第1話中編1

 突如として検事が弁護士の発言に対し、異議あり!、と。


 被告人を明らかに……と言う気配もするかもしれないが、どういうことだろう。


 彼の余裕の笑みは、別の意味で負けフラグなのではないか……とも。


『お忘れですか? ここは埼玉県……』


『事件の起きた草加市のコンビニは、ARゲームのテーマパークともいうべき大規模施設であるオケアノスの近くにあるのですよ』


『スマホが使えなくても、高性能なARゲーム用のガジェットを使えばハッキングなど……』


 検事は事件が起きたのが草加市、それもオケアノスが近くにあるコンビニである点を挙げ、彼にもハッキングは可能だったと言及した。


 確かにARガジェットの技術力は未知数であり、明らかに……と言うのはある。


 一体、この検事は何を説明しようというのか?


「しかし、彼がARガジェットのようなものを持っていたとは……」


 弁護士はリュウビがARガジェットを持っていたとは限らない、と言及するのだが……やはりというか、検事の方が異議を、と言う具合だ。


『場所によってはレンタルガジェットもあります。数人ほどの同じコンビニに入店していた客が、彼のレンタルガジェットを目撃している』


『レンタルガジェットの形状は、共通規格でスマホと似ているのでスマホと勘違いしたという人もいます』


『おそらく、一部の目撃者はARゲームの方を知らないのでスマホと答えたのかもしれません』


『レンタルなので、返却は対応している店舗で有ればどこでもできる。コンビニでも返却可能であれば、返却するつもりだったのでしょうね』


 まさかの展開である。


 検事の説明によると、リュウビはARガジェットを所持していたというのだ。


 レンタルなので、拘束される前に返却してしまえば……と言うことらしい。


 しかし、拘束時には返却された形跡はない。彼の所持していたスマホ、それがARレンタルガジェットだというのだ。


 弁護士の方は情報をアップデートし、所持していたのはスマホではなくARガジェットと記述を修正する。



 この後もある程度のやり取りはあるのだが、場面を移動することにする。


 この裁判をライブ配信経由で視聴している人物がいた。



 午前8時30分、朝食を済ませて自室で一連のライブ動画をパソコン経由で見ていたのは、一人の女性。


 服装は明らかに部屋着であり、外向けではない。だからと言って、セクシーな衣装でもないのだが。


 身長も170を若干超える程度、セミロングにメガネをかけた……と特に目立つ特徴はないように見えた。


「彼が有罪とは思えないけどね。ガーディアンも無実の人物を炎上に利用するとも考えにくいけど」


 彼女は、一連の裁判を見て、リュウビが犯人とは考えづらいと考えていた。


 ある行動が、不審に見えた……という事だけの決めつけにも思えている。


 しかし、彼が無実であるという決定的な証拠もない。一種のもやもやを抱えつつ、彼女は裁判を見ていたのだ。


 彼女の名前は虹坂にじさか姉(仮名)、苗字がとある人物と同じような感じはするが……いずれ分かる、とだけ。


 虹坂姉は、一連のビッグデータ盗難が別の犯人がいる、と言う考えをしていた。


 もしかしたら、目撃者として証言している人物が犯人なのではないか、とも。


 明らかに証言している目撃者は1人だけ、他の有象無象な目撃証言をした人物がいないので……ほぼ確定だろう。



 一応、ARガジェットがあれば、そのオーバースペックもあって容易にハッキングも可能かもしれない。


 一種の裏サイトを調べれば、そうした違法改造技術は……と言う具合だ。


 個人勢のVTuberにそういった芸当が本当に出来るとは思えない、そう結論付けている。


 そうした情報に精通した人物であれば話は別だが、歴史関係の解説を行うVTuberにそのようなことはできるのか……と言う疑問もあるだろう。


(もしかすると、一連の事件は企業勢の……)


 虹坂姉は、ふと自分の調べていた事件の数々を思い出す。


 あるVTuberを扱う企業……企業勢を炎上させて、大量の利益を得ようとするまとめサイトや一個人のインフルエンサー、そうした存在は令和になっても確認されていた。


 そういった事例は平成の時代だけで終わってほしかったとは思うが、SNSの発展は様々な技術を悪用し、それを一個人の利益のために……と言うような事例もある。


 そうした悪意ある勢力を一掃すべく、虹坂姉はVR空間を走るランナーとして活動していた。ランナーに見えない外見ではあるのだが。


 VRで活動するランナーが裁判の動画を見ているのはどういうことなのか? それが、虹坂姉の考える企業勢を炎上させる要素があるというのか?



 その一方で、ガーディアン渋谷支部、そこで一連の動画を見ていたのは渋谷支部長だった。


 しかし、この支部長は対電忍段階で支部長となった人物とは異なる。その証拠に、顔が映り込むようなシーンではビジュアルが隠れているというか……と言う具合。


 支部長室自体のビジュアルは、対電忍における渋谷支部とほぼ同じ……ガーディアンの支部長室自体、簡素な部屋になっているのは草加支部と春日部支部位だが。


 部屋自体は豪華と言うわけではなく、窓からは100万ドルの夜景が見えるようなこともない。いわゆる、ビジネス的な社長室と言うビジュアルでもあった。


「茶番だな。明らかに炎上勢力に対しての見せしめだろう。犯人がトウタクなのは明らかだ」


 彼は、この動画がガーディアンによる一種の炎上勢力に対する見せしめの動画だと考えている。


 ガーディアンと似たような名前を持つネットガーディアンと名乗る勢力が、現状ではガーディアンよりも実力があり、彼女らの活躍の方がSNSで『バズ』る状態。


 それを踏まえると、ガーディアンは2番手になっているだけでなく……ネットガーディアンの劣化版みたいな立ち位置にされていたのだ。


「しかし、盗まれたビッグデータ……気になりますね」


 支部長の目の前にいる人物、彼はガーディアンのメンバーの一人。名もないような男性メンバーと言える。いわゆるモブキャラだ。


「お菓子の売り上げデータ、とは言及されたな」


「コラボのないときには売り上げが下がり、ある時には売り上げが上がる。コラボによっては売り切れのケースもある様子」


「その様子を株の売買に例えるようなまとめサイトもあった、炎上勢力が『バズ』に利用するような口実だよ」


「果たして、そうでしょうか?」


 やり取りをしているうちに、メンバーの男性はふと疑問に思う個所があった。


「あのトウタクと言う人物、どこかで見覚えがあるのですが」


 この一言を聞き、支部長はトウタクのデータを集めるように指示を出す。


 歴史VTuberと言うらしいが、配信は数回ある程度。その為、まともなデータが集まるかどうかは不確定だ。

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