第1話前編2
まさかのコンビニ内における騒動から、わずか1時間後の午前8時。
ガーディアンの公式サイトでは何やら謎の動画が公開された。動画と言うよりはライブ配信かもしれない。
その内容は、別の意味でもまさかの物だったという。
『これより、リュウビの裁判を開始する』
裁判所内部を思わせる場所からのライブ中継……ではなく、実はメタバース空間というかVR空間と例えられるような場所かもしれない。
中央というか、被告人席の前にいるひげを生やしたアバターの男性、彼はサイバンチョウ。今回の進行役と言うべきか?
服装もいかにも裁判長を思わせ、身長は180にも迫るような長身の男性だ。一応、こちらもアバターなので違和感はないと思う。
ひげは生やしているが、そこまでは長くないし、頭もスキンヘッドではない。
そこまでやると、別のゲーム作品の方を……連想してしまう。一般的な裁判長をアバターで再現はしたのだが、他の創作作品イメージで引っ張られるのを防ぐ狙いか?
裁判所セットには、検事及び弁護士もいるようだが、いわゆる形式上でいるだけの様子。
警察に捕まったわけではなく、あくまでガーディアンが拘束したものだ。
厳密に言えば、拘束と言えるかどうかも(様々な観点から)疑わしい。任意同行の部類かもしれないだろう。
それなのに、裁判所のような場所に連れていかれて、被告人扱いとは……リュウビは、そう思っているかもしれない。
そういった個所や複数の点を踏まえて、形式上で裁判っぽくしているだけなのかもしれない。
同時接続者数を増やすためと言うよりは、ガーディアンが摘発しているような炎上案件を起こせば、こうなるという見せしめの部類と言う可能性はゼロではないだろう。
その裁判所セットにいる検事役と弁護士役も、もしかしなくてもアバターという立ち位置だろう。弁護士の方は、かなり準備期間もないままでの……と言う状態。
検事の方も同じような……と思えるが、この検事はガーディアンのメンバーなのかもしれない。
ここにいるのは、あくまでもサイバンチョウと被告人であるリュウビ、検事役の貴族アバターの男性、弁護士役のアバターの男性だけだ。
ギャラリーは無人状態、いわゆるリモート扱いである。
貴族の方は、いかにもファンタジー系ラノベなどで目撃しそうな敵側の貴族……それもチュートリアルイベントで倒されそうなアバターと言う外見だ。
この段階で、被告人の方が無罪なのでは……と確実に分かってしまいそうだが。
おそらく、目撃者なども後で出てくるかもしれない……。
(自分は、何もやっていないというのに……どういうことなんだ)
そして、被告人の席にいるのは三国志に出てくるような武将の外見をした男性VTuberだった。おそらく、彼がリュウビなのだろう。
あの時にコンビニで拘束された人物なのかもしれないが、あちらとは外見も大きく異なるのが……この裁判の特徴か。
この裁判、実はガーディアンさいたま支部のVTuberスタジオで行われており、スタジオ内には彼一人しかいない。
一応、アバターを見るためのゴーグルは着用しており、それを通して裁判の光景を見ているのだろう。
弁護士や検事、サイバンチョウは全てアバターとして合成表示されているのだ。
(一体、ガーディアンは何を……)
この後にも様々なやり取りはあったようだが、ざっくりと割愛する。
ちなみに、この裁判の様子はガーディアンさいたま支部を通じて、ガーディアンの各支部及び会員などに一般公開されていた。
『事件は本日の午前6時59分、草加市内のコンビニで発生しました』
『コンビニで取り扱うビッグデータの一部が、突如として盗難……』
『この盗難事件によって、午前7時から行われる予定だったコラボが延期となっております』
『その際、不審な動きをしていたリュウビを拘束し……』
開始から5分後、検事役の男性が事件の説明をするが、そこでサイバンチョウが一つ指摘を行おうとしていた。
『待ってください。ビッグデータとは? コンビニの店内で盗まれるような物でしょうか?』
『ビッグデータと言う以上、下準備なしで盗めるようなものではないでしょう』
確かにサイバンチョウの言いたいことは分かる。コンビニの店内でデータが盗まれるなんて、ある意味でも前代未聞だからだ。
そして、検事はコンビニの売り上げデータであることを説明したうえで……。
『データと言っても、商品の売り上げデータ。些細な部類と言えるでしょう。商品の流通などにトラブルがなかった関係で、盗まれたデータにも気づかれにくかったのかもしれません』
『そのデータも、いわゆるハッキングの手口で盗んだのでしょう。過去にもランサムウェアなどを利用してデータが流出した事例は、数多くあります』
『コンビニ店内からビッグデータを盗み出すという手口で、被告人は……』
検事の発言に関して待ったをかけたのは、弁護士の方である。
「コンビニの売り上げデータですか……。あまりにも規模が大きくては、容量の関係で容易に取り出せないのでは?」
「それこそ、コンビニ店内ではなく、自前のパソコンで自宅などからハッキングを行うでしょう。彼はそういった道具を持っていた形跡もない」
反論する弁護士のいう事も一理ある。
コンビニに入店した際、リュウビは電子マネー決算用のスマホと財布にある程度のお金とコンビニで使うポイントカードを持っていた。
スマホに関してもごく一般的なもので、ハッキングが出来るような性能があるとは思えない。それを想定しての反論だったが……。
『異議あり!』
異議を唱えたのは検事の方だった。とある裁判を題材にしたゲームのように、堂々と異議ありと叫んだのである。
しかも、余裕の笑みすら浮かべている。一体、この余裕は何を示すのか?
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