとは限らない。そうは思わないのですか?」


『確かに、それはあるでしょうね。しかし、彼の場合はそうでない事情もあった。だからこそのハッキングだった……』


「彼がVTuberコラボに対して恨みを持つような理由もない。明らかに……」


『確かにコラボで何らかの個人的な恨み、そういった物は今までの証言でも確認はされていません。しかし、別の理由が……』


 その後の弁護士と検事のやり取りは、いくつかのボロが出てきたような発言もいくつかある。


 つまり、リュウビは無罪である可能性もあるのではないか、と。


 視聴者の方も一部で気づきつつある人物がおり、虹坂にじさか姉(仮名)もその一人だった。


「そろそろ、始めるとしますか」


 彼女はパソコンのスイッチを切ることなく、部屋に置かれていたVRゲーム用のメットをどこからか取り出した。


 草加市内ではARゲームの方が知名度的にも高いものはあるのだが、それがVRゲームの不人気とはイコールしない。


 しかし、彼女がこれからアクセスするのは……。


「まぁ、これが本来の本業でもあるのだけど」


 一連の裁判を見て、彼女には決定的な証拠が弁護士には必要なのではないか、そう睨んでいる。


 それに加え、明らかにビッグデータと言ってもピンポイントで盗まれたというのはおかしいし、それを理由にコラボが休止するのも変だった。


 いわゆる脅迫状とか炎上が理由のコラボ中止ではない。今回の休止は、事件を受けてのものだが……。

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